Episode8 過去
沙良は手に取ったUSBメモリを遊へと届けるべく地上を走っていた。ゲートを使っていけば良いのではと思うかも知れないが治維会側から任意にゲートの終点を選べる訳ではない。その人はこのルートというものがすでに設定してあるため地上を移動しないとダメなのだ。
沙良は遊が治維会に入るきっかけとなった人物でもあって何度か彼の家を訪れた事がある。そのため家の場所を把握しているので迷わず行くことができた。そして、少しボロい遊の家へと行く事ができた。
扉の前に立ちインターホンを押そうとした。だが、今、来て良かったのか? などという否定的な思考が働いて中々押せなかった。
「ん?」
と急に扉が開いた。遊本人が出て来た。手には何も持っていないので何をするのか分からなかったがどこか出かけるみたいだ。
「どした? 会長」
「え、あ、あの……。その…………」
沙良の思考回路が急に止まり混乱した。
「本当になんのよう? 今から出かけるところなんだけど」
「えっと、これ……」
沙良の思考回路がある程度戻りなんとか渡そうと思っていたUSBを渡す事がで
きた。遊は不思議そうに首を傾げた。
「あ。昼間言ってたやつか。サンキュー」
と言ってそのまま出かけてしまった。その姿はどこか寂しそうだった。
「日暮くん……」
沙良は心配になっていつの間にか声をかけていた。
「何?」
遊は柔らかな口調で言った。だが、それを優しいとは思えなかった。それは何か重い何かを考えているようだった。
「一緒について行っていい……?」
どこかほって置けなかったのだろう。そう言っていた。
「いいぞ」
遊はそのまま歩き出した。沙良はそれに合わせるようについて行った。
そして、歩いて十五分ほどこの昭島市にある市営の公園だった。ここは意外と広く春になると花見をする人で埋もれている。今はすでに花見シーズンが終わっており人は少なかった。
すると、遊は見つけたベンチに座り込んだ。疲れているのか伸びをしていた。それを見て苦笑いをした後、少し間隔をあけて座った。
と、遊の携帯のバイブが鳴った。遊はダルそうにゆっくりと起き上がると携帯端末を起動し通話を始めた。
「なんだ? 古崎か? ああ。なんでそうなるんだよ。来るなって。じゃあな」
遊は苛立ちながら通話を切った。
「さっきのは同僚か?」
「ああ。古崎だ。学校同じだからわかるだろ?」
「名前くらいは」
「あ、そう」
と静寂が訪れた。この合間がなんとなく重い。
「そういや、昨日のスピーチ良かったぞ。なんか、凄かった」
「何それ……」
「えーっと、だから、言葉で表せないくらい凄かった。なら、どうだ?」
「ふーん」
沙良は不満気に答えた。
「もう一年か……」
遊がポツリと言った。
「そうだね……。私がスカウトして日暮くんを治維会に入れたんだっけ」
「何? その強制感」
「でも、早いね」
「無視かい! まあ、そうだな。まだ俺は仕事もらったことはないけどな」
「そうなの? 今度仕事ねじ込ませてあげようか?」
「そこまでしろとは言ってない」
「ふふふ」
と沙良が一息ついた。
「やっぱり今回の件気になってるんでしょ?」
遊の体が止まった。
「やっぱり」
「わかるのか……」
「そりゃあね。あの時にもう見てるんだもん」
「あ……。そっか……」
とまた静寂が訪れた。
あの時というものはまたいずれか話すこととなるだろう。
「なあ、男の襲撃は明日か?」
「今日も来ていた。多分、兄様に話聞かないとわからないけどその可能性が高いと私は思う」
「そうか……」
というと遊は立ち上がった。
「どうしたの?」
「いや、もう戻るわ。明日、どうするか考えてみる」
「どうするってあの男を倒すの?」
「いや、男を倒すんじゃない」
「じゃあ、何を?」
「忌み子のあの思考の暴走を止めるのが最初だ」
「え⁉︎ どうするわけなの?」
「だから、言葉なんだって」
遊は自分の拳を握りしめて言った。その目はものすごい圧の熱意を感じた。
「ありがと。じゃあ、明日頑張ってみるわ」
と言って遊は帰ってしまった。
「はあ……。本当にいつも真っ直ぐだなぁ……。だから、守りたいんだろうね、力がないのに……」
遊は沙良と一通り話した後、帰路についていた。
だが、どう話せばいい。人間と一緒にいて楽しいと思えたことはあるか。ってなると零ぐらいしか反応しないんじゃないか? 俺は零にできることはある程度やってるつもりだが。逆に忌み子をただの道具だと思ってる奴がパートナーだったら何言っても無駄なんじゃないか。どうしたらいいのか。
遊自身が忌み子について詳しく分かっているわけでもなく、それぞれの忌みこの過去を知るわけでもないのだがそれでも何かを変えようとしているのはわかる。だが、その中で彼らに届く言葉を選ぶしかないのだ。
遊は拳を握りしめ改めて覚悟を決めた。
家に着くとさっき沙良にもらったUSBメモリをパソコンに接続した。そして、そのファイルを開けた。
今までの捜査や結果からみて推測したものを参考にデータの中身を見ていた。すると、あり得ないものを見つけた。
「⁉︎」
(マジでか……。だが、まだありえないことが……)
そして、考えているうちに夜が更けていった。
「さてと」
男はとある倉庫にいた。とても上品な椅子にどっさりと座っていた。
「じゃあ、明日決行だ。君たちが抱える恨みや怨念を全て吐き出してくるがいい」
その言葉にそれぞれ違った反応をしていたが目は真剣そのものだった。
「全てを喰らうのだ。俺の配下共よ」
それぞれが声をあげた。
「じゃあ、明日に備えよ」
そして、その男の目は赤く輝いていた。
その中に一人、銀髪の少女がいた。その少女は何かもの苦しそうにしていた。
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