Episode15 七瀬千紘

 急な七瀬の本気トーンに遊は驚きを隠せなかった。


「え」

「えっと、だから、私もやる気ないんでやめる交渉を会長にしませんかって話をしