Episode30 後日談

 松本は警視庁の取調室へと来ていた。その扉を開けると椅子が一つ置いてあった。その向かい側には窓があり、その向こうには一人の男が座っていた。


「長官。また来ましたよ」


 松本が言うと男が頭をあげた。


「なんだ、松本か……。全部話したぞ?」


 男は呟いた。


「元靖さん。あの事件の後を知らせに来ました」


 男—元靖—は気づいたかのように口を『あ』の形にしていた。


「じゃあ、さっさと話してくれ」

「わかりましたよ」


 松本は目の前にあった椅子に座って元靖と向かい合った。


「あのところにいた柿田さんは未だに行方不明に、娘さんの千紘さんは普通の生活を送っていますよ」

「では、日暮は?」

「え? 日暮ですか?」


 松本は不意を突かれた様に間を置いた。


「日暮はですね。その後も変わらず動いていますよ。治維会の一人として」

「そうか……」


 元靖は感慨深そうに答えた。


「なんで聞いたんですか?」

「いや、あの男は必ず出世するだろうな……。と思ってな」


 松本は目を軽く見開いた。


「だが、その頃には俺は居ないだろうな」


 元靖は軽く笑い飛ばした。まだ、公判は行われていないのだが。


「では、これくらいで失礼します」

「ありがとう、話し相手がいて助かったよ」


 松本は軽く元靖の方を振り向くとなぜか元靖はピースサインをしていた。それを返すかのように松本もして、部屋を出た。



———五月九日



 遊は事件の翌日、取り調べなどで学校を休まざるを得なかった。そして、ある程度が終わったため学校の通学許可が下りたのである。

 実はあの事件後、別れてから七瀬とはまだ会っていない。その後をどうするのかまで全く話が通っていない。

 いつも通り、自分のクラスの席に着くと前みたいに斉藤が遊の前に立ちはだかった。怠いなとか思いながらため息をついた。


「おい、日暮。柿田はどこだ。あれから二週間学校に来てないじゃないか。何か知ってるか?」


 前みたいに胸ぐらを掴まれたりされるかもしれないので早めに言っておこうとなぜか思ってしまった。


「知らん。調べてたら居場所でも見つかるんじゃねえか?」

「は?」

「この前調べたら、指名手配になってたみたいだし」

「ふざけんじゃねえよ! 何、デマを言ってんだよ!」


 遊は斉藤にまた胸ぐらを掴まれていた。遊はその間に携帯端末を開けてその記事を見せた。


「……!」


 斉藤は遊の端末を取り床に投げ捨てた。


「そんなの認めねえぞ!」


 そのまま斉藤はどこかに行ってしまった。遊は綺麗に壊れてしまった端末を拾った。すると、その状況を見かねたのか同じクラスメイトである古崎が遊の側によった。


「私たちも言えないけどさ」

「ん?」

「おんなじだったよね。斉藤みたいに」

「ま、そうだな。人のこと言えねえよな」


 遊たちも柿田が国際テロ組織に入っていたという事実を受け入れるのにも時間がかかった。その時の気持ちも同じであった。


「それでも、あいつを止めなければならないのは俺らかもしれないけどな」

「そうかもね」


 そうして、一日の授業が全て終わった。放課後になるとそれぞれが部活などに出席するため色々と騒がしかったが遊は一人、生徒会室に赴いていた。


「会長ー」


 遊が生徒会室に入るといつもはいるはずの沙良がいない。


「何?」

「うおわッ⁉︎」


 遊の後ろから沙良が顔を出した。まだ生徒会室に来ていなかっただけらしい。


「今回の件で」

「了解」


 この一言で全てを察したらしい沙良はいつもの特等席である生徒会長席に座っていた。


「それで落ち着いたの?」

「一応、その情報は流れてるわけでしょ? ある程度はわかってるでしょ?」

「そりゃあね」

「なら、聞かなくても良いでしょ」

「そうね」


 沙良は区切りを付けるように咳払いをした。


「それで、七瀬さんはなんて言ってた?」

「いや、まだ会ってないからな……」

「あ、そう。なら、話を聞くと良いよ」

「え? って話されたのかよ!」

「ええ」


 遊は頭を抱えてため息をついた。


「じゃあ、今度会った時に聞いてみるわ」

「そうすると良いよ」

「これで話は終わり、帰るぞ」

「では、さようなら」

「じゃあな」


 遊は生徒会室の扉を開けて外に出た。



 遊は帰路についていた。

 柿田襲撃から今回の襲撃までの功績により遊は前よりも行動範囲が広がり、特に甲州市にいる忌み子たちの状況調査などが追加された。その点では喜ぶべきなのだろうが、昭島部署としては辛い状況が続くのが目に見えていた。


