Episode10 闇に潜む忌み子

 会議が終了した後、すぐに遊は家に帰った。その時にはすでに午後六時。かなり長く会議をしてしまった。今後の対策などで四時間も使ってしまった。


 帰ってすぐ家の外に出た。周りを散歩するためだ。昨日は沙良と出会って長話をしていたが今日はそんなことはなかった。


 空に浮かぶ月はもうすぐ満月を迎えそうだったが雲に隠れそうだった。そんな月明かりに照らされていた遊は公園の中央にある噴水の近くへとたどり着いた。そして、立ち止まった。


「早く出て来いよ……」


 とそんなことを言うと周りの草が揺れた。そして。


「やっぱりわかっていたか……」


 外套の男が出て来た。その後ろに拐っていった忌み子たちがついて来ていた。それは遊を取り囲んでいた。


「わかってるもないも全て見抜いたぞ」


 遊はクルリと振り返り男の方をしっかりと見つめた。


「こんなことしてまで俺を殺したいのか? あいつらと同じように」


 ここで指すあいつらは遊と同じような忌み子を拐われた人たちのことだ。


「ほう……。分かってるね……」


 感心したように言った。ということは他の被害者たちはすでに殺されていることを言っていた。


「ああ。そうだな。お前を始末するために来た」

「……」


 遊はすでにこの男の名を知っている。だが、遊の知る限りその男が言う言葉ではなかった。息を大きく吸って吐き出した。


「?」


 男は不思議そうにこちらを見ていた。


「じゃあ、こっち手加減しないぞ。柿田……」

「!」


 遊から発せられた言葉に反応した後、口元を緩めた。そして、顔を覆っていたフードを剥ぎ取り面を見せた。


「よく分かったな……。日暮」

「そうだな……。種明かしは順を追ってやるから先にやり合うか」


 と言い終わった瞬間、遊はスーツを装備した。そして、姿勢を低くして突撃した。


「フッ……!」


 遊からまず右ストレートを入れた。それをスラリと柿田は躱すと開いた遊の左半身をめがけフックを撃った。遊は瞬間的に左アッパーを入れた。それは柿田へのみぞおちへとしっかりと入った。


「アアアアアッッッッ!!!!!!」


 左へと入れた力を最大限に高めて柿田を吹き飛ばした。柿田は吹き飛ばされた体が地面についた時、バランスを取りながら着地した。


「スーツが入ってるとはいえ飛ばされるとはな……」


 構えを取りながら柿田が言った。


「ヘッ……。お前が捜査に行ってる時にきっちりこっちはやってんだよ」


 遊は自身有り気に言った。


「行くぜッ!」


 柿田はこちらへと向かっていた。それに立ち向かうように遊も前に出ていた。柿田の右の一撃が正面に迫っていた。遊はそれをジャンプをして躱すと柿田の真上へと来た。


「はあああァァァァッッッッ!!!!」


 渾身の蹴りを柿田へと打ち込んだ。それはコンクリートで舗装されていた地面を打ち砕いた。そして、距離をとった。


「終わったか……?」


 遊は疑っていた。ここからまた動き出すと不安だからだ。

 と一分ほどたった。遊は携帯端末を取り出した。だが。


「バカだなあッ……!」

「⁉︎」


 遊が気づいた時には柿田は立ち上がっていた。ゆっくり、ゆっくりと蹌踉めきながら起き上がった。


「まだ生きてますよー? わからないんですかー?」


 柿田が挑発するような言い草で言った。


「ッ!」


 遊は吐き捨てるように言った。普段、治維会で見せている態度は温厚な人物であった。だが、ここでは小学生のような子供であった。


「おい……。なんでこんなことをしようと思った」


 遊は当初から気になっていたことを聞いた。この事件の裏側が見えないのだ。忌み子を拐ったとしても目的が何も見えないからだ。先の会議で『Blood Hells』に所属していることを知った。だが、それを聞く必要はないだろう。それでも、裏が見えないのだ。


