Episode16 彼らの特性
「大丈夫か?」
遊はすぐにそばに寄った。遊がしゃがんで見ると膝に擦り傷を負っていた。
「⁉︎」
だが、異様な光と共に擦り傷の跡が完全になくなった。遊はすぐ近くに人がいないかを確認した。七瀬は扉の方で待機していたので大丈夫だろうと思い遊はそっと少年に耳打ちをした。
「お前、忌み子か?」
そういうとコクリと頷いた。
ここで疑問となるのが忌み子にこんな特性があるということだ。彼らは現在確認されている限りでは四種類の特性を持っている。例えば零のように俊敏性にたけた俊敏特性、柿田のような力がある打撃特性、彼の元パートナーの奏多のように脳での演算を得意とする頭脳特性、そして、この子のような治癒特性。彼らはそれぞれ特性を持っていて生活している。実はこのことは公にはされておらず治維会の中でしか知らされていない。もちろん、彼らが一番最初に発見したからだ。
「立てるか?」
遊は少年に促した。少年は頷き上体を起こした。
「多分、ここに長居すると他の奴らが絶対に来てしまう。その時、起こる可能性は何かわかるか?」
「うん」
「だから、早く行くんだ。だが、困ったら俺を探して見てくれ。俺はいつだってお前の味方だからな」
だが、少年は遊の制服の裾を持ったまま離れようとはしなかった。
「どうした?」
少し気になってしまったので遊は聞いた。
「また、ここに来ていいですか?」
「なんで?」
「話聞いてくれませんか?」
「……」
どういう話が来るのだろうか。疑問を持ってしまいそうだったが遊個人としては何か聞いてほしいことがあるのだろうと思った。なので。
「わかった。また、月曜日だな。明日は学校に来れないから」
「明日にしてください」
「そ、そうか? なら、そうしようか」
「本当に?」
「ああ。九時ぐらいでいいか? この部屋にいるからさ」
少年は頷き立ち上がると開いていた窓から外へと向かって行った。おそらくそこをすり抜けてから落ちて来たのだろう。
遊は立ち上がると七瀬が寄って来た。
「さっきの子は大丈夫なんですか?」
「多分。あ、で、さっきの話聞いてたか?」
「少々は……。あの子、また明日もくるんですね」
「そうみたいだ。何か話をしたいらしい」
そして、二人は部屋の外へと出て生徒会室へと向かった。生徒会室の部屋を開けると沙良が正面の椅子に座っていた。
「おかえり。どうだった?」
「疲れた」
「それだけ?」
「うん」
遊の感想があまりにも酷かったので沙良は聞き直してしまった。
「もうちょっといい感じの感想はないの?」
「ない。というわけで帰ります」
この部屋に置いてあったカバンを持って遊は生徒会室から出て家へと帰った。
「疲れたー!」
遊は家に帰ると同時に床に倒れ伏せた。零は心配そうに遊の側によった。
「何かあったの?」
「ああ……。疲れた」
遊は力がないように言った。
「夜ご飯作る元気がないけど頑張って作るわ……」
「いやいや、大変なら外食にしようよ!」
零が手を遊の肩に当てて言った。
「外食するならいいけど払うの俺だから逆に懐を削っていく感覚なのですが……」
「あ、そうか……」
零はうーんと唸って何か閃いたようにポンと手をついて言った。
「零が料理すればいいんだ!」
「すみません、それは結構です」
遊はゆっくり立ち上がると台所へ向かって夕食の準備を始めた。
「出来たぞー!」
およそ四十分後、本日の夕食が出来上がった。皿に盛り付けた後、居間の机へと並べた。
「いただきます」
遊たちは目の前の食事へと食らいついた。
「そういえば、今日学校で何かあったの?」
零が聞いた。
「あったのはあったのだが話すほどじゃないぞ」
「えー。そう言われると気になるじゃん」
「あ、明日も学校行くことになったから」
「何かあったんだ……!」
「でも、何も言わないぞ」
「教えてよ!」
「絶対に言いません」
「誰がそのことに関わってるの?」
「言いません」
「じゃあ、遊が普段してないことでしょ? なら……。って遊、なんでもできるから何が普段してないのかわからないや」
「自問自答したら答えは出ないぞー」
「むー」
零が不満気に頬を膨らませた。
「命に関わることじゃないから大丈夫だ。心配すんな」
遊はそういうとご飯を黙々と食べ始めた。零は少し心配そうだったが食べ始め
た。
「ごちそうさま」
そして、約十五分後、完食して食器を片付けて洗い始めた。
「零ー。風呂入れてくれないかー?」
食器を洗いながら遊は言った。
「わかったー」
零は返事をして風呂場へと向かった。
あの事件以来、零はなんだか素直になった。何があったのかわからないがいいことだと遊は思っていた。
食器を洗い終わると、普段通りに風呂に入って寝間着に着替えて布団に入った。
そして、しばらくすると声が聞こえた。
「遊」
隣で寝ている零のものだ。
「今日、本当に何があったの?」
「やっぱり気になるのか……」
「そりゃあそうでしょ。で、何があったの?」
と今日、あった経緯をすべて話した。沙良に振り回されたこと、忌み子が怪我していてまた、明日、話がしたいと言われたことについてだ。
零はそれを聞いてふーんと言ったがこう言った。
「普段、してないことをしていたんだね。なら、疲れても仕方がないんじゃない?」
「ほう? 珍しくいいこと言ってくれるじゃん」
「それは余計。明日、行ってあげて」
「? そんなところも珍しいな。何かあったか?」
「な、なんでもない……」
「気になるな……」
「絶対言わない」
「零が今、思っていることと俺は一緒なんだぞ?」
零は一瞬口ごもった。
「ごめんなさい」
「いいよ。俺も明日の朝には話さなきゃいけなかったし」
ちょっとした沈黙が訪れた。そして、気づいた時には寝てしまっていた。
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