「そこんところは本当に考えなきゃな……」


 ポツリと呟いていた。

 それに加え、柿田捜索の部隊長にもなり、柿田が出て来た場合、優先的に捜査する事も決定した。これも含めるため人員確保は必須であった。

 自宅前についてカバンから鍵を取り出そうとすると後ろから声をかけられた。


「先輩」


 七瀬だ。


「何だ?」

「上がらせてもらっても良いですか?」

「え? あ、良いけど……」

「あ、ありがとうございます」


 七瀬はぺこりとお辞儀をした。そして、鍵を開けて家の中に入ると零が物凄い勢いで遊に飛びかかった。


「おかえりー!」

「た、ただいま。零、離れろ」


 だが、話を聞いていない様子だった。


「おい」

「ぐぬぬぬぬ……」


 零は遊ではなく七瀬の方向を見ていた。仲が良いはずではと首を傾げた。


「零ちゃん、久しぶり」


 七瀬の言葉にも少し棘があった。この二人はなぜ、こうなったのだろうか。

 仲が悪そうだった二人を玄関に残してカバンを寝室に置くと制服を緩めて楽そうな格好に変わった。


「それで、七瀬?」

「はい?」


 七瀬が玄関から顔を覗くようにこちらを見ていた。


「何の用?」


 すると、七瀬は俯いた。そして、玄関で靴を脱いで居間にいた遊の元に来た。


「この前のことで……」

「はいはい。俺も話がしたいと思ってたから早く座ってくれ」


 七瀬はその言葉を聞いて軽く笑顔になった。零はまだ怒っていた。


「おい、零。落ち着け」

「はい……」


 零は拗ねながらも了承した。

 居間に置いてある机を挟んで遊と七瀬が座った。そして、早速七瀬が話し始めた。


「ごめんなさい」

「え?」


 急に謝り始めた。


「私が忌み子であったことを隠しててすみません。初めてあった時に言っておけばよかったのに……」

「いやいや、気にすんなよ。初めて会った時のあの暗い感じのはびっくりしたけどさ」

「えっ⁉︎ そこについてじゃないですよ⁉︎」


 遊の言葉にツッコミを返した。遊は少し笑いながら答えた。


「知ってる。ただふざけただけ」


 七瀬は頰膨らませ怒ったように言った。


「それで本当にすみませんでした」

「だから、気にするなって。俺も非があるんだって」


 遊はため息を軽くついた。


「私がここで生きているから、私が忌み子であるから……」


 七瀬は俯いた。少し泣き声にも聞こえた。そして、その話を聞いて零も同じく

俯いた。

 遊は頭を抱えた。


「おい、お前ら。自虐思考すぎるだろ」

「え?」

「あのさ、そんなの言ったらさ。誰だってそう思うぞ」

「えーっと、どういうことですか?」


 七瀬が率直に質問した。


「例えば、昔、仲がいい友達がいました。すると、俺の秘密を知って避けるようになりました。これで俺が思うことは?」

「先輩が悪いって思う……」

「だけど、それだけで避ける奴を友達だと思うか?」

「それは……」

「じゃあ、話を戻すぞ? 俺はお前らがいたから悪いだとか忌み子であったことも悪いとは思ってない。それにこのことが起きたのにはお前らを利用しようとしたあいつらがおかしいからなんだ」


 二人は顔をゆっくりとあげた。


「なんていうかな……。わかりにくい言い方になるかも知れんがこういうことなんだよ」


 遊は座り直して言った。


「俺らは誰かに操られ、利用され、恨まれたり、嫌われたり、そんなことをされるためやその逆、さっき言ったことをするために生まれたんじゃない。俺ら自身が自分や関わってくれている誰かを幸せにするために生まれて来たんだよ」


 七瀬の目が大きく開いた。そして、目尻には涙が滲んでいた。


「わかったか? なら、自虐思考をやっても意味はない。これから何をどうやってするかが重要なんだ。それが誰かの幸せになるならそれが一番だな」


 遊は全て言い終わったように一息ついて七瀬の方を見た。すると、七瀬の頰に一筋の雫が流れていた。零は遊とすみ始めてから薄々気づいていたのかうんうんと軽く頷いていたがやはり、目尻が滲んでいた。


