Episode3 仲間
遊が部署へと戻ると零の他に人がいた。
「オッス! 日暮」
「オッス! 柿田」
この部署に所属していて学校も同じの柿田剛がいた。背は俺よりも高く体もがっちりしている。遊とは仲が良いのだが学校ではあまり話していない。治維会に関係する話をしてしまうと色々とまずいからだ。
「あ! 遊おかえり!」
すると、零が遊に駆け寄った。
「お帰りなさい」
柿田のパートナーである奏多星もいた。彼も忌み子だ。彼は小柄ではあるが完全に勘で物事を考える柿田に対して頭脳で考えるため良い補佐役となっている。遊たちの場合になるとこれが逆になっているのだが。
「ああ、ただいま」
「手に何持ってるの?」
零は遊が手元を隠していたので気になったのか覗き込むように聞いた。
「あ、これか? 帰りに自販機によって来て買って来たんだよ」
遊は零のために買ったりんごジュースを机に置いた。
「やったー!」
零はりんごジュースを持って喜んだ。
「すまん、柿田たちの分買って来てないんだがいいか?」
「ああ、気にすんなって。また後で買いに行くことにするよ」
柿田は手を振り、携帯端末を開け言った。調べ物をするみたいだ。
「っていうよりか。日暮、今日来るの早いなぁ」
柿田が言った。遊は椅子に座りながら「え?」と声を出した。
「ああ。今日点検でさ。それで来てたんだよ」
机に肘をつき頬杖をつきながら言った。
「なるほどね。俺は西エリアの統括長に呼ばれたからここに」
「マジか……。スゲエな……。俺もそれくらい出世してえよ……」
遊はため息をついた。彼はまだ捜査にも行ったことがなく大規模な事件の時にテロリストを取り押さえるということや昭島部署の柿田か古崎に当たった事件を手伝うという地味なことをしていた。そんなことは飽き飽きしているようだった。
「出世とは違うだろ。合同演習だってさ」
「合同演習? どこの支部と?」
治維会には六つの支部がある。その中に部署があると考えたらいい。支部は札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、福岡だ。いずれも都市と発展していた。
「大阪だ。意外とそっちの方は血の気が多いって聞くからなぁ。ちょっとばかり辛い」
「あ。そう……」
遊は目を丸くした。
「ま、日暮はまだ仕事もらったことなかったんだっけか」
「おい。嫌味で言ってんのか?」
遊は柿田を思いっきり睨みつけた。柿田は手を振って言った。
「んなわけあるかよ。あれだけ治維会の支部内トーナメントでいい成績残してるのに捜査に出させてくれないなんてな〜、と思ってさ」
「そう言われてみればそうだな。この前はベスト一二八だったからな……」
ここの話で出ているトーナメントは年に二回行われている単純に実力勝負の場だ。力勝負のものと頭脳戦のものが年にそれぞれ一回ずつ行われている。毎回毎回、東京本部では所属している五◯◯◯人のうち二◯◯◯人が参加している。各パートナーとではなくその人自身の能力を試すというものだ。だから、普段捜査で犯人を捕らえるなどの成果を出していたとしても忌み子に頼っているかなど色々わかってしまう。
そして、遊が出たのは先日行われたばっかりの頭脳戦の方だ。力勝負に関してはボロボロになってしまう。まだ入って一年の遊にとっては設立当初からいた先輩にあたる人たちに勝てるはずもなかったのだ。だが、頭脳に関してはそれまでの知識や状況判断の積み重ねにあたるのでそこまで大きなハンデが出ないのである。
「でも、あれは奇跡に等しいだろ。あんなに得意分野出でくんだもん」
「得意分野って状況判断の方か……?」
「ああ……。ある程度心理戦みたいなもんだからな」
その頭脳戦ではチェスや将棋、状況判断の問題などが出された。今回はたまたま遊に得意な状況判断が多かったのだ。
「チェスとかもいいんだけどああいうのってかなり積み重ねとか必要じゃん?」
「まあ、そうだな……」
「それで勝てるなんてすげえよな……」
そして、遊はお茶を口に含み喉に流した。
