第一部 忌み子の在り方

第一章 彼らの存在

Episode1 平穏な日常

———四月二一日


 朝日が地を照らし始めた頃、東京郊外に遊はいた。この街の中心街から少し離れたところにある貧相な家に住んでいた。一階建てで部屋は居間と台所、お手洗いや洗面所、風呂場を覗くと一部屋しかない。その部屋に彼は寝ていた。


 ここの家主である遊は思わぬほどの真っ黒な髪をしている。夜になると闇に紛れてそうだ。髪は目にかかるか、かからないかぐらいの長さであった。手足は筋肉の筋が見えるほどにしっかりとしていた。顔立ちはテレビに出ている俳優のように綺麗に整っていた。


 と説明したがまだ遊は寝ている。すると、彼の上に一つの影が映った。小学生くらいの背丈の少女で銀色に染まった髪は短く肩にかかるか、かからないか微妙なところまでに伸びていた。格好は着替えていて動きやすそうな服に着替えている。


 そして、遊の上に座り込んだ。その時に遊からウッと呻き声を上げたのが聞こえた。だが、少女は容赦なしに叫んだ。


「遊! 起きろー! 朝だぞー!」


 遊は寝返りをした後、被っていた布団を頭が入るまで引っ張り中へと入れた。まだ起きたくないようだ。少女は表情を歪めた。


「なんで起きないのさ……。今日は久しぶりの休みだから零と遊んでくれるはずなのに……」


 不満そうに腕を組んだ。そこからブツブツ言った。


「いつもいつも学校で家にいないし、帰ってきたと思ったら買い物行くし、全然構ってくれないしさ!」

「ゴフッ……!」


 少女は遊を横目で見ながら蹴りを入れた。彼は思いっきり呻った。


「休日なんだからゆっくり寝させてくれ……」


 ようやく遊は返事を返した。そして、寝返りをした後、また布団に潜り直した。


「むー」


 少女は頰を膨らませながら呻った。そして、諦めたのか遊の上から降りた。


「なんで、起きないのさ……。せっかくの休日なのに……」


 と少女は手を顎に当てブツブツ呟いた。と閃いたようにポンと手を打った。


「遊が起きてくれないなら朝ごはん作って食べていようかな……。なら、遊の分も作れば……」

「ちょ、ちょっと待った! 起きるから!」


 と遊はものすごい勢いで布団から起き上がった。


「あ、おはよう。遊。そのまま遊は寝てたらよかったのに……。せっかく零が朝ごはんを作ろうと思ったのに……」


 少女はエプロンをつけてフライパンを持ち遊の前に立った。


「あ、おはよう。じゃねえよ! 零! 後、お前の料理は前一回食べたことあるけどゲロ吐くとこだったわ!」


 遊は零という少女に怒鳴った。彼女の名前はー木之原零ー。遊のところに居候している十四歳の少女だ。見た目が幼いので小学生とよく間違われていてショートヘアーで銀色の髪をしている。


「え? なんで?」

「え? なんで? じゃねえ! さっき理由説明したろ! 零には上手に料理できる技術がないんだよ! 技術!」

「技術ならあるぞ!」

「ん?」

「卵焼きは作れる」


 零は自慢気に言った。そこにドヤ顔を足した。


「だ〜か〜ら〜! それしか出来ねえだろ!」

「え〜。いいじゃん! たまには料理させてよ!」

「ダメだ。せめて俺が学校に行ってる間にでも練習してろ!」

「わかった」


 少々不満気に零は答えた。そこまで言われて拗ねているのだろう。


「なら、何をしたらいい?」


 さっきと表情が打って変わりどこかのラノベ主人公の妹のような振る舞いをした。


「てめえには何もすることはない。大人しくしてろ」

「わかったー!」


 零は手を大きく上げて言い、部屋を出た。遊は布団から出た後、服をラフな格好に着替え、台所に立って料理を始めた。


 今は二二七七年四月二十日、午前九時。遊の家でいつも通りの日常が始まる。


 そして十五分後、彼が作った料理が居間にあるちゃぶ台にに並んだ。朝ごはんはいかにも日本らしいご飯、味噌汁、漬物だ。遊本人が昔ながらの日本料理が好きだからだ。その関係であるかはわからないがちゃぶ台や座布団など二十世紀を思い出させるものがこの居間に入っていた。


