Episode25 所属していた

「そういうことだったのか……。最後の方は照れ臭すぎるがな」

「いいじゃないですか。私のことですから」


 遊は顔を赤くした。だが、七瀬が忌み子であったことに対して施設に預けたはずの父親が今となって狙うんだ……?


 その部分だけが引っかかっていた。だが、それを単刀直入に聞ける自信がなかった。


「……ッ⁉︎」


 待てよ……。七瀬が忌み子なのはわかった。それならそれを使って動かせることもできる。なら、なんでついこの前柿田は狙わなかった。あの時の話通りなら忌み子を手に入れたがっていたよな。それなら、この仮説が出る。


 柿田が知らなかった。


 なら、七瀬の親父だけが知っていたことになる。ってことは……。


「……」


 遊の目の瞳孔が大きく開いた。そして、冷や汗が滴り落ちる。


「七瀬……」

「はい」

「今から零を起こしてくれ……」

「え?」

「今すぐ行くぞ。ここで応対する訳にはいかないからな」

「え、ちょっと、どういうことですか⁉︎ どういうことか説明してくださいよ!」

「早くしろ。状況がわかったら説明する。早く零を起こしてくれ」


 遊は立ち上がって寝間着から薄着の服に着替え始めた。七瀬は何がなんだかわからず混乱していたが零を起こした。


「零ちゃん。起きて」


 耳元でそっと囁くと身を震わせて目をゆっくりと開けた。今は夜の十一時前。急に起こされてまだ眠そうだった。


「何?」

「え、いや〜。先輩に聞いてくれるかな?」


 七瀬は返答に困り遊へと助けを求めた。


「行くぞ。厄介なことになりそうだ」


 遊の言葉で何かがあることを確信した零は目をパッチリと覚まし頷いた。零もすぐに衣服を着替え準備した。


「さて、どこで待ち構えてやるとするか……」


 そんな強気を言っているが不安しかない。まず、戦う相手の強さが本当にわかり切っていないこと。そして、七瀬の特性。話を聞いている限りだと四特性のとは違う気がするのでどう発現するかが全くわからないのだ。


「詰んでるな……。これ」


 遊がポツリと言った。


「大丈夫です。私がどうにかしますから」


 七瀬が聞いていた。両手を握って祈るようにしていた。


「お前の特性、まだ聞いていなかったが何なんだ?」


 遊は率直に聞いた。だが。


「ダメです。先輩にだけはまだ見せれません」


 頑なに首を振った。


「いや、だからさ。俺、一応治維会入ってるの知ってるでしょ? 特性は分かるんだっ……」

「いえ、そういうのではなくて私のは少し特殊なので……」


 遊はそれ以上の質問はしなかった。だが、ある程度の種類までは検討がついている。そこから先がわからないだけなのだ。そう話しているうちに零が着替えてきた。


「準備オッケー!」

「じゃあ、行くぞ」

 玄関の扉を開いた。



 七瀬元靖はとある丘で待っていた。

 丘の頂上へと続く石段に座り込みタバコを吸っていた。フーッと息を吐き出すと灰色の煙が飛び出した。


「しっかし、あの日暮ってやつ。面白いやつだなぁ……」


 タバコを吸うと同時にスマホで遊のプロフィールを見ていた。経歴には治維会所属前、『忌み子解放事件』を引き起こした人物であると書いてあった。


「堂々と書いてるなぁ……。治維会も捻くれた奴には容赦ないな〜」


 それを見て笑っていた。すると、足音が聞こえた。


「フッ……」


 そう不敵に笑うと立ち上がりその足音の主の方を見た。


「七瀬さん。パクらないでくださいよ。しかも、最初の獲物があなたの娘さんだなんて……。手放したの勿体無くないですか?」


 柿田だ。


「そうだな。勿体無いと思ったな。忌み子である君はその点には困らなかったようだけどな」

「全くね。後は同じ思考の持ち主の人間をかき集めるだけだ。それほど楽な作業はないさ……」


 いつの間にか彼の後ろには総勢二十人近くの忌み子が揃っていた。だが、七瀬は全く怯まなかった。


「ここで俺を殺すと……?」

「そりゃあ、そうだよ」


 柿田は手を大きく広げて微笑んだ。


「俺の成果を見て良さそうだなと思って作戦を取られるのは何だか癪だからなぁ……」


 トーンを落として睨みつけるように言った。


「フン……。いいとこ取りをするわけよ。俺は。それが昔から変わらんやり方だからなぁ……」


 そんな柿田を嘲笑うように見つめて七瀬は言った。


「それなら、宣戦布告ととっていいのかな」


 柿田は右手を上げ合図をした。


「いいぞ。俺はいつでも戦ってやるさ……」


 元靖は立ち方を変えた。何かの動作になるのだろう。


「行くぞ……」

「いつでも……」


 それぞれが睨み合った。そして、開戦は柿田の方から始まった。なぜなら。


「先生! こいつらぶっ飛ばしていいんですよね?」

「もちろん。君なら余裕だろ?」

「ああ、そうだな!」


 元靖と行動を共にしていた颯斗が柿田陣営の忌み子たちに被害を与えたからだ。


「なッ⁉︎」


 柿田は驚いていた。


「俺がここで一人でいる時点でそこに気づけなかったのかい? やはり、脳筋だな。頭脳で戦えないと意味はないぞ……」


 元靖は見下すような口調で言った。


「クソッ……。奏多を連れてこれば良かった……」


 その間にも混乱に乗じて来た颯斗が忌み子たちを薙ぎ倒していた。だが、柿田に加勢していた忌み子たちは全く動けていなかった。的確に敵の急所を狙い、躱す。そんなことを繰り返していたからだ。だが。


「くたばれ。そのクソが……」


 混乱から解け、状況整理がついた柿田が颯斗に大きな一撃を与えていた。それで地面に倒れ伏せ一方的にやられ始めた。


「はぁぁぁぁッッッッ!!!!」


 颯斗はそれを特性、打撃特性を活かし、地面に衝撃を与え身を起こすことができた。そこからは脛を狙って蹴りを入れ、ストレートパンチを入れて数人を吹き飛ばし出来た間から抜け出した。


「やるなぁ……」


 柿田が感心したように言うと颯斗は笑った。


「僕だけじゃないんですよ?」

「⁉︎」

「最初、相手してたのに忘れてたんですか?」

「フンッ!」


 柿田の脇腹に元靖の強いアッパーが刺さった。元靖は忌み子ではないが軽く柿田を飛ばしていた。そして、柿田は地面に座り込んだ。


「悪いが、俺も昔、いたからなぁ……」

「⁉︎」


 元靖は嘲笑いながら言った。柿田は何か気づいたように反応した。


「治維会に」


 元靖が来ていたスーツの下には治維会で配られているアビリティスーツが姿を見てせいた。


「お前……。治維会にいたのか……⁉︎」


 柿田は状況を呑み込めずにいた。


「フン……。お前が知る必要はない」


 元靖は柿田を見下すように言った。そして、ゆっくりと迫って行った。


「さて、ここで死んでもらおうか……」

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