Episode5 懐かしい人物

 そして、次の日。


 遊は目覚めた後、着替えや朝食を済ませすぐに治維会へと向かった。無論、昨日のことを伝えに行くためだ。


 今日は昨日ほど人は多くなかった。中央センターが埋め尽くされていなかった。そして、その中央に設けられている椅子に座り込んだ。


「さて、どう伝えようか……」


 ポツリと呟いた。


 昨日のことは突飛なことで言葉で簡単に伝えられるものではない。表現することが難しいのだ。うーんと唸りながら考えていた。とその時声をかけられた。


「お! 遊! 久しぶりじゃねえか!」

「え?」


 遊は驚いたようでピクッと背筋が動いていた。ゆっくりと声の主の方を見ると遊の知る人物であった。


「海斗!」

「いつぶりだ?」

「多分、三ヶ月ぶりだな」


 遊が海斗と呼ぶ人物。それは遊がここに所属したての頃武闘をサシで教えてくれた人物なのだ。フルネームは朝比奈海斗。ここの代表である朝比奈沙良の兄である。


「それにしても事件とかに出れてるのか……? この前は出れてないとか言ってたけど」

「今もだって。全く依頼来ないし」

「そっか……。あ、なら、今度俺の事件が来た時一緒に連れてってやろうか? 沙良が何言うか知らんが」

「マジで? ありがと!」

「それで? 何かあったのか?」


 すると、海斗は遊を見透かしたかのように落ち着いた口調で言った。


「やっぱりわかんだね」


 遊は顔を海斗から逸らした。


「そりゃあな。結構付き合いあるからな」

「じゃあ、話すぞ」


 そして、遊は一通り話した。


 パートナーである零が男に拐われたこと、その拐った男が忌み子を洗脳して操っていたこと。そして、その男が治維会にいる可能性があること。


 話を聞いた海斗は難しい顔をした。


「そっか……。やっぱりか……」

「やっぱり……?」

「ああ。ここ最近、同種の事件が発生していてね」

「え?」


 ということは他にもパートナーを拐われた組があるということになる。だが、そんな情報は全く知らなかった。


「この前の千葉の事件もだ。そこに深く関わった治維会の人間はパートナーを拐われて帰って来たそうだ。後は一昨日の品川のもそうだ。あとは……」

「ちょっと待てよ。じゃあ、これで何人目なんだ?」

「八人目だ。おそらく今日もくる可能性が高い。何しろ先週からだからな」

「先週から……。ってことはその事件追ってる?」

「いや。担当してるのは沙良直轄の人間だ。俺はそこに入ってないから回って来ないんだよ」

「じゃあ、なんでここまで知ってるの?」

「そりゃあ、独自で調べているからな」

「独自……」


 普段、事件があった場合その管轄に当たっている部署が捜査する。彼らがその部署の人たちと協力して事件解決へと頑張っている。だが、その部署ではないの人も調べている。それはただ個人的に興味があるものだけだ。その人が所属している部署の管轄の事件がない場合のみでそれを許されている。


「それで、遊は知りたいとは思ってないのか?」

「思ってるさ。零はきっちり連れて帰ってやる」


 遊は拳を握って言った。そこから決意と覚悟が感じられた。


「じゃあ、今回で新たに分かったことがあるからそれをまずそこから調べるか」


 海斗の提案に遊は頷き二人は目的地へと歩き出した。



 そして、二人が目的地として向かったのは情報室だ。ここではインターネットを使った情報を仕入れることができる。それぞれの携帯端末でも出来るのだが情報量や回線の速さが格段に違うためここで使うことが多いのである。


「今日は少なめだな……。好きなところでいいぞ」

「分かった」


 普段、情報室に来る機会の少ない遊は感覚がわからないのだが海斗は普段から使っているようだった。


 そして、遊は情報室中央付近のパソコンを使うことにした。一方、海斗は遊より少し離れたパソコンを使っていた。すると、海斗が身振りをしていた。遊は何だろと考えたが答えが分かったようだ。


「ヘッドホンと……」


 パソコン本体の横に立てかけてあったヘッドホンを頭にはめた。じゃあ、始めようと思ったがパソコンのモニターからピコンという音が鳴った。今度も何だろと思いモニターを見渡した。そして、メールボックスに回線が入っていた。その中身を覗いてみると海斗からであった。


『今からここで通話するぞ。こっちからかけるから待機しててくれ』


 ここそんな機能まで付いてたのかよ。すげえな。


 そんな感想を心の中で言うと着信がかかった。


『すまん。こんな面倒なやり方だけど』

「大丈夫、大丈夫」

『治維会の関係者が高い状況だから許してくれ』

「全然、大丈夫だって」


 海斗が謝っていたが遊は遠慮した。遊から相談しているのにここまでしてくれた方に謝りたいものだ。


『じゃあ、その重要な証拠となる言動となっている。ベスト一二八。それはその前のトーナメントでいいんだよな?』

「多分。俺がトーナメントに出たのはこれが初めてだから、そうと考えるべきだと思う。こっちから調べるわ」

『了解』


 遊はパソコンで検索ページへと飛び、そこに載っていた『治維会極秘ページ』へと入った。そこから『トーナメント結果』に入った。そこには画像付きで紹介文が書かれていた。そのページを下っていき『前回の結果.PDF』を開けた。


「海斗、ページに入ったぞ」

『了解。じゃあ、被害にあった名前を挙げていくぞ』

「了解」


 そして、海斗は読み上げた。それを聞き遊は目を見開き固まった。

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