Episode27 三者三様

 遊たちは沙良からの電話を受けた後、数分すると丘の裏側へと回ることができた。


「ここに来てどうするの?」


 零が疑問を投げかけた。

「いや、あの状態で真っ向勝負なんて無理だろ?」

「ま、そうだね……」


 零は遊の意見に納得した。


「それでも、どうするんですか?」

「わからん」

「わからないって……」


 七瀬は不安そうに言った。


「いや、あいつは真っ向から戦える相手じゃないからな。不意をついていかないとなと」

「あいつ?」


 零が言った。


「あー。まだ言ってなかったなぁ……」


 遊は気づいたように呟いた。


「さっき零さ、現場行ったじゃん?」

「うん」

「その現場での事件が立て続けに続いてな……。ここ四時間ぐらいでほぼ全て型がついたんだよ」

「え?」


 二人が絶句した。


「それで全部終わったんだが、まだ終わっていないんだ」

「えーっとどういうことですか?」

「さっき言っていた事件は終わったんだ。だが、さっきの戦闘音聞いただろ? だから、終わってないんだ」

「遊、意味わかんない」

「だよなー」


 遊は困ったように頭をかいた。


「じゃあ、これからハッキリと言ってもいいか」

「え?」

「今回の黒幕は七瀬のお父さん、七瀬元靖だ」

「……」


 七瀬は黙り込んだ。


「だよな。お前を捨てたとはいえ、嫌だよな」

「……はい」


 だが、遊は話を続けた。


「今回、行動した理由は七瀬を狙い、お前の忌み子の能力をあいつの計画に利用するためなんだ」

「その、計画って何ですか?」

「詳細は俺もわからん。だけど、その中で張り合いしているんだ。それが今のこの音なんだ……」


 遊が丘の反対側の方を軽く見た。それに合わせたように戦闘音が響いた。


「わかりました……」


 七瀬は引き下がるように言った。そして、丘の反対側へとたどり着いた。木々が生い茂っているので裏からは登るところは一切ない。だが、遊はスーツを着て身体強化を行った。


「じゃあ、ここから登って頂上へ行くぞ」

「行けるような道ないよ?」

「大丈夫だって。あそこに獣道があるだろ?」


 遊が指差したところは何故か道のように草や木々が生えていなかった。


「あれを通って上に行くんだ」


 そして、指を丘の頂上へと指した。二人は少し嫌そうに顔を引きつらせた。


「嫌なら残ってってもいいぞ?」


 その獣道を行こうとした遊が後ろにいた二人を振り返って言った。


「いえ、私も行きます。お父さんとは話すことがあるので」

「零も。千紘ちゃんだけ行くのは嫌だから……」

「じゃあ、行くことでいいんだな?」


 二人は頷いた。遊は仲良さそうにしている二人に微笑ましく思った。

 獣道へと入るとつい先日見つけた小屋を見つけた。前、来た時には二人いたはずだったが今日は一人だけだった。


「よ。久々だな」


 遊は手をヒョイとあげて挨拶をした。


「お、お久しぶりです。遊さん」


 そこにいた芽衣が軽くお辞儀をして言った。


「遊、そこの女とどんな関係?」

「おい、零。初対面の相手に失礼だぞ。それとこの子は解放事件の時にいた子だ」


 遊が零の言葉を訂正するように言った。だが、零は不満そうにしていた。


「先輩。やっぱり隠してたじゃないですか」

「お前が忌み子だなんてあの時、わかってたと思うか?」

「いいえ」

「なら、黙っててもらおうか」


 何故か遊はテンポよくツッコミをする羽目になっていた。


「それで? こんな時間に何で起きてるんだ?」

「えーっと」


 芽衣は少しモジモジと恥ずかしそうにしていたが顔をあげて言った。


「大きな音がするので目が覚めました。それで隣で寝ていた颯斗くんを起こそうと思ったんですがいなくて……」

「そうか……」


 遊は知っていたので当然だろうとは思っていたが本人にここで伝えるわけには

いかないとも思った。


「それならさ、俺ら、今からその様子を見に行くんだが一緒に行くか?」

「え?」


 芽衣は遊を見つめた。


「一緒に? いいんですか?」

「いいぞ。でも、ある程度のことは覚悟したほうがいいぞ」

「な、何でですか?」

「多分、お前が知りたくない事実があると思うからさ……」


 遊はわざと曖昧な言葉回しを使った。それに反応したのか芽衣は。


「わかりました。連れて行ってください」


 そして、遊は零、七瀬、芽衣を連れて現場へと向かった。



 柿田は苦戦を強いられていた。

 この男の強さは人間業ではない。それに先ほどの治維会に所属していたという言葉に引っかかっていた。


「お前……。色々と隠しているな……」


 柿田が睨みつけるように言った。


「それはお互い様だ。忌み子ならば大人しくしていればいいものを……」


 元靖は呆れ口調で見下して言った。


「……」


 柿田は黙り込んだ。そして、一呼吸をして目を見開いた。


「ハッ!」


 柿田は移動して重心を下げて右アッパーをかました。だが、元靖は左手で軽々と受け止めた。そして、右手を握りしめたまま腕を大きく回し、振り下ろした。


「⁉︎」


 柿田は振り下ろされるタイミングで足を後ろへ振り回した。その足は元靖の腹へと刺さった。その反動で柿田を掴んでいた左手が離れてしまった。

 その場で一回転し、地面に足をつけた柿田はすぐに腹へ殴った。元靖はフラリとふらついた。

 やっと、しっかりとしたダメージが入った。


「忌み子とはいえやるなぁ……」


 元靖は感心したように言った。


「フン……」


 柿田は鼻を鳴らすと後ろを見た。

 柿田がかき集めた忌み子たちは颯斗一人に完全手こずっていた。


「俺が育て上げた自慢の弟子だ。そう簡単にはやられないぞ……」


 元靖はニヤリと笑った。


「後で俺が型をきっちりつけてやる」


 柿田は憤ったように言った。


「そうでもしても倒せないのか……? あんたのところは役立たずが多いのだな……。それじゃあ、あの男は倒せないぞ……」


 元靖は皮肉を言った。


「……」


 柿田は黙り込んだ。本当に何とかしなければならない状況になりそうと自分でも予感したからだ。


「じゃあ、俺がここでお前を倒してやるよ!」


 柿田はがなりながら言った。すると、元靖は両手を広げて笑いながら言った。


「そう、そのいきだよ。柿田……! そうでなきゃ……!」


 柿田は普段と違う元靖に首を傾げたが元靖はまだ続けた。


「そうでないと日暮には勝てないぞ……」

「どういう意味だ……」


 柿田が眉を顰めた。


「どうもこうもないだろ。そのままの意味だ……」

「は? その部分を教えろよ……」


 二人の間では重い空気が流れていた。


「油断してると抜かされてしまうぞ……」

「だから、何だっていうんだよ……!」

「絶対にわかるさ……。すぐにね……」

「⁉︎」


 柿田が気づいた時には元靖に頰に拳が当たっていた。その拳は。


「元靖……!」


 遊のものであった。そして、その後ろには。


「柿田……!」

「お、お父さん……」

「颯斗くん……?」


 三者三様に反応していた零、七瀬、芽衣がいた。

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