第二章 彼らの能力

Episode13 遊の生活

———四月二七日



「だから! 起きるってば!」


 と朝から遊の声がこの家に響いた。


「えー! いいじゃん! 零にも料理させてよ!」

「だから、この前も言っただろ? 俺がいない時に練習してろ!」

「やーだー!」


 遊の家では騒がしかった。


 髪がカラスのように真っ黒の方がー日暮遊ーだ。そして、背が低く銀髪をしているのがー木之原零ーだ。


「用意してやるから早く大人しくしろ」


 遊は布団から出ると制服に着替えるとエプロンをつけて台所にたった。そして、相変わらずの日常を送る。朝ごはんが出来ると居間に置いてある机の上へと並べた。


「いただきます」


 二人はほぼ同時に両手を合わせた。そして、目の前においてある料理へと手をつけた。


 この前の柿田の事件から数日。ほとんど前と変わらない日常を送っていた。


 事件の後、遊は柿田から受けた傷を治療したがそこまで大事にはならずそのままのように生活をしている。零の方も事件前より遊と一緒にいる機会が多く見える。


「今日で学校一週間分が終わるからな」

「本当に⁉︎ じゃあ、どこか連れてってくれる?」


 零が興奮した調子で言った。


「行くかよ。この前あんなことあったんだし。ゆっくりさせてくれてもいいだろ?」

「そ、そうだね」


 遊の中でもおそらく一生忘れられない事件となっただろう。謎は全くと言っていいほどわからかったのでこの後もつきまとう事件になっただろうと思う。


 遊は一気に食材を口へと運び込んだ。そして、食器を台所のシンクに入れた。


「じゃあ、食器だけ洗っててくれないか。もう行くからさ」

「はーい! 帰ってくるのは何時ぐらい?」

「多分、四時は過ぎると思う」

「わかったー!」


 元気よく言っていたがちょっと悲しそうにも聞こえた。


 遊は学校の用意を持って玄関へと向かった。すると、零が見送りに来てくれた。


「じゃあ、行ってくるな」

「いってらっしゃい!」


 零は笑顔で言った。遊はそれを見て軽く笑って玄関の扉をあけた。


 だんだん夏に近づいて来ているので日に日に暑くなってくるのを感じていたが今日は比較的涼しかった。学校への道中は誰も知り合いはいないのでそのままゆっくりと行くことができる。


 そして、約十分後。遊の通う学校へとたどり着いた。昭島市にある高校はこの学校一つだけだ。まだ、消滅していない都市のほとんどは市町村に一個高校がある状態となっていて多くても三個ほどしかない。


 下駄箱で上履きに履き替え教室へと向かって行く。


 この学校は生徒数六百人ほど。各学年に二百人ほどの生徒がいる。遊はその中の二年生だ。で、その頂点に立っているのはあの絶対君主、朝比奈沙良であった。


 遊は教室に入ると自分の席につき朝礼が始まるまでぼんやりと待つことにした。なぜなら、遊は学校に友達と呼べる人が少ない。というよりか彼から話しかけるというようなことをしていない。そのため学年での評価はあまり良くない。


 そして、時間は流れ朝礼が終わった。相変わらず柿田は登校せず、クラスでも少しざわついていた。これで四日目。犯罪者として一応名前は上がっているもののメディアなでで騒がれていないのでクラスの生徒は情報を仕入れ難いのだろう。でも、学校ではそのようなことする人物ではないのでそもそも調べる方がおかしいのだろうか。


 一限目前の休み時間。


「おい。日暮」

「あ?」


 遊は声の主の方へと振り向いた。それは柿田とよく絡んでいた斉藤嶺二だ。


「柿田はどうした」


 やっぱりかと思いため息をついた。


「知らない」

「ああ、そうか」


 と軽々しく了承した。


「本当だな?」


 斉藤の声色が急に落ちた。


「本当じゃないならなんなんだよ」


 遊もそれに対抗した。すると、クラスからの視線が一気に集まる。


「もう一度聞く。柿田はどうした」

「知らない」


 そして、斉藤は痺れを切らしたのか遊の胸倉を掴んだ。


「本当のことを言えや。じゃないとぶっ飛ばすぞ」


 遊はため息をついて言った。


「例えば、今、俺がここで柿田について言ったとしよう。お前、どうせ俺のこと殴るだろ?」

「は? どういうことだ」


 斉藤は顔を歪めた。


「だから、言った時点でそれを信じないで俺に八つ当たりするって感じだ」

「何言ってんだ。バカじゃないのか」

「そうだな。俺は知らない。だから、降ろしてもらえるかな」

「んなわけねえだろ」

「だから、それだって」


 遊は指摘した。


「そういう姿勢のことを言ってんだよ。改めて言うぞ俺は何も知らないぞ」

「チッ……」


 斉藤は舌打ちをし、遊を降ろした後、自分が元いた場所へと戻って行った。


 斉藤はこのクラスでの怪力なのだが短気なところがある。なので、相手に交渉する際、好戦的な態度が目立っているのは前々から知っていた。でも、今日はそれに拍車をかけていた。


 遊は大きなため息をついて一限目まで待った。


 そして、時間を進み放課後。遊はいつも通りに帰るため昇降口へと向かった。その道中にとある人物が目に映った。その人を見た瞬間、遊はため息をついた。


「なんでため息してんの?」

「ため息するだろ……。一年前みたいにされるのはもうごめんだ」


 そう、ー朝比奈沙良ーだ。彼女はこの学校の生徒会長をやっていて、治維会の代表も勤めている。遊が治維会に入るきっかけとなった人物だ。


「大丈夫って。ちょっと生徒会室に来てもらえる?」

「はあ……」


 ため息をついた遊は沙良について行くように生徒会室へと向かった。

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