「で、柿田何調べてんだ? アニメとか言わないだろうな」
すると、柿田は大きく手を広げた。
「そりゃそうだろ! 春アニメの一週目の感想を見忘れてたから今、見てんだよ!」
遊は思いっきりため息をついた。それとは対極に柿田は盛り上がっていた。
「すみません。こんな人で」
奏多がソファから顔を出して心配そうに言った。
「大丈夫だって。一応、知ってるからな……。俺が行くわけではないのにこいつの合同演習が心配になってくるぞ……」
「アハハ……」
奏多は苦笑いを返した。
「ねえ! 奏多くん! これどうするの?」
零がゲームをしていて詰まったようだった。
「木之原さん、ここはこうして……。こうすると……」
「おお! 奏多くんスゴイ!」
「いやいや、これくらいは簡単だよ」
「お前ら、本当仲良いな」
遊がボソッと呟くと奏多の体が少しピクッとするのが見えた。それを遊は微笑ましく眺めていた。
「星、そろそろ行くか」
「そ、そうですね。それではここで」
奏多は一礼をした。こう見ると柿田より奏多の方が大人のように見える。
「いってらっしゃい。頑張って来いよ!」
「おう! きっちり実力見せてきたるわ!」
そして、柿田たちは部署を出ていった。
「零、スーツの検査二時ぐらいに終わるらしいからそれまで我慢できるか……?」
「大丈夫! ゲームで時間潰しているからね!」
「はいはい。戻ったらスーパー行くからな」
「りょーかい!」
二時まで二人は部署でのんびりしていた。零はゲームをして、遊は昼寝をして過ごしていた。そして、時間になりスーツの返却場へと向かった。
「はい。検査が終わりました。少し調整してあるので確認しておいてくださいね」
担当の人からスーツを受け取った。
「ありがとう」
そう言ってこの場を後にした。
そして、家に帰ってくるといつもの風景が待っていた。日は南から少し西へとずれていた。
「じゃあ、行くか」
「うん」
二人はまた外出した。今度は地上の道を使ってここから徒歩五分ほどにあるスーパーへ向かった。遊たちは普段からこのスーパーを使っていて常連になっている。
「遊! 夜ご飯は何にするの?」
零は遊を覗き込むように言った。
「何しような……。何も決めてないしな……」
「じゃあ、ハンバーグがいい!」
「アハハ……。じゃあ、そうしようかな……」
「ヤッター!」
零がピョンピョン飛び跳ねて喜んだ。遊はそんな零を苦笑いをした。
そして、目的地であるスーパーに到着した。すると、零が飛び出して行った。
「先に挽肉見てくるよ!」
「はいはい。野菜とか見て回るからそこで待ってろよー!」
「わかったー!」
零は一目散に走って行ってしまった。遊は手を軽く振ってカートを押して野菜コーナーへ向かった。キャベツやトマト、きゅうりなどをカートに入れて零が待っているだろう精肉コーナーに向かった。
「ん……?」
遊は異変に気付いた。先に来たはずの零の姿がない。
「どこに行った……? まさかお菓子のところに行ってないだろうな……?」
と呟き、挽肉をカートに入れその場所へ向かった。だが、そこにいなかった。
「本当にどこに行ったんだ……?」
遊が知っている限りで零が行きそうなところを全て回ったがどこにもいなかった。
「先に精算して家戻ってから来るか……」
レジで精算をしてもらいマイバッグに商品を入れスーパーを出た。両手に抱えたマイバッグを見比べ家へと帰路についた。
「……」
家に戻って買って来た食品などを台所に置いた遊はすぐさまスーパーへと戻った。
(何もないことを祈るが……)
やはり、遊に嫌な予感が流れる。
(でも、ここまで居場所がわからないとそうと考えるしか……)
と不意に遊は立ち止まった。
「……」
遊の目の前に黒い外套を着てフードを顔を隠すほど覆った人がそこに立ってい
たからだ。その人から感じるのは威圧ではなく不思議な空気であった。
「……」
ここに重い空気が流れた。
「誰だテメェ……」
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