Episode22 理由

「お前がやったんだな……?」

「そうだ」


 遊はここに疑問を感じていた。わざわざここで公表する必要はないと思ったからだ。このタイミングなら上司と部下との関わりとだけ言っておけばいいのに。


「じゃあ、なんでこんなことをした……!」


 だが、相手があえてそういうことを見せびらかすのならこっちの応答して裁きを下さなければならない。そう思った。


「簡単に言えば、邪魔」

「!」


 元靖はゲスい表情で松本を見ながら言った。松本はただただ傍観するだけであった。


「俺の計画にね」

「どういうことだ?」


 今は松本に変わって遊が気になっていることを聞いていく。


「俺の側近についたあの三人は他の連中より俺のことを知っている。だから、色々と思い当たる節があるのだろ?」

「……」


 元靖の言葉に反応したのか松本が下を向いたまま顔をあげようとしなかった。


「ほらな。それに一番の障害になっているのは君、日暮くんだよ?」

「は?」


 突拍子に遊へと話が振られた。


「君、俺の娘の千紘を預かってるだろ?」

「⁉︎ なんでそれを⁉︎」

「なら、正解だな」


 元靖は指パッチンをした。


「君たちにはここで死んでもらおうか……」


 そして、ここに現れたのは一人の忌み子だ。それは……。


「颯斗……」


 つい先日神社があった丘の裏であった少年だ。


「先生。やっていいんですよね?」

「ああ」

「わかりました」


 颯斗は拳闘の構えをとった。遊はそれに応答してスーツを装着した。


「お前、彼女には何も言ってないんだな」

「そうだ……。隠し事の一つや二つ気にすることもないだろう……」

「そうか」


 遊はそう呟いて目の前の敵に集中した。


「ハァッッッッ!!!!」


 颯斗が地面を大きく蹴って遊との距離を縮めた。遊は冷静な対応でその動向を探った。颯斗は右ストレートを突き出し、遊はそれを避け迎撃を開始した。

 左足の蹴りを腹へと入れ、スーツを有効に使い地面へと叩き落とした。颯斗はその反動で一度地面にひれ伏せたがそれでも立ち上がった。


「クソォぉぉぉ!!!!」


 颯斗が迫ってくるが遊はヒラリと避けて颯斗の背中に蹴りを入れて遠くへと吹き飛ばした。そのまま近くの建物に当たり埃がまった。


「やるねえ……。報告以上だなぁ……」


 元靖が感心したように呟いた。


「は? どこから俺を調べたんだ」


 遊は尋ねた。どうすれば学校以外の情報を手に入れることができるのか。全くの無名の人物をどうやって知ることができたのか。そんな疑問が浮かぶ。


「柿田からだな」

「⁉︎」

「あいつを撃退するほどだから結構やるやつなんだろうなとは思っていたけどなぁ……」


 遊はその場に固まった。


「それ以上ときた。面白いなぁ……」


 ただ傍観することしかできなかった。このことを聞いてとあるピースが埋まった。


「お前は『Blood Hells』の人間か……?」


 遊は恐る恐る聞いた。そして、元靖は大きく笑って言った。


「ああ、そうさ……。柿田と同じように動いてるわけさ」

「日暮、大丈夫か……?」


 松本は急に固まった遊を心配して呼んだ。だが、遊は動く気配がなかった。


「知ってるか?」


 元靖は呟いた。


「柿田も俺も、お前を狙ってたんだよ」

「何?」

「そもそも、君が治維会に所属する時点でかなりの人物に知られているんだけどな……」

「解放事件のことか……」


 松本が解説を入れるように呟いた。


「そうさ……。その時から餌食だったわけよ……。そいつのパートナーとして動くやつもな……」

「零……」


 遊は内心で呟いた。

 そうとなると柿田の時に拐われたとしても結果的にこいつに拐われたってわけだ……。


「クソが……」


 遊は吐き捨てた。奥の方で瓦礫が動く音が聞こえた。


「それであんたの娘を預かってることとどう関係があるんだ」


 遊は話を戻すように促した。


「そうだね……。千紘も含めて俺の元へ来てもらってから話してやるよ……」

「断る」

「早いね……」

「そりゃそうさ。何に使う気だ」


 遊は身構えた。


「君も聞いているだろ?」

「何をだ」

「柿田が狙っている人物のことだ……」

「……てめえらのボスを決めるやつのことか……?」

「ああ、そうさ……」

「お、おい日暮。何の話を……?」


 松本が内容に追いつけないらしく話の中断を求めた。だが。


「黙ってろ、松本。お前には後できっちり話してやるから」

「⁉︎」

「早く逝け……」


 すると、松本の後方に颯斗がいた。


「い、いつの間に……!」

「いつだっていいじゃねえかよ……」


 颯斗はナイフを松本の首筋に当てていた。松本の頰に冷や汗が流れていた。


「ま、ともかく君達は忌み子を集めていた柿田を撃退した。君が柿田の友人だからかもしれないが君の力を評価してるわけよ」

「どうも、だからって七瀬とは関係ないじゃねえかよ!」

「俺も七瀬だがな」

「黙ってろ! クソが!」

「千紘の力を君は知らない。だから、関係ないと言える」

「どういう……?」

「そのうち知るだろう……」


 元靖は誤魔化して言った。


「では、松本の命だけ頂いていこう……」


 そう元靖が言うと颯斗がそれに対応するようにナイフを松本に突きたてた。遊は動けなかった。なぜなら、元靖が銃口を遊の後頭部へと当てていたからだ。


「俺も消す気か?」

「そうしたいが無理だな。君とは直接戦いたいものでね」

「全てを知ってから来いってことか……」

「そういうことだな」


 元靖は淡々と答えた。


「颯斗、撤収だ」

「でも、先生。こいつは?」

「ほっておけ。目的が変わった」

「わかりました」


 颯斗は松本から離れて行った。


「では、またどこかで」


 そう言って元靖は颯斗を連れて姿を消した。

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