「じゃ、これからもよろしくな。七瀬」


 遊は手を差し出した。


「はい……!」


 七瀬は涙を拭いながら遊の手を握っていた。



 そしてその後、落ち着いた七瀬は遊たちを色々話をし、帰ろうとしていた。


「家まで送ってこうか? 暗くなってるし」

「結構です」


 七瀬は遊の提案を断った。


「では、お邪魔しました」

「じゃあな」

「千紘ちゃん、今度は急に来ないでね」


 遊の返事と裏腹に零の返事は冷たかった。


「うん……。では」


 七瀬は遊の家の玄関を開けて自宅への帰路へとついた。


「これで良かったんだよね……」


 七瀬は一人つぶやいていた。

 遊の話を聞いても罪悪感が胸に残る。自分だけが得したかのように感じて不安に感じたのだ。

 だが、それでも遊の側にいたいという思いはあった。

 自分を助けてくれた人、それがどんな人でどんな生活をしているのか。そんなところが気になっていた。なんで、あの場所に助けに来たのか。なんで、あんな派手なやり方をして助けに来たのだろうか。

 そんな話を零と二人きりになった時に話したのだが零には言っていないらしい。

 考え事をしているうちに家に着いていた。鍵を開けて家に入るとすぐに自分の部屋へと向かって行った。自室に入ると壁にもたれかかり座り込んだ。


「はあ……。これからか……」


 そう言ってクローゼットの方を見た。



「零?」

「何ー?」

「事務所行こうか……」


 遊はそんなことを呟いた。


「いいよ。すぐに準備して行こう……」


 零はすぐに同情して立ち上がった。そして、二人は身だしなみを整えて押し入れにあるゲートをくぐった。


 いつも通りに受付を済ませて事務所である《昭島部署》へ向かった。

 零は遊を覗き込むように質問した。


「なんで急に行こうとか言い出したの? 古崎さんに報告してなかったの?」

「いや、説明はしたぞ? なんとなくかな」

「ふーん」


 遊の行動に理解できないのか少し不満そうに答えた。そして、事務所の方へと行くと古崎が来ていた。


「あれ? 日暮、急にどうしたの?」


 古崎が遊のこの時間の来訪について疑問を投げた。


「いや、なんとなくだけど。なんか悪かったか?」


 遊は頭をかきながら答えた。そして、中央においてある椅子に座った。零は奥のソファに座った。


「な、なんでもない、けど」


 何か歯切れの悪い言い方だった。


「あっそ」


 遊は頬杖をついて周りを見渡した。

 柿田は『Blood Hells』に所属していたことが判明して治維会と対立するようになってからこの事務所を抜けて行った。そして遊は、なんだか広々としたこの空間にもようやく慣れてきた。

