Episode9 現状

———四月二三日



 遊は普段通り支度をしていた。と言っても学校の準備ではなく治維会のだ。学校は仮病を使って休んだのである。

 顔を洗い着替えて朝ご飯食べた。今日も昨日と同じくとても静かであった。


「……」


 そして、ゲートを抜けて治維会へと向かった。


 治維会へと着くとすでに海斗が待っていた。


「遊、おっす」

「おっす。朝早いなぁ」

「そりゃあな。昨日あんなことがあったんだ。関係者とか呼び出すらしいぞ。そこでどうするのか話し合われるらしい」

「? 関係者……? どこまでの範囲のことを指してるんだ?」

「この事件を捜査している人と忌み子を取られてしまった人を今日の昼から始めるそうだ。だから、お前も入るから」

「え、ちょ。そんな話聞いてないぞ!」


 遊は慌てた。


「そりゃそうだろ。今、伝えに来たんだから」


 遊と反対に海斗は冷静であった。


「で、今から行けばいいってことだな」

「ま、そういうことにもなるがまだ十時だろ? まだ、ゆっくりしてていいぞ」


 と言われ遊は携帯端末を開けて時間を確認した。本当に十時であった。


「そうだな。部署にでもいるわ」


 と言って部署へと向かった。

 だが、誰もいなかった。いつもなら騒がしい元となっている零がいなからだ。


「なんか、あいついないと俺も俺じゃねえよな……」


 遊はポツリと呟いた。


「クソッ……。絶対に戻してやるからな……」


 そして、雫を流した。



 そして、会議の時間となった。部署に海斗が遊を呼びに来て一緒に会議室に向かった。会議室はすでに数名来ていてその中には沙良やその父親ー朝比奈秀信ーが来ていた。


「あ、親父」


 海斗が呟いた。


「おう、海斗か……。どうじゃ? 最近は」


 と秀信が言った。


「あまりだな……。俺に回ってくる事件も少ないしほとんど独自で調べてるからな」


 指定されていた椅子へと向かいながら答えた。遊の席は入り口に近いところだった。海斗は入り口からかなり遠い場所にあった。


「そうか……。だから、今回呼ばれているんじゃな」


 秀信は合点がついたと納得したように頷いた。

 と話しているうちにぞろぞろと会議に参加するであろう人たちが入って来た。全ての席がうまった瞬間、秀信が立ち上がった。


「では、先日から起こっている事件について会議をするために皆さんに集まってもらったのじゃ」


 と秀信が発したのだが全く緊張感が漂わなかった。そもそものモチベーションが低かった。


「事件の概要は皆さん、よくご存知じゃろう。じゃから、割愛させてもらうぞ」


 秀信は手元の資料を拾いあげ中身を見始めた。


「では、最近のことについて説明を」

「ハイ」


 と一人の女性が立ち上がり説明を始めた。


「昨日、この事件の犯人と思われる男が本部室へ侵入した。男は連れ去った忌み子たちを連れてその部屋に置いてあったパソコンのデータを盗み取ろうとしました。朝比奈海斗さんから依頼を受けていた妹の沙良さんがその場にいたため事態は大きく発展しませんでした。ですが、彼はまた明日出直すと言って去って行きました。そして、そのパソコンのデータというものは前回のトーナメント。頭脳戦のAブロックの情報です。今回そのことがことの発端となっていると考えられています。以上です」


 全て言い終えると彼女は椅子に座った。


「ということになっているのじゃ。そのため急遽この会議を開かせてもらった」


 秀信が言うと一礼をした。


「ハッ……! くだらないですね……」


 と会議に参加している男が声をあげた。一気にその人へと視線が集まる。


「どういう意味じゃね?」


 秀信は気になって聞き返した。

「どういう意味もそのままじゃねえか。あんなの道具でしかない。取られたなら新しいのを用意しろ。ただそれだけだ」


 男は下げ荒むような目をきっちりとこちらへと見せてそう言い放った。


「君は影村茂人くんじゃね。なら、君は取り返す必要はないと」


 影村茂人。彼は前回のトーナメント優勝の強者で《品川支部》に所属している東京本部の知の魔物とも呼ばれている。だが、圧をかけていくような態度や忌み子を道具のように扱うその姿勢から治維会の中でも問題視されている人物だ。


「そうだ。例え、犯人探しをしていても意味はない。そいつをほっておけばいいものだ」

「どういうことじゃ?」

「また説明しなきゃいけねえのかよ。道具が離れたならほっとけばいいのさ。補充すればいいんだよ。補充」


 その時、遊は机の下に隠していた手を握りしめていた。影村の思考に苛立ちを覚えた。

 遊の考えとして忌み子も人間だと断言している。例え、人間にないようなものを持っているから人間ではないと考えている。

 街の中では忌み子は人間にないものを持っている。だから、差別をする。という感覚が当たり前となっている。

 だが、影村のような考えを持つ人だっている。これは治維会の人間だけの考えである。パートナーとしての道具としか思っていないのだ。


「忌み子にも数が限られている。そんなことは無理だ」

「は?」


 影村が顔をしかめた。


「保護してるんじゃなかったの? それで本当に保護する場所なのか? ここ」

「なんじゃと?」


 秀信が聞き返した。遊はさらに拳を強く握りしめた。手を出しそうになっているが堪えていた。


「保護とかしてるのならまだ残ってるんだろ? そいつをくれよ」


 そして、秀信は黙った。それと同時にこの場の空気が固まった。

 影村が言っていることは捻くれていた。どこまで言っても話を聞いてはくれなさそうであった。

 海斗は手を机へ叩きつけた。


「それなら、お前はここから出て行け。そんなお前が来ていい場所じゃねえぞ、ここは。てめえもわかってると思うがここは忌み子たちを保護するために立ち上げられた会社だぞ? てめえのやつはここにはいらねえんだよ」


 海斗の目が冷徹な視線となっていた。その視線に影村は小さくなっていた。


「……。ああ、そうだな」


 と影村は言って立ち上がり外へ出て行った。そして、海斗は続けた。


「あいつと同じような考え方のやつらはここから出ていけ。繰り返すがそんな奴らが来ていい場所じゃねえぞ。わかったなら…………」


 そして、体を乗り出して威厳を強くして言った。


「出ていけ………………」


 と遊以外に呼ばれていた忌み子を取られていた被害者たちは全員が帰ってしまった。


「やっぱりか……」


 海斗は落胆していた。遊は立ち上がって海斗たちのいる会議室の奥の方へと進んで言った。


「やっぱりって……?」

「ここに来た時、あいつらの目が面倒だなという目してたからな」

「いや、俺も意外と面倒な目して入って来たんだけど」


 と秀信たちに近いところで遊は椅子に座った。


「それから何か調査でわかったことは?」


 海斗が遊に聞いた。


「昨日、沙良からもらったUSBの中身を覗かせてもらった」


 遊はそのUSBメモリを机に置いた。


「で、何がわかったの?」


 沙良が聞き返した。


「ここで出たのは仮説だから確証はない……。で、ここで分かったのは…………」


 そして、この会議が進むうちにここにいた一同はこの事件の中心にいた男の名がわかった。

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