Episode2 日本治安維持委員会


 遊たちが入った空間を抜けた先には彼らが言っていた事務所である『日本治安維持委員会』という組織がある。


 日本治安維持委員会とは表向きには何一つ出てこない組織だ。目的は国際テロ組織の陰謀を暴き、解散させることという意外とシンプルなものだ。だが、それぞれが調査や捜査を行うため色々と細かく配備されている。その中の一つである捜査のときはパートナーである忌み子を使って二人一組で捜査をしている。忌み子を使う理由としては身体能力の高さが理由だ。救助の場合は先頭となって前線に出たり、テロリストと対峙することとなったとき援護してもらうためなどがある。そして、警察との合同捜査などを行う場合がある。その時は警察が隠密にしてくれている。なぜなら、捜査の度に成果をあげたりなど警察にとって役に立っていることを行っているからだ。その謝礼として隠密にいているために表に出てこないのだ。


 ワープゲートを抜けると電子のようなものでできたフロアが広がっている。ところどころバグで起こるような画面の歪みが見えるがこれは全て設計して作ってある。


 目の前には長いトンネルがある。そのトンネルの壁には最近の情報がモニターで表示されている。今日表示されている情報は第三次世界大戦の顛末を研究している人たちの報告。先日、仙台で起こった事件が解決された。など、重い話から今日誕生日の人や遊のように点検する人のための情報などいろいろだ。


 そんなトンネルを抜けると円形に広がっている部屋に辿り着く。ここは受付だ。床面積は約百平米となっていて広々としていた。そこで手続きを行う。遊は零を連れて円形の外側にあり奥へと続く通路のそばにある受付のところへと行く。


「おはようございまーす。日暮です」


 遊は受付に声をかけた。日本治安維持委員会は受付にこのようなアナログな方法を使っている。理由はただ単純、テロリストなどの侵入されないようにするためである。電子的なものだと偽装されることが多々ある。それを防ぐためだ。後、受付場所は三十箇所もあるがいつも同じ人で行うこともそういうものを防ぐためだ。


「おはようございます。日暮さん。今日はどのような用事に?」


 受付の人はいつもこういう質問をする。これもいつものお決まりであった。


「えーっと、メンテと部署の方に……」

「メンテと部署ね。わかりました。では、どうぞ」


 受付の人は内容をパソコンに打ち込んでからメモリを遊に渡した。それを遊はもらって奥の通路の奥にある中央センターへと向かう。


「うわぁ。今日は人が多いね。遊」

「ああ。今日、なんかあったっけ?」


 零は遊を見上げるように言った。それに反応して遊は目線を零に返した。


 中へ入ると普段より人混みが多かった。普段は人が少なく周りがよく見えているのだが今日は一面人に覆われていて何も見えなかった。


「零、はぐれるなよ」


 遊は零に手を差し出した。零は頷き彼の手を握った。


 二人は間をすり抜け奥にある彼らの部署へと向かった。すると、中央センターに設けられた大きなモニターが起動した。そこに映ったのはどこかの現場の映像だった。


『彼らは二年前の今日。活動を開始した。そして、その時より我々は彼らと戦っている。今年で終結を迎えられるよう全員が全身全霊で彼らのアジトを探すことが大事だ』


 動画はこの日のために作ったようだ。動画は字幕や写真と写真の切り替えにとても凝っていてどれだけの熱意があったか容易にわかる。


『そして、今日、そのことを忘れないようにと代表直々に激励の言葉をいただく。全員後ろを向け』


 すると、その場にいた人たちが後ろを向いた。そこには動画で言っていた通りに代表がいた。そして、大歓声が上がった。耳が痛くなるほどに野太い男の声が女の声をかき消すように中央センターに響いた。


「耳痛え……」


 遊はぼやいた。零も耳を塞いでいた。そしてしばらくすると、その歓声は終わった。


「すごい熱気だなぁ……」


 遊がそうぼやくと代表は一礼をして話し始めた。


「皆さん、おはようございます。代表の朝比奈沙良です。今日はお集まり頂きありがとうございます。では、簡潔にお話をさせていただきます。今日集まっていただいたのは我々治維会と国際テロ組織『Blood Hells』との攻防が始まり本日で二年となったことを再認識していただくことです」


 遊は代表である沙良を見た。彼女は齢十八にしてこの日本治安維持委員会、通称:治維会のトップにたった人である。遊はその一つ下であり、通っている学校が同じであるため面識はある。だが、いつも話せるわけでもなく顔見知り程度の関係だ。そして、遊がここに入ったのも彼女からの紹介だ。昨年、その高校に入学した時にアクシデントで彼女と決闘をすることとなりその成果を見込んでなのかわからないが、その後この組織に入らないかと推薦があったのだ。それもあったのだがもう一つのことが彼をこの組織へと導いたのだがそれはまたの話にしよう。


