Episode21 続き
遊たちは自宅へとようやく着いた。
「お邪魔します……」
七瀬は謙虚に挨拶をした。
「どうぞ……」
遊は七瀬を居間で下ろして救急箱を取りに行った。
「怪我してるところ教えてくれないか? 処置してやるから」
「ありがとうございます。擦り傷ばかりです」
「了解」
救急箱を持ち運ぼうとするとその奥に大量の包帯が置いてあった。
「ここまで用意してたのか、俺……」
おそらく買ったのは治維会に所属したての頃だと思われた。補足なのだが治維会に所属して初めての怪我のついこの前の柿田の事件である。
手に取った救急箱を持って居間にいる七瀬の元へと向かった。
怪我は両腕から両足まで幅広かった。それを見て遊は言った。
「お前、際どいところまで怪我してるだろ。男の俺がやっていいのか?」
「全然いいですよ。私、そういうのは気にしませんし。まだ、綺麗ですし」
「やかましいわ。すでに綺麗じゃないやつもいるぞ」
「それは先輩じゃないのですか?」
遊は吹き出してしまった。
「んなわけあるか。おい、零」
「何?」
零はヒョッコリと寝室から顔を出した。
「包帯巻いてやってくれるか? 男の俺ができるようなことではない」
「あー。わかった!」
零はなぜかワルを演じていた。
「俺、こっちいるから何かあったら呼べよ」
遊は寝室の方を指差した。
「わかった」
零は救急箱からすでに使ってあった包帯を取り出して七瀬の怪我してる部分を巻き始めた。それと同時に遊は寝室へと入って携帯端末を開けた。
「今日でわかったことを整理しないとな……」
さっき現場に行ってわかったことは警視庁長官の幹部が殺害されたこと。そして、その職に就くことが警視庁の人間の目標でもあったりするため妬みなどがあること。この二つだ。
そのような観点から狙われるであろう人物が絞られる。一人目の名は近藤啓司。彼は三五歳と中堅の立ち位置に立っている。主な成績は三年前の甘木真による襲撃を撃退したこととなっている。
そして、今回の事件で一緒に捜査する捜査官である松本祐介。彼はまだ二五歳。期待の新人といったところだろう。主な戦績はそちらも甘木真の襲撃の撃退……となっている。だが、詳しい内容は一切書いていなかった。
「しかし、甘木真ってのは一体なんなんだ?」
そんな疑問も同時に出てきた。学校の授業でも彼の恐ろしさを語られていた。何か歪んだ教育をしている気もするが特には気にしなかった。
だが、逆に甘木真がテロを起こすきっかけとなったのだから何をしたのだろうか。そんなのも気になってくる。一般的にインドネシアでの反乱からと言われているがそこで働いた心理だとか動機もあやふやなままだ。
それでも目の前の事件を追わなければならない。今回の事件は警視庁の人間の犯行の可能性が高いのだが誰とまでは全く見当がつかない。恨みの線もあるかもしれないが何か現実味にかける。
「ったく……。何があってこうなったんだ?」
遊は呟いた。すると、携帯に着信があった。相手はまたも古崎であった。
「なんだ? また」
『また、遺体が発見された! 今度は……』
古崎から言われた場所はつい先ほど通ってきた丘の近くであった。
「すぐ行く。ちょっと待っててくれ」
遊は電話を切るとすぐに居間を通って玄関へと向かった。
「零! また行って、く……」
その時行ったのがまずかった。零が七瀬に包帯を巻いてくれているのだが今、丁度、遊が危惧していた際どい部分をやっていた。遊が言っていた際どい部分は上半身。なので、服を着ていなかった。
「すんません。すぐ行きます」
遊は風のようにすぐに飛び出して行った。七瀬は恥ずかしそうに頬を赤らめていた。
「……ったく電話のタイミングといい、処置のタイミングといい、色々と最悪だったなぁ」
遊は頭を抱えながら走っていた。現場へは三分ほど走って辿り着いた。既に警察官がいて遺体を布団で覆っていた。
「おお、日暮くん。またすぐにすまない」
松本がすぐに話しかけた。
「全然、こういうのはいつ起こるかわからないし」
遊も対応した。
「この中の人はやっぱり……」
「そうだ……」
遊がついさっき調べていた人物、近藤啓司だ。
「早すぎるだろ……!」
遊は地面を叩きつけた。
「ってことは、もうすぐってことだな」
松本は覚悟を決めたように言った。遊はそれを吐き捨てた。
「……古崎は?」
遊は呼び出した本人である古崎を探した。
「いや、まだだ。彼女、ここから家が遠いみたいだね」
松本が古崎に連絡してそれが遊の元へと届いたみたいだった。
「じゃあ、俺はもう行くぞ。手がかりは全くなかったからな」
そう言って松本は周りの警察官たちに指示を出して退却の準備を始めていた。だが、遊は考え事をしてるのかその場にいたままであった。そして、松本たちは帰って行った。
「なんでこんな短期間にする必要があったんだ? なんで長官の幹部ばかりなのか……? なんで、あいつは冷静なんだ……?」
疑問が多すぎた。脳内では全く処理ができない。
「まさか……!」
そして、出した答えは。
松本は警視庁へと戻っていた。つい三時間ほどで二件の殺人事件が発生し、精神状態が安定しなかった。
「同僚がなんでここまで立て続けに……」
そんな愚痴をこぼしていた。
車は進んで行き後三十分ほどで警視庁へ着く頃に差し掛かった。
「⁉︎」
突然、松本が乗っていた車が大きく揺れた。その影響で車はスリップし不安定な状態となった。松本はバランスが取れるようにハンドルを切って行く。スピードは落ちて行くが道路の脇に植えられた植木へとぶつかってしまった。その反動で大きく車は凹み衝撃を松本は受けなければならなかった。
少々、落ち着くと松本は車の扉を開けて外へと出た。何か危険がないか周りを見渡す。だが、それらしいものは全く見つからなかった。
「一体、何が車に当たったんだ?」
そう言って、車の周りをぐるりと回った。すると、後ろのドアに最初の衝撃で出来たのか凹んでいる部分があった。
「となると落下物か……。だが、落下物にしては衝撃が強すぎやしないか?」
松本はそう感じた。車に大きな抵抗与えるほどの落下物が必要となる。これを見る限りだと本当にしっかりとしたものではないと行けない。
「誰だ……?」
「俺だ…………」
松本の後ろから男の声が聞こえた。その声は松本にとって聞き覚えのある声であった。
「なんですか? 今日で全て型をつける気ですか?」
「もちろん、そのつもりだ」
そういうと男は銃口を松本の後頭部につけた。
「ここまでするんですね」
「するつもりはなかったのだが余計な仕事が増えてしまってね」
男が握る銃の銃口がさらに強く押された。松本は冷や汗をかいてその時を待った。
「ふざけんじゃねええええ!!!!」
すると、またも松本に聞き覚えのある声が聞こえた。そして、松本に当たっていた銃口がなくなっていた。身軽となった松本は後ろを振り返ると遊の姿があった。
「松本! 大丈夫か?」
「ああ。なんとか」
「それであの男は誰だ?」
遊は息を切らしながら言った。ここまで全速力で来たのだろう。
「あの男は……」
「紹介しなくてもいいよ。松本くん。俺からするよ」
男がそれを遮った。
「俺の名は警視庁長官、七瀬元靖だ」
そう言って七瀬元靖はニヤリと笑った。
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