Episode26 推測
遊たちは先日、依頼で行っていた丘を走って目指した。
「先輩! 何が何なんですか!」
七瀬が不思議そうに遊に尋ねた。
「あ?」
「だから、何でこんな夜遅くに外に行くんですか!」
「何でってな……。とりあえず、やばいの」
遊は七瀬をチラリと振り向きながら言った。その時に七瀬は怪我したばかりというのに気づいた。
「お前のその怪我さ。柿田だろ?」
さっき立てた仮説を立証していくことにした。
「か、柿田? 誰ですか?」
七瀬がキョトンとした。遊は気づいてため息を吐くと言い直した。
「忌み子を連れていた男にやられただろ? その怪我」
七瀬はその言葉を聞いて自分の怪我を見回した。
「そうですね。男の人が何人か連れてたのは見た……」
「殴られただろ?」
「そうですね……。殴られましたけど……」
七瀬は手を顎に当てて答えた。
「ま、そんな怪我して意識ある方がおかしいんだが、そん時のその男の様子は?」
「こ、怖かった……、かな」
これで遊の中で七瀬を襲ったのが柿田である確信を持った。四月末に襲われた時も遊自身も恐ろしいと思ったからだ。
「じゃあ、今はどうやって暮らしてるか?」
「今? 今は会長が用意してくれた家に住んでますよ。アパートですけど」
なるほど。それだから元靖は簡単には手に入らないわけだ。あの後の行方を知っていなかったから。元靖の考えが狂ったのは解放事件の時。その解放事件を起こしたのは遊。
だから、狙うわけだ。
「やっとピースが埋まって来た……」
遊は一人呟くと改めて正面を向き直した。
「⁉︎」
遊は立ち止まった。それに合わせて七瀬と零も止まる。
「今、聞こえたか?」
「うん」
遊が尋ねると二人とも頷いた。その内容は戦闘音。低い音がこの辺りに広まった。
「もう始まってるみたいだ。被害を減らせるように立ち回るがどうなるかわからない。だから、いつでも戦えるようにしてくれないか?」
「了解です」
二人に緊張感が走った。
「いくぞ……」
そう言った瞬間、さらに大きな音がした。だが、立ち止まらずに走った。
どっちが優勢だ……?
そう考えてもはっきりと答えは出なかった。
目的地としている丘の近くまで来た。さっき聞こえた戦闘音がさらに大きく聞こえる。遊は気づかれないように建物の影に隠れて除いた。そこには柿田と先ほど松本を襲撃した七瀬元靖がいた。
「やっぱりか……」
そう呟いて少しだけ状況を見ることにした。だが、状況を見ていくうちに一方的であることに気付いた。
元靖が忌み子たちに隙を全く見せずただ冷静に忌み子たちを払っていっていた。しかも、電撃のようなものも見えていた。
「なあ、お前のお父さん、何か能力とか持ってるのか?」
後ろでジッとしていた七瀬に尋ねた。
「え? そんな話をしていたところは一回もないですよ。それがどうしたんですか?」
遊はもう一度戦況を確かめた。遊がさっき見た通り元靖が柿田陣営の忌み子たちを払う時に電気が少しだけだが放出していた。注意深く観察して見てみることにした。
能力もなしにこんなことをできるはずない。そう確信して観察した。すると、大きく元靖が動いた。そして、その勢いで背中が見えた。そこには、青い色をした線が走っていた。さらに、電気がピリピリと出ているのが確認できた。
「スーツか……? だが、あいつが所属してるわけではなし、あんなデザインのものは見たことはないぞ……」
遊が呟いた。
「遊? どうしたの? 何かわかった?」
七瀬の後ろにいた零がピョコンと顔を出して言った。遊は携帯を操作しながら答えた。
「わかったと言うよりか疑問点だ」
「じゃあ、何で電話するの?」
零は遊が携帯を耳元に当てていることに指摘した。遊は軽く微笑むと答えた。
「その疑問を確認するんだ」
三回ほどコールすると相手が出た。
「会長! 今から言うことを調べてもらっていいかな?」
「か、会長?」
七瀬は遊から出た名前に疑問を持った。
『全然、いいけどさ……。今、何してるの?』
携帯からとてつもなく眠そうな声が聞こえた。
「そんなのは後で説明する。今から言う人物が治維会にいたか教えてくれないか?」
遊が完全に沙良の話を遠くへやり質問した。
『はいどうぞ』
「七瀬元靖。こいつの名前だ」
遊はゆっくりはっきりと言った。
『十分くらい時間くれない? それからまた電話かける』
「了解」
そして、遊は通話を切った。
「さて、時間をどう潰すか……」
「しりとり?」
「おい、零。時と場合を考えろ」
「ごめんなさい」
遊は零のボケに突っ込んだ。こんな状況でしりとりは緊張感を感じさせない。
「⁉︎」
遊は突如となる殺気を感じて後ろを振り返ると丘にいた元靖からの視線がこちらに向けられていた。
「逃げるぞ!」
二人を促して丘とは逆方向へと逃げた。その間に銃弾が何発か撃たれたが当たるまでには行かなかった。
「あいつは……。何者なんだ……?」
撃つ前、元靖の目には青い眼帯のようなものが当てられていた。
「クソッ……! 考えるだけ無駄だ!」
そして、遊たちは遠回りをして丘の裏側へと向かった。すると、遊の携帯に着信が入った。
「会長? どうだった?」
『ええ、いたわ』
「まじか⁉︎」
遊がそういうと沙良は少しの間黙り込んだ。
「おい! どうした……⁉︎」
遊が心配して言うと息を深く吸って沙良は話し始めた。
『えーっとね……』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます