Episode17 少年の言葉

 次の日、つまり四月二八日。この日は土曜日であるので学校が休みなのだが遊は学校に来ていた。部活に入っているわけではないがとある少年に呼び出され来たのである。


 遊はその少年と初めて会った場所へと向かった。時間としては待ち合わせ時間の十分前。とすでにその少年がいた。


「おはよう」


 遊は座っていた少年の横に座り込んだ。


「で、何かようか……?」


 遊は単刀直入に聞いた。


「何も用は……ないです」

「なら、なんで呼んだ?」


 すると、黙り込んだ。遊は軽くため息をつくと立ち上がった。


「じゃあ、俺は行くぞ……」

「待ってください!」

「何の用だ」


 遊は威厳強く言った。すると、少年は下を向いてモジモジしていながら言った。


「お礼をしたくて……」

「お礼……?」


 遊は聞き返した。


「一年前の解放事件です」


 ここでようやく合点がついた。当時、あの場所にいた少年だったのだ。

 遊は頭を抱えながらため息をついた後、さっきいた位置へと戻った。


「……何もしてないぞ、俺は…………」

「いえ……。僕、いえ、僕たちはあなたに救われて今、生きてるんです」


 少年は確信を持ったように言った。


「そうか……」

「そうです。皆、甲州でのびのび暮らしてますよ」


 遊は息をゆっくり吐くと話を続けた。


「俺はあの後、処分されるかもしれなかったんだ」

「え……?」


 少年は驚いて遊の方を見つめた。


「なぜ、保護していた忌み子たちを外に出す必要がある。なぜ、我々が保護しているのかわかっていないのか……。ってな」

「……」

「でも、俺はその時ハッキリ言ってやった」


 遊は少年の方を見た。


「保護と言うなら何で檻の中に入れる……。その後、誰も答えなかった。多分、それで気づいたんだろうな」

「……」


 少年の顔が少し明るくなった。


「その後は保護した忌み子はある程度施設で面倒を見てから消滅都市へと送ることとなったんだ」

「それが今の状態ですか」

「そうとも言えないのだがな」

「ど、どういうことですか?」

「おそらく、こういう話し方だから治維会に入っていることはわかるだろ?」


 少年は頷いた。


「ついこの前、起きた事件の後にたくさんの人が追放されたんだ」

「つ、追放? それにまき……」

「巻き込まれてないぞ。その追放された人たちは忌み子に差別的な思想を持っている人たちばかりだ」

「そうだったんですか」

「だから、まだ一部ではこういう虐待が起こってるはずなんだ。まあ、俺も把握できないから何とも言えないのだけどな」


 少年は黙り込んだ。何か思案してるのだろう。


「今はともかく僕たちはあなたに助けられたんです。本当にありがとうございました」

「だから、何もしてないって」

「また今度甲州に行ってあげてください」

「……もちろん行くつもりさ。別の人に言われたからな」

「そうなんですか?」

「いつかはまだ決まってないけどな。できれば早めに行きたいとは思ってるよ。遅くて来月中には」

「では、連絡してもいいですか?」

「まだだな。最悪、俺とお前の分だけは交換しておこうか」


 と言って遊は携帯を取り出した。少年を見ると何も持っていなかった。


「携帯、持っていないのか」

「はい」

「そうか……」


 遊は考えた。何かその甲州へと連絡できる手段を。数分ほど考え出した答えは……。


「また、来週にここに来てくれるか? その時に色々、話すわ」

「え? でも、ゴールデンウィークでは……?」

「いや、俺は親族がいなくてさ。今、住んでる家で過ごすよ」

「そうなのですか……。では、またその時に」


 遊は何か思い出したようにポンと手を打った。


「あ、そうそう。名前は?」

「名前は秋葉曽良です」

「俺は日暮遊だ。ここ数日よろしく頼むな」

「はい。よろしくお願いします。日暮さん!」


 と少年は笑顔になって頭を下げた。


「じゃあ、曽良。これでいいか?」

「はい! ありがとうございました」


 遊は部屋の外へと向かった。扉を開けようとしながら後ろを振り返るとまだ、秋葉が笑顔で立ってくれていた。遊は手を上げてから扉を開け、廊下に出た。

 あの時、俺がしたことは正しかったのだろうか。そんなことを深く考える時がたまにある。その時があって零と会っているのだがそれも正しいのか。救われたと思われているのだろうか。このことは切っても切れない悩みだ。だが、今回話したことで少し気が楽になった気がした。


 すると、正面に七瀬が立っていた。


「七瀬、何してんだ?」

「どうでした?」

「ま、色々話せたから満足ってところかな」

「そうですか……」

「あ、後、仕事続けるから」

「わかりました」


 昇降口へ行く俺を七瀬は見送ってくれた。

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