「いただきます」


 二人は手を合わせ、目の前に並んだ料理に手をつけた。遊が半分ほど食べ終えた頃、零が彼に話しけた。


「で、遊! 今日はどこに行くのだ?」


 零は目を輝かせながら言った。だが、遊はいつもと変わらぬ表情をして言った。


「なんで、出掛けることが前提なんだよ……。まあ、出掛けるけどさ……」

「え! 本当に⁉︎ どこに行くの⁉︎」


 零は目を星のように輝かせた。


「なんだよ……」


 遊はジト目で返した。零は身をちゃぶ台から乗り出して言った。


「えー! だって今日は土曜日だよ!」


 そして、座布団に座り直し腕を組んで言った。


「それに普段平日なんて全く遊んでくれないしさ……」

「そりゃ、学校行ってるもんな」

「当たり前みたいに言わないでよ!」

「え? だってそうじゃん。俺ら学生は学業に専念すべきなんだよ」


 遊は正論を気持ち良く言えたそうで笑っていた。すると、零は不満そうな顔をした。


「? どうした零。なんかあったか?」


 遊は心配そうに顔を覗かせて言った。零は遊を見た後、プイとそっぽを向いた。


「だから、なんだって。言わないと俺にもわかんないぞ」


 遊はため息をついて言った。


「フン。零の気持ちをわかってくれない遊なんて知らない!」


 それでも、そっぽを向いた。


「はいはい。わからなくてすみませんね。後、早く飯食えよ。冷めちまうぞ」


 遊は箸で料理を指しながら言った。そして、リモコンをとってテレビをつけた。丁度、天気予報を報道していた。


『本日は東京全域で晴れる予報です。また、気温は昨日よりも高くなって過ごしやすくなるでしょう』


 お天気お姉さんが丁寧に説明していた。


「だってよ。出かけるにはいいかもしれんが食料がないからスーパー行かないとヤバイし、事務所いかないといけないし……」


 遊は零の方を見てぼやいた。零はまだ拗ね気味だった。


「だからさぁ……」


 遊は頭を掻きながらため息をついた。と、こんな零と約一年前から過ごしていた。


 そして数分後、遊は朝ごはんを食べ終えた。食器を台所のシンクに入れてトイレへと向かった。零はまだ全て食べていない。だが、なぜかブツブツ呟いていた。


「なんで零に構ってくれないのかな。そんなに事務所行くことが大事なのかなぁ……」


 と、遊への愚痴ばっかりだった。


 実は零は学校に行っていない。学校へ行っている遊とは違い平日の昼間は暇なのである。だが、なぜ教育が義務されている日本で学校へ行かないのか。それは彼女が忌み子であるからだ。普段、外にはあまり出ず家で過ごすことが多い。外に一人で出ると街の人たちから差別されてしまう。そんな理由があるため遊が家にいるときは嬉しいのであろう。では、なぜ遊は彼女と一緒に暮らしているのかは彼が言う事務所に行ってからになると思う。


「あ! そういえば今日点検の日だった!」


 遊が勢いよくトイレから飛び出した。


「え? 本当?」

 零が首を軽く傾げて言った。


「ああ。早く食べてくれ! 早めに点検しないと買い物行く時間が……!」

「わかった。早く食べるね」


 零は遊の言う通りに急いで食べ始めた。こんな感じがこの家ではほとんどである。


 遊は慌ただしく服を正装に着替え、零がご飯を食べる。そして、準備が終わる。すると、押入れの入り口に立つ。


「じゃあ、行くか」


 遊は零を見て言った。


「うん」


 零も遊に返した。


 そして、押入れの扉を開けるとそこには歪んだ空間が現れた。これはその事務所へと向かう通称『ゲート』と呼ばれる空間だ。外からの侵入経路はないためこの空間を通らなければならない。

 遊たちは足をその中へと入れ事務所へと向かった。

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