Episode23 並ぶ二人

 遊はただただ眺めるだけだった。何も出来ずに引き退らせた元靖たちを。


「遊、大丈夫か?」

「あんたに言いてえよ」


 松本は言った。が、冷静に遊はそれを返した。つい先ほどまでナイフを突き立てられた人物とは到底思えなかった。

 松本が砂埃を払っている途中、遊はポツリと言った。


「やっぱり、驚いてるのか?」

「そうだな。ただのコマとしてでしか使われていないこともな」

「そんなに信頼してたのか?」

「まあな」


 遊は察したように何も言わなかった。松本はそう言った後に立ち上がった。


「こっからどうする?」


 遊はここから移動しようとする松本に尋ねた。松本の車は先ほど壊されたため何も出来ない。


「ここに警視庁の人間を呼ぶことと長官を指名手配だけはしようかと思う」

「指名手配まではいいんじゃないか?」

「何で?」

「あいつ、確実にどこかで俺の前に立つからだ」


 遊は何かを見据えたような目で言った。


「……そうか。だが、警視庁内には情報をリークしておくぞ」

「了解。じゃあ、俺は戻るわ」


 遊はさっき来たルートへと戻った。


「じゃあ、またな」

「ああ」


 松本の挨拶を背中で返した。そして、闇に紛れて遊は自宅へと帰って行った。



「ただいま〜」


 遊は自宅へと帰って来たが零も七瀬も寝ている様子で部屋の電気が豆電球に変わっていた。玄関で靴を脱いで居間へと行くと寝息を立てている零がいた。遊はそれを見て微笑むと寝室の押し入れから掛布団を持って来て掛てやった。

 そして、風呂に入って寝間着に着替えた。寝室に行くと遊が寝るための布団が用意してあった。遊はその中へと入ると声が聞こえた。


「先輩」


 隣で寝ていた七瀬だ。

「何だ?」

「何かありましたか?」

「ま、色々だな」

「怪我は?」

「ないぞ。心配してくれてるのか?」

「そりゃあそうですよ。急に家を飛び出して行って帰って来たのが二時間後って何かあったのかなと思いますよ」


 二時間っての細かいな。ってことは起きてるじゃねえか。


「心配するな」


 と言いつつ考えていたのは七瀬の父親、七瀬元靖のことを考えていた。


「……」


 やはり、このことは言わなければならないのか。そんな考えがよぎる。だが、今ここで伝えていいのか。そんなこともよぎる。


「変なところに巻き込まれてませんよね⁉︎」


 七瀬がつっかかるように遊に寄った。


「お、おい! 急に来られたらびっくりするだろ!」


 遊は驚きで後ずさりをしていた。七瀬は布団にかぶさっていない部分、つまり頭を遊にだんだんと近づける。


「本当に大丈夫ですよね……?」

「大丈夫だって!」


 すみません。本当に巻き込まれてます。

 そんなことは声に出して言えないので遊は隠すために七瀬の逆方向を向いた。


「そんな反応したら逆に心配しますよ……」

「だから、大丈夫だって。お前が心配することじゃないしさ……」


 とても気まづい空気が流れていた。そもそも、年頃の男女二人が同じ部屋で寝ている時点で健全な空気は全く漂っていない。そんな空気に呑まれているのか遊は全く言葉を発さなかった。


「じゃあ、先輩。私の話を聞いてくれますか……?」


 七瀬がこの空気を打ち破るように言った。


「ん? 何だ」


 遊はこの空気のままは嫌だったので話を聞くことにした。


「私のこと、どれくらいわかりますか?」

「ブッ……!」


 遊は噎せこみながら起き上がった。


「大丈夫ですか?」


 それを心配するように七瀬は遊の背中をさすった。その間も少々遊は噎せていた。


「急に何でそんなことを言った……」


 遊は横目で質問した。


「いえ、私の話に関係があるので」


 七瀬はキッパリと言った。


「え、あ、でも、そんなにわからんな。合気道をやってるってことくらいかな。後は生徒会だとか」

「やっぱりそんなことですか……」


 七瀬は遊の反応に落胆しながら言った。


「何か悪いことでも……?」

「いえ、何となく予想がついてたので……」

「ってことは予想通りってことか……」

「まあ、そういうことですね。ハァ……」

「そんなにため息つかないで……」


 遊はあたふたした。


「では、これから話すことは先輩以外に話さないでください」

「だが、そこにいる零は? 聞こえてたらどうするんだ?」


 遊は親指で零を指した。気持ち良さそうに寝ているので気が緩みそうだった。


「構いませんよ。おそらく知ることとなると思うので」


 そして、七瀬は話し始めた。

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