 だが、少々寂しくも感じた。騒がしいほどではないが柿田と話している時間は意外と良かったものだ。アニメの話に関しては全く追いつけなかったが。


「し、失礼します!」


 と考え事していると聞きなれた声が耳に入ってきた。古崎が立ち上がってその

人の側によって話しかけた。


「どうぞ。こちらの席にどうぞ」


 遊が座っている席の正面に座るように合図した。そして、正面に座ったのは。


「せ、先輩……⁉︎」

「お、七瀬か」


 遊は一般人並の返事をした。


「な、七瀬⁉︎」


 ここでようやく気づいたかのように椅子から立ち上がった。


「なんでここに⁉︎」

「そ、それはこっちのセリフです!」


 七瀬も恥ずかしそうに答えた。


「俺はなんとなく来たいなと思って来たんだが。七瀬こそなんで?」

「えーっと……」


 遊の質問に言いたくなさそうに目をそらした。とここで変わって答えたのは古崎だ。


「実は七瀬さんから治維会に入りたいという要望は前からもらっていてね」

「ってことはお前ら初対面じゃねえな」

「そうだね。入学式の後、会長に呼び出されて何かと思ったら七瀬さんを入れてあげてほしいという話でね」

「そういう話だったのか……」


 頭を抱えた。俺が知り合う前からそういうことをしていたなんて。沙良は七瀬の高校志願理由を知っていながら隠してたのか。今度、会ったら何か言ってやりたい。


「古崎先輩! どういうことですか⁉︎」

「私も日暮が急にきてビックリしたの。なんで来たの?」

「何それ、俺、ここにいちゃダメなの? ここの人間なのに?」

「っていうわけじゃないんですけど……」


 七瀬が否定したが遊はなぜそう言っているのかがわからなかった。


「恥ずかしいんです。先輩に見られるの……」

「なんで? 俺、何も他にばらす気ないけど」

「そういうのじゃなくて、私の憧れの人に初々しい姿を見られるのが……」


 遊はここで合点がついたように「あー」と口を開けた。


「古崎?」

「何?」

「七瀬って入ったんだよな?」

「そうだよ。それがどうしたの?」


 遊は古崎の質問を完全に無視して言った。


「七瀬、ようこそ。昭島部署へ」


 そして、手を差し出した。


「これからよろしく頼む」

「こちらこそです」


 七瀬は遊の手をしっかりと握りしめた。


「……恥ずかしいなこれ」


 遊がポツリと言った。


「日暮ってこういうの出来るんだー。へー」

「何その棒読み」

「遊、なんで零が入って来たときにはしなかったの?」

「どうでもいいだろ」


 遊は少し顔を赤らめて言った。


「ふん。遊は先輩と呼んでくれる女の子が好きなんだね」

「なんでそうなんだよ」

「じゃなかったら、零の時だってしてくれたでしょ!」

「お前は別だろ。一応、スカウトの形だろ?」

「そうだったけど……」


 零は視線を逸らして恥ずかしさを誤魔化そうとした。

 とこんな感じで進んでいくのだが心配でしかない昭島部署であった。これから四人体制で進んでいくととなった。



 柿田はとある場所にいた。

 先日、元靖を退けたのだが未だに疲労困憊であったため数日ここで休んでいた。だが、それだけではなかった。


「日暮、遊……」


 かつて、同じ場所で働いていた仲間の名前を口に出す。


「あいつは何者だ……?」



 そして、男は。

【僕が仕組んだこのボス選定戦】

 と一人呟き始めた。

【誰が一番を走っているか知らないけど】

 そして、拳を握った。

【勝てないよ。あの男には】

 自信有り気に言った。

【だって、僕だってギリギリのところでやられそうになったんだもん】

 と腕に出来た小さな古傷を摩った。

【まずは僕に勝たないとあの男にはたどり着けない。だけど】

 風が少し吹き込んだ。

【それまでにやられてしまってはおしまいだよ。元靖】

 そして、姿が消えていた。





ー後書ー


こんにちはころと申します。



ヒストリーブレイカー第一章、第二章お読みいただきありがとうございます。

渾身の一作だと思っております。



最初、一章だけとか言ってたのに二章に増えてます。ごめんなさい。

Episode12を公開した後、沢山の評価を頂いたんで読んでる皆さんから第一章終わりみたいな感じの雰囲気が出ていたので区切りました。

すみません。


で、さらに連載が何ヶ月も止まってたりしてました。リアルの多忙のせいです。こら、リアル。俺になんてことしてるんだ!(?)



設定自体は綿密に練りました。

とりあえず、前提として現実味を出すこと。

そして、その現実味の中にどうやって異能の力をうまく足せるかなんて考えました。


で、結果こうなりました。


文面だとか上手くいっていない部分がとても多かったかなと感じます。

ですけど、それは後回しにして。


話が多方向に飛んでいきすぎて収拾がつかないです。

一応、こんな感じで話展開を持って行こうかと考えましたが色々ぶっ飛んで行ってます。


会長、フラグ立ったのに何もなくてごめんね。個人的にフラグたったけどそこだけはくっついて欲しくないって思ってるから! ごめん!


と話し出すとキリがなくなってくる……w


でも、七瀬さんいい感じになったんじゃないでしょうか。

こんな後輩が欲しかったとか言ってみる。

いい子だとは思いますけどね。


でも、これを書いて思ったのは本当に細かくネタを考えないと色々な方向へとぶっ飛んでいくんで考えていきたいと思います!



そして、今回出て来た敵役たち!


柿田くんは友人に「ちょっと、衝撃すぎる!」と言われました。でも、彼からの柿田推しがやばかったので面白がってましたw


続いて元靖さん。これは立ち位置的にはほぼ最強なわけですよ。治維会のスーツを改良してね。でも、娘さんもチートでしたね。あの元靖を撃破するシーンはちょっと複雑なんですけど簡単に話すと七瀬さんが吸収した元靖の電気を逆流させてショートさせて使い物にならない状態にした感じです。はい。


最後に第二章最終話で話していた、我は最強みたいなやつ。あれはガチの化け物として登場させるつもりです。この男についての話はかなりネタバレになるので控えます。



そして、年明けから予告していた通りに連載休止を予定してますとか言ってましたがゆっくりと更新することとしました。

ご迷惑をかけてすみません。当時の僕が色々としてしまったようで……。

(テメエのことだろ)



では、改めまして「ヒストリーブレイカー第二章」を読んでいただきありがとうございます。


というわけでありがとうございました。

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ヒストリーブレイカー ころ @ko6

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