「この組織は十五年前。忌み子の保護のために設立されました。ですが、Blood Hellsが出て以来、我々は彼らに対応が集中していて組織が発足した時に掲げた目標とはずれて行く可能性があります。そんなことが二度となくなるようにしたいと私は考えています」


 この場にいる人たちはその話をしっかり聞いていた。全ての人々が。


「その認識を忘れないように。今回、皆さんを呼び出した理由はこのためです。理解したならば一日でも早く終わらせれるように今日から努力をするように!」


 沙良が最後の言葉を言いこの場を退出した。すると、また大きな歓声が上がりそれぞれがそれぞれの業務へと向かった。沙良が話していた時間は二分ほどだがそれでもこの場の全員の士気をあげた。


 だが、遊一人だけ小難しい顔をしていた。


「じゃあ、俺らも行くぞ。零」


 遊はそれをごまかすかのように零の手を取り言った。


「うん。早く終われるといいね」


 零は少しテンションが下がっているように口調が大人しかった。


「ああ、そうだな」


 そして、二人は事務所の方向へと向かった。




 日本治安維持委員会は先ほど二人一組で行動すると言った。だが、その二人一組の上にもう一つの組織がある。それは事務所だ。


 事務所とはそれぞれに管轄された部分を捜査するための本拠地みたいなもの

だ。その人たちそれぞれが住んでいる場所周辺を管轄することになっている。で、その管轄で一緒になった人がチームとなって捜査を補佐したりすることとなっている。


 で、遊たちが配属されているのは東京、昭島だ。遊はきっちりと表札に《昭島部署》と書かれているのを確認して中へと入って行った。


「こんちゃあ」


 中に入ると誰もいなかった。


 簡素な雰囲気のこの部屋が遊たち《昭島部署》だ。壁際にはちょっとしたソファに小型のテレビ、中央には机と腰をかけられる椅子が二つあった。普段、この部屋には他に二組のチームがいるのだがいなかった。


「えー? 今日は誰もいないの?」


 零が遊の後ろから顔を出し不思議そうに聞いた。


「みたいだな」


 遊は周りを見渡し、中央に置かれたテーブルの側にある椅子に腰掛けた。そして、体をそらして後ろを見た。


「柿田は当然のこととして、古崎がいないのは珍しいなぁ」

「そうだねぇ。まだかなぁ?」


 零は遊から見て向かいの椅子に座り呟いた。


「わかんねぇ。いつ来んだろな」


 遊は体を起こして立ち上がった。そして、部屋の外へと向かった。


「どこ行くの?」


 零は心配そうに言った。


「スーツ届けてくる。すぐ戻るから待っててくれ」


 遊は手を向けて言った。そして、スーツを管理している部署へと向かった。


 スーツとは通称であり実際には『アビリティスーツ』という。これは治維会に所属している全登録者に渡されている代物だ。これはテロリストと対峙した時、テロリストには特殊な装備などを持っているので対抗するために作られたものだ。これをつけていることで体に感じる重力を従来の五分の四ほどに落とし、身軽な動きをすることができる。それに加えて忌み子の能力とほぼ同等にするためになど色々な説があるがそれは割愛しよう。


 このスーツは登録直後にスキャナーを通してその人の身体を調べ、体にあったアビリティをつけてスーツとして渡されることとなっている。そして、そこから業務をこなして行くのをスーツが把握して強化するか力を抑えるかだとか色々やってくれているのだ。それは月に一回行い精密な検査を行っている。遊のスーツの点検は今日に当たるのだ。


 遊はその専用の窓口についた。


「えーっと、スーツの点検です」


 遊は登録証とスーツを渡した。受付の人は丁寧に受け取り登録証をスキャンした後、スーツを奥へと続くベルトコンベアに乗せてくれた。


「ありがとう。いつ取りに来ればいいか?」


 遊は疑問気味に聞いた。受付の人はパソコンを触り言った。


「二時ごろに取りに来てください」


 遊は携帯端末を取り出し時間を確認すると今は十時四十分。なので、あと三時間半ぐらい待つことになる。


「了解です。いつもありがとうございます」


 遊はそういうと部署の方へと向かった。と帰り道に当たる中央センターは慌ただしかった。何かあったのかまではわからないがとりあえず大変そうだ。


『千葉の方でコロシがあったそうだ! 奴らが関わっているかもしれん! 千葉

中央部署は向かうのだ!』


 とこのように中央センターは事件を知らせる放送をし、モニターに地図を出すなど実質の連絡機関にもなっている。


 そんな騒がしいのを遊は横目で見ながら昭島部署へと戻っていた。その道中にある自動販売機に立ち寄った。遊はお金を入れて指で追いながら飲み物を探した。


「えーっと、零はりんごジュース、と。俺はお茶、と……」


 遊はこの二つのボタンを押し、落ちてきた飲み物を持って部署へ向かった。

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