Episode29 彼女の力

 遊はゆっくりと立ち上がったが柿田は起き上がれる状況でなかった。スーツを着ていただけ合ってダメージが軽減されたのであろう。


「ほう……。まだ立ち上がるか……」


 元靖が感心したように言った。だが、嘲笑ってるようにもとれた。


「七瀬元靖。あんた、治維会に所属していたんだってな」


 遊の言葉に元靖は眉をピクリと動かした。そして、遊は元靖を指差した。


「その下に来ているスーツはどこのものだ?」


 その言葉に合わしたように元靖はスーツを見つめた。


「いやいや、一般的なスーツではないぞ。治維会に所属していたならわかるだろ?」


 遊は否定した。


「俺はそんなところに入っていなかったからな。何のことだか……」

「フン……。誤魔化しやがって……」


 遊は一歩ずつ着実に元靖へと近づいた。


「その下に来ているやつだよ。さっきから電気がピリピリと出ているそれ」


 ここでようやくスーツの中をのぞいた。遊の指摘通りに電気が出ていた。


「が、どうした」

「それ、治維会が作ったアビリティスーツの真似て作っただろ? しかも、技術を向上させて」

「ん?」


 遊はその間にも前に進んでいた。ここにさらに重たい空気が流れる。


「そのやつはな。あんたが七瀬を預けた施設のやつが作ったやつに似てるんだよ」

「そうか……」

「七瀬を預けたってことは治維会を知ってるよな? 治維会は表舞台には全く公表されていない。じゃあ、何で一般人であったあの時に治維会を知っているんだ? もし、一般人が知っているのであればそいつは犯罪者か警察官だ」

「ほう……」


 元靖は相槌を返していく。


「ま、治維会を知ってることが重要ではない」

「……」

「お前がスーツの中で電気を出してるやつは治維会のアビリティスーツと似ているってことをさっき言ったよな? その生産技術は外に公開されていない。さらに真似ることも不可能。なぜなら、人それぞれ違うから」


 柿田はさっきの衝撃から意識を取り戻しゆっくりと起き上がっていた。


「そんな代物と何で知ってるんだ?」


 遊はしっかりと元靖を見つめて言った。


「さっき、治維会のやつからお前の情報を聞いた。お前、アビリティスーツの生産に携わっていたんだってな」

「……面白い」


 元靖は不気味な表情で笑った。


「ああ、そうさ……。俺は昔、所属していた。だが、あんな場所で忌み子が守られるはずもないと思ったから飛び出した」

「それで忌み子を、七瀬を救うために『Blood Hells』に入ったのか」

「え?」


 さっきまで黙っていた七瀬がようやく反応した。


「ああ。俺はそのためにこんなことをしている」


 元靖は上を向いて言った。


「お父さん……?」


 七瀬が心配そうに呼んだ。


「だが、もう遅かった。解放事件があったとは言え、あんな方法で守られないと踏んだ俺は治維会解体を望んだ」

「それが……。幹部の殺害を最初に積み重ねていくつもりだったわけか」

「そうだ。それが終われば『Blood Hells』も解体させるつもりだった。さっきも言った。もう遅い。これが俺からの宣戦布告だ」


 元靖はキッパリと言った。


「じゃあ、戦うことでいいんだな」

「来なさい。俺が改良したスーツと劣化版を比べてやる」


 遊の言葉に好戦的に答えた。そして。


「フッ……!」


 遊が蹴り出した。それに合わせてこの場にいた忌み子たちが同時に取り囲み始めた。

「さあ、来い……。雑魚ども……」

「やめて……!」


 七瀬の一言で始まろうとしていた戦いが始まらなかった。


「お父さん」


 この場に七瀬の声だけが響いた。


「お父さんの気持ちはわかった。でも、やめて」

「……」

「大人しくしてよ。私が幼稚園の時に見たカッコいいお父さんはどこに行ったの?」


 七瀬が一歩ずつ踏み出していた。柿田の方向へと。


「⁉︎」


 遊は声をかけようかと思ったがかけられなかった。そして、柿田の側によって柿田に触れた。


「まだハッキリと見せてなかったでしょ? 私が持つ特性」


 穏やかな声で言った。そして、元靖の元へと行く。


「ここでしっかりと見せてあげる。最初で最後だけど」


 元靖の目の前に七瀬が立ったが元靖は動かなかった。


「我慢してて……」


 そして、元靖に一発のストレートを入れた。すると、元靖は反動で一歩下がっ

た。


「⁉︎」


 七瀬に異様なオーラが流れていた。この場にいた全員がそれを静かに見ていた。


「わかった……?」


 七瀬は弱々しい声で言った。


「これが私の特性」


 そして、もう一度、ストレートを打ち込んだ。すると、七瀬の腕から電気が走り元靖へと刺さった。その電気で元靖が着ていたスーツがショートし、機能を失った。その証拠に今まで光っていた青色の閃光が消えていた。


「……」

「……複製特性。これが私の能力」


 静まり返った。


「複製……」


 颯斗が呟いていた。


「そう。触れた相手が何かしらの能力を保持する場合、それをコピーして使うことができる能力。先輩がさっき言っていたスーツにも反応します」


 七瀬が丁寧に説明した。そして。


「七瀬の能力はスゲえ。スゲえけど。ここで終わらせるぞ、元靖」


 遊が近づいた。


「あとは全て刑務所で話せ」

「……」


 元靖は自分の能力の源が砕かれたショックで無言であった。


「行くぞッ!」


 そして、遊の拳が元靖の顔面に刺さった。その勢いで元靖は倒れ伏せ、気絶した。


「お前の願望、俺が治維会にいる状態で叶えてやる。お前の夢の何かが叶えられるときはお前の目の前で叶えてやる」


 約十分後。松本たち警察が駆けつけた。だが、その時には柿田たち一行は姿を消していた。

 元靖は身柄を引き取られ、松本にしっかりと事情聴取されることとなった。

 これで四月末から続いていたまだ未解決部分があるのだが忌み子誘拐事件はここでようやく落ち着くこととなった。

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