Episode28 最悪な状況

「さてと……」


 遊が呟いた。


「ここに来るべきではない相手が三人も来ました。さて、あんたらはどうするんだ?」


 遊が皮肉を言うように言った。


「待て、日暮。零は除外だろ、実質関係ないだろ」


 柿田がそれを遮るように言った。遊は柿田を見て傷だらけであったことから元靖の優勢と見た。


「は? 拉致しといて何言ってんだか……」


 だが、遊はすっとぼけた様に言った。


「じゃあ、一個ずつ型を付けてくか……。芽衣」

「は、はい」


 急に呼ばれて芽衣はびっくりしていた。


「あいつに言いたいこと全部言ってやれ」


 遊は芽衣の背中を押して颯斗との距離を近づけた。そして、深呼吸して話し始めた。


「何、してるの?」

「何ってみての通りだ」

「前、言ってたよね。忌み子だから他の忌み子を守りたいって」

「言ったな」

「じゃあ、何してるの?」


 芽衣は再度聞いた。颯斗はここでようやく気づいた様だった。


「芽衣、それはだな……」

「そんなことして何が楽しいの? 自分が強いからってさ……」


 芽衣は颯斗の周りの惨状を眺めながら言った。


「それに今の颯斗くんは悪者にしか見えない。ヒーローでも何でもない」


 芽衣はキッパリと言った。


「芽衣、これには訳が……」


 颯斗はおたおたした。そして、覚悟を決めた様に拳を握った。


「ごめん、黙ってたこと。だけど、忌み子が今よりももっと人間と手を取り合って生きて行くために必要なんだ……!」

「え?」

「だから、協力してくれないか?」


 颯斗は頭を下げ、手を出した。


「おい、元靖。何ウソ吹き込んでんだよ」


 遊が言った。その言葉を聞いた颯斗は顔をあげた。


「お、よく分かったな」

「黙ってろ。あの時、しっかり話を聞いてた俺はある程度はわかってんだよ」


 遊は頭をかいた。


「先生? これ、ウソなんですか?」


 颯斗は縋るような目で言った。


「ああ、そうさ。君たち忌み子を利用するために集めてるんだよ」


 颯斗は絶望したかのように立ち止まった。


「クソ……」


 颯斗は地面を叩いた。


「これで芽衣にも何かできると思ったのに……」

「颯斗くん……?」

「いつもいつも助けてもらってたから、何か返さなきゃと思ったのに……」


 颯斗は滲み出ていた涙を堪えて立ち上がった。


「先生。俺はもう先生についていかない」


 元靖は颯斗の言葉を聞いて大きく笑った。


「はい、リア充死すべし」

「ああ?」


 遊の言葉に颯斗が反応した。


「さて、零。言いたいことをどうぞ」

「おい!」


 颯斗の言葉を完全無視した遊は零に合図した。すると、零は一歩前にでた。


「前にも言ったけど人間をいい人たちだよ。以上」

「早いな」

「それくらいしか言うことがないし」

「あ、そう」


 零の反応を見て少し戸惑ったが場を仕切り直した。


「じゃあ、最後。七瀬親子」

「フフフフ……」


 七瀬が腹を抱えて笑い始めた。


「やっぱり連れて来たか……。日暮……」

「そうだな。こいつだけは一応お前に合わせないといけないからな」

「フッ……。倒せないのをわかっていて連れて来るのか……?」


 遊は返答に詰まったが答えた。


「まだ、決まった訳じゃねえだろ」

「フン……。面白い……」


 元靖は手を大きく広げた。


「さあ、かかってこい。一人でお前らを相手にしてやるよ……」


 遊は呆れたように吐き捨てると七瀬に耳打ちをした。


「すまん、あいつはお前と話す気はないらしい」

「いいですよ。私も覚悟を決めました。昔のような面影が一切ないですし……」

「本当にすまん。なら、しっかりと戦ってもらうぞ」

「ええ」


 七瀬はどこか悲しそうであったがこくりと頷いた。


「柿田……。共闘だ」


 遊が柿田の隣に並んだ。


「俺を狙うのか?」


 柿田は確認するように尋ねた。


「本当は狙うべきだろうが今回、大きくは関わっていないからな。見逃すつもりだ」

「そうか……。安心していいんだな?」

「今回だけな」

「そうか」

「じゃあ、行くぞ……!」


 遊と柿田は駆け出した。そして、双方が両サイドから挟み込む形をとった。


「ハァッ!」


 二人は同時に元靖に殴りかかった。柿田はそのまま殴りにかかったが遊はテンポをずらすために一歩下がった。元靖はそれに驚いたのかこちらを凝視していた。


「目の前にいるのは俺だ!」


 柿田がその隙に殴りかかった。それは脇腹に刺さったが浅めで受け流しされていた。でも、それなりにダメージが入ったらしくフラついていた。

 その間を狙って遊が蹴りを入れた。すると、今度は反動で地面を擦ったまま後ろへと下がった。


 そして、遊、柿田と元靖は距離を改めて取った。


「さっき言ってた威勢とは程遠くなったなぁ……」


 柿田が煽るように言った。


「フン……。では、これはどうかな……?」

「⁉︎」


 気づいた時には元靖が柿田の目の前にいた。そして、柿田の腹に右ストレートが突き刺さり遠くへ飛ばされてしまった。さらに遊も左ストレートをくらい飛ばされてしまった。


 秒にも満たない時間でこれだけのことが終わってしまった。


「何だ? 威勢とは程遠くなった……? 笑わせる……」


 そして、縮まっていたと思われた実力の距離がまた開いてしまった。

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