Episode18 救世主

———五月七日



 あれから数日間、色々と仕事をさせられていた。


「今日もか……」


 遊は教室でため息をつきながら呟いた。カバンを持って今日も生徒会室へと向かう。生徒会室にはいつも通り七瀬が待っていた。


「こんにちは、先輩」

「ああ」


 最近は出会った当初に見せた本気トーンはなかなか出てこなくなっていた。しっかり者の後輩みたいな雰囲気に変わっていた。

 普段通り、沙良が用意した資料を見ていく。今日は珍しくしっかりとしたものが見つかった。


「これは苦情とかの話だよな」


 遊は手にとったプリントを見ながら言った。そこには最近、裏手にある丘から騒音が聞こえるとのものだ。


「丘ってのは神社があるところだっけ? 初詣とかで賑わってる」

「そうですよ。でも、あの丘は広いですからどこからというのはわからないのでは?」

「ああそういえば」


 遊は資料を見ながら悩んだ。そして、出した結論は。


「行こうか」

「先輩が言うならどうぞ」


 とまとまったのでその現場へと向かった。

 そこは丘になっていて頂上付近に神社が建っている。そこへと続く道は綺麗に整備されていて比較的簡単に登ることができる。二人は神社の門前へとたどり着いた。


 遊は手に持っていた資料を見た。


「この辺りで騒音が聞こえる……か。見ている感じそんなことないと思うのだがなぁ……」

「そうですね……。でも、聞こえていたから依頼が来ていたんでしょう」

「だよなぁ……」


 遊は周りを見渡した。この辺りには神社の本殿がありその周りには木々が生えているばかりであった。

 と急に地響きが響いた。


「どこからしたか?」


 遊は七瀬のそばへと駆け寄った。


「おそらく本殿の後ろの方から……」


 七瀬が本殿の方を見た。それに合わせて遊も見る。


「じゃあ、俺一人で行って来る」


 遊は足を踏み出した。と七瀬が遊の手を取った。


「?」

「危険です。私も行きます」

「いいよ。俺が全部やる」


 遊は七瀬の手を振り切って音がしたとされる本殿の裏に向かった。何か危険がある可能性があるため覗いて確認した。だが、何もなかった。

 ふうと息を吐くと裏へと回った。本当に特に何もなく安全に行くことができた。


「何もないな……」


 本殿の表側よりは狭いが比較的スペースがあった。よく見ると、裏側は急な傾斜になっていた。遊は上から覗いて見ると本当に傾斜がキツかった。足を踏み入れると砂利がコロコロと落ちていった。


「すげえ高いな……」


 遊が小学生並みの感想を述べると下から怒声が聞こえた。


「誰だッッッッ!!!!」


 声色から中学生になりたての男子と考えられた。遊は一度その場で考えたがすぐにスーツを装着して声がした崖の下へと降りて行った。


 無事、下に降りると小さな小屋があった。広さは六畳ほど。とても小さかった。さらに壁材として使っている木材が少なからず剥がれている部分があった。

 そして、目の前にはさっきの声の主と思われる少年とその少年より少し年齢が低そうな少女がいた。


「何の用だ」


 ものすごい見目で遊を睨みつけた。


「ちょっとね。騒音がうるさいと言われて」

「は?」


 少年が聞き返した。


「そのままだよ、そのまま。で、ここで二人で暮らしてるのか?」

「ああ、そうだよ。なんか文句あるのか?」

「全く。すごいな、ってくらいかな」


 遊は正直なことを述べた。はっきり言って遊自身も料理ができるようになったのはつい最近なので、この二人くらいのような年齢の時には出来ていなかったのだ。


「だから、何なんだ? 俺らを痛ぶりに来たのならとことん殴るぞ」


 少年は身構えた。


「いいや、このスーツ見て思い当たらないってことは街にあまり行ったことがないってことか……」

「そんなもの着てるやつなんて見たことはない」

「そうか」


 遊は二人に向き合い、しゃがんで言った。


「君たち忌み子?」

「ああ、そうだ」

「それで知らないのは治維会も働いてないってことだな。また、余計な仕事が増えるなこれは……」


 遊は頭をかいた。すると、少年の後ろにいた少女が言った。


「治維会に所属してるのですか……?」


 とてもか細い声で言った。遊はフッと口元を緩めると彼女の目線に合わせた。


「そうだ。治維会のこと知ってるのか?」

「はい、一時期そこに預けられていましたから」

「おい、芽衣、これ以上喋るな」


 少女は芽衣と言った。


「ううん、颯斗くん。この人たちは、ううん。この人は大丈夫」


 そして、少年の方は颯斗と言った。


「だからってな。軽々と話されたら俺らが後で……」

「そんな心配すんなって」

「だから、テメエが……!」

「あなたはあの解放事件の人ですよね」


 颯斗の怒声をかき消すように芽衣が遊に話始めた。


「そうだな。芽衣もあの時にいたのか?」

「はい。あの後、甲州へ連れられて行きました」


 芽衣は少々うつむきながら言った。


「ですが、あの時のおかげで颯斗と出会うことはありませんでした。ありがとうございます」


 と深々と頭を下げられてしまった。


「そんなことないって。大体、大袈裟なんだって」

「どういうところがですか?」


 遊は指で頬を軽くかいた後言った。


「この前にもあの事件で解放された奴にも出会ったんだがその時にも言われたんだ。俺が助けたから生きてるってな」

「……」


 芽衣も颯斗も二人して黙っていた。


「でも、俺はお前らが描いてるような救世主でもないしヒーローでもないんだって」

「……」


 遊は立ち上がると最後にこう言った。


「お前ら仲良くな。うるさい音出すなよ! 後、幸せになれよ」


 二人は少し恥ずかしそうにした。


「うるさい! 早くとっとと行け!」


 颯斗が恥ずかしそうに反論した。


「はいはい。行きますよ」


 そう言ってジャンプしてさっき降りてくる前にいた場所へと行った。そこには、七瀬がいた。


「先に帰れって行っただろ?」


 遊は不満気に言うと七瀬は俯いた。


「でも、心配だったので……」

「あっ、そう……」

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