Episode11 その後
「……ぁ……」
柿田は撃たれた部分を抑えながらその場に座り込んだ。遊はそれをただ見ていた。
「ぅ……」
と零が声を発した。それで遊が見てみると。涙を堪えていた。
「うわああん……!」
そして、遊へと飛びついた。
「大丈夫だったか……?」
遊は優しく零を撫でながら言った。零はコクリと頷いた。
「何故だ……!」
柿田は不満そうに吐き出した。と零が涙を拭って言った。
「零は人間を憎んでなんかいない。人間はいい人たちだって教えてくれたから」
零はチラリと遊を見た。遊はそれに会釈した。
「だから、人間を殺そうだなんて思ってないし……」
零は深呼吸をゆっくりした後、言った。
「あの時、昔のことを思い出した。その時に本能のままに遊を殺そうとした。でも、その後、酷い事したなぁって思って理性を取り戻したよ」
零らしい説明がされた。それに不満を持ったのか柿田は地面を叩いた。
「なんでだ……! そんな事ないぞ……! 人間に憎いと思っていないのか⁉︎」
「うん」
「何故だ! そこまで人間を信頼しているのか……⁉︎」
「うん」
「何故そう思える⁉︎ そいつが何をしたんだ!」
「何って……」
零は一瞬詰まったがこう答えた。
「暖かさを教えてくれた。零だって遊と出会った頃は人間を憎んでた。もちろん、遊だって。それでも、遊は優しくしてくれた。それを続けてもらって零は変わった。人間は優しい。それを気づかせてもらったから」
と遊は立ち上がった。
「おい。これでわかったか。柿田」
だが、柿田は何も言わなかった。そして、ゆっくりと立ち上がり言った。
「そうだな。今日は諦めるよ」
「なら、忌み子たちの洗脳を解いてもらおうか」
「無理だね」
柿田は遊の要求を完全に否定した。
「俺はまだボスになることを諦めたわけじゃない。お前をここで殺すことを諦めたのだ」
「……」
「最後にこれだけ言っておこう」
柿田は指を遊に指した。
「お前は絶対に忌み子のことについて考えを改めるであろう」
「?」
「じゃあな」
とそういうと柿田はもうこの場にはいなくなっていた。
そして、二人は公園に残されていた。
「すまなかったな。零」
遊はポツリと呟いた。
「ううん。零があの時勝手に先に行ったことが悪いの」
零は言った。
「そんなことないって。俺が悪かった。さ、家に戻るぞ」
遊は零をエスコートした。そして、ゆっくりと歩調を合わせて家に帰った。
「どこか怪我はないか? 病院連れて行ってやろうか?」
「零は大丈夫。遊の方が酷いと思うよ」
零はニッコリと笑いながら言った。
「そうだな……。今から行ってくるわ」
と遊が進行方向を切り替えようとする。だが。
「どした?」
零が遊の服の裾を引っ張った。だが、黙ったままだった。
「零?」
遊は零と一年近く暮らしているがこういう時なっても零の気持ちが全く読み取
れなかった。
「今日はやめて。また明日行ってくれない?」
零の声が震えていた。とここで遊はようやく察した。
「そうか」
ゆっくりゆっくりと家へ二人は向かって行った。
そして、今回の一連の事件がひと段落ついた。
首謀者である柿田剛は行方不明となり、治維会での地位を無くした。そして、連れて行かれた忌み子たちはいまだに取り返せず、そのままとなっていた。
だが、『Blood Hells』の活動活発化の理由もわかったため治維会もそれに対応するようになった。だが、彼らが追い求める人物の名がわからないためそれを知ることから始めることがわかった。
遊としては忌み子たちを取り戻そうと考えていた。その中で話を聞いてもらおうとしたのだが全くそんな時間すらなく何もできずに終わってしまった。だが、一人だけでも戻せたことについて成果が上がった。そして、事件一段落後、翌日遊も捜査へと本格的な参加が認められるようになった。
そんな遊は。
「ただいまー」
学校から帰ってくるとカバンを居間に置いた。
「おかえりー!」
零がすぐさま遊に寄った。
「ただいま。今から事務所行ってくるから」
と遊はゲートへと向かった。
「零も行く!」
「いいよ。古崎に話してくる」
遊は手を振って零を制止した。
「え? 古崎さんって学校で会ってるんじゃないの?」
「学校でこの話できるか」
「あ、そうか」
「じゃあ、行ってくる」
そして、ゲートをくぐり受付を済ませた後、《昭島部署》へと向かった。すでにその部屋の中には古崎の姿があった。
「柿田が首謀者で忌み子だったんだって?」
「ああ」
と言って部屋の中央にあった椅子に腰をかけた。
「忌み子のことは隠さなくてもとは思うよね」
「ま、いいんじゃないか? それでも警戒しているってわけだから」
沈黙が訪れた。そして、古崎が言った。
「ってことは二人になったわけだよね」
「そういうことだな」
「それもそうなんだけど何でこうなったの?」
「わからん。柿田にもそれなりのことを考えているはずだ。ただ、一つ言えるのはあいつにそのことを問い詰めても意味はない。それだけだ」
「どういうこと?」
「だから、あいつに罪の意識がないんだ。話を聞いてると思うが『Blood Hells』の方針に従っているみたいだ」
「そのある人を倒すことだよね?」
「ああ。だが、それがわかっていない」
「うん。それを今後から追い求めることになるのかな」
「そういうことになるな。これから本当に治維会と『Blood Hells』の戦いが佳境に近づくわけだ」
「じゃあ、気を引き締めないとね。で、後他に人集めてくれない?」
「は?」
遊は目を丸くした。
「だって、三人いないとこの仕事大変だよ? というわけで探してきてくれるかなぁ?」
後半になるにつれて声色がだんだん恐ろしくなった。
「え、いや、そのー」
遊は誤魔化すように目を泳がせていた。
「頼みましたよ」
ここでようやく古崎の闇を見た気がした。
と普段のような生活に戻ったのか戻っていないのか。だが、これから遊が見るものは絶望と過去であった。
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