「フンッ……。何でだろうな……」


 柿田は誤魔化した。何か知られたくないことがあるのだろうか。


「治維会を滅ぼすためか……? 東京を潰す気か……?」


 遊は今、思い当たった考えを色々と言った。


「さて、何でしょうか……?」


 下衆顔で言った。


「じゃあ、お前が所属している『Blood Hells』に関係することか……?」


 そして。


「正解だ」


 柿田は手を打った。


「⁉︎」

「俺たち『Blood Hells』は次のボスを決めている。それも二年も前からだ」


 そして、柿田が話し始めた。


「二年……。⁉︎」


 この二年。それは二日前沙良が言っていたことだ。


「そのためだけに日本を荒らして行ったのか⁉︎」


 遊は一歩踏み出して言った。


「荒らすって言い方は不愉快だな……。それぞれが必要な手段を手に入れていただけだ……」

「ッ!」


 ただそんなことのために荒らしても自覚なしかよ。

 と思ったが言わなかった。だが、それが彼らの正義となっているのだろうが遊は許せなかった。


「それで成功していないから、お前が動いたってわけだな」

「そういうわけだな……。全く興味も湧いていなかったからな」

「じゃあ、何で動いた。それなら、待っていた方が良かったんじゃねえか」

「そうだな……。だが、ノロノロしてんだよ。あいつらが」


 これはおそらく『Blood Hells』の幹部のことを指すことだろう。


「だから、動くのか。自分の実力に自信を持っていたから」


 遊は柿田の心情を読み取るように言った。


「そういうことだ。だから、こうやって忌み子たちを集めて回ったってわけだ」


 後ろの忌み子たちを見渡した。それぞれが覚醒をしていてまだかまだかとウズウズしていた。


「ここまでしないと倒せない相手なのか……」


 遊はポツリと呟いた。それが聞こえたのか柿田は返した。


「そうだな……。伝説とも言われている人物だからな」

「?」


 この時代に生きた伝説と呼ばれるような人物がいたのか……。

 と遊は思った。だとすると、それは簡単に倒せる相手なのか。色々思考が進んでいく。


「俺もそれなりに力を持っている。だが、そいつは俺とは違う別種の人間なんだ」


 と柿田が遊を見た。その時、遊が見たものは。


「お前……。まさか…………!」

「ああ、そうだ」


 目を赤く光らせた柿田だった。


「忌み子だったのか⁉︎」


 気づいた時にはもう遅かった。


「フンッ!」


 そして、柿田は思いっきり遊を吹き飛ばした。


「ガアッ!」


 遊は地面に当たった時、呻き声を上げていた。


「……」


 姿勢を整えて前を向くと目の前に柿田がいた。その手は殴る準備をしていた。そして、その一撃が遊の腹へとしっかり食い込み、三十メートルほど吹き飛ばした。その方向にたまたまあったトイレの壁へと激突した。その反動で体がフラフラしていた。


「柿田ぁぁぁぁッッッッ!!!!」


 そのフラフラを振り切るように立ち上がった。柿田はそれを嘲笑った。そして、目にも見えない速さで遊の前に現れた。


「⁉︎」

「じゃあな……」


 柿田の本気の一撃が遊へとのしかかった。忌み子としての柿田と治維会としての柿田、それのどちらも嘘偽りのない柿田でありそれが全てだ。それまで積み重なってきたものが全て遊に振りかざされた。


「ァ……!」


 そして、遊はその場で動けなくなっていた。呼吸は過呼吸となり辛くなってい

た。


「はあ……。これで終わりか……」


 柿田はつまらなさそうに言った。


「じゃあ、来いよ」

「?」


 柿田が言った。遊は不思議そうに眺めていた。と。


「⁉︎」


 目の前に現れたのは。


「零…………」


 銃を遊へと向けていた。


「お前、他の子達にもこれをやらせていたのか⁉︎」


 遊は怒鳴った。ここまでして忌み子たちの心を変えたいと思っていることに憤りを覚えたからだ。


「そういうことだ。人間に憎悪を向けていた彼らは躊躇なく撃ったよ」

「クソッ……」


 遊は吐き捨てた。


「じゃあ、屈辱ってのは人間から受けた虐待のことか……?」

「そういうこともあるがこの前のトーナメントの成績だ。俺の実力はあんなものではないと治維会に見せびらかすためだ」


 後の方はただの私利私欲がなかったからだけじゃないか。

 と遊は溢れる感情を抑えた。


「あの時の倉庫のやつは……?」

「倉庫のはあの場所に埋めておいただけだ。特に何も能力は使っていない」


 それなら、特殊な忌み子というわけでは内容だ。だが、本当にそういう忌み子がいたのだろうか。また、新たな疑問が生まれてしまった。


「奏多はどこだ……」

「ん? あいつか……。別のところにいるよ……。これは同時進行で動いているからね」


 奏多も利用されてたのか。だから、柿田に大阪へと行くぞと言われた時に、少々詰まっていたんだ。

 色々と怒りが込み上がって来た。


「じゃあ、撃て」


 柿田がそういうと零は一歩まえに出て銃口を遊の額へとつけた。


「……」


 そして、零は。


「……ッ⁉︎」


 柿田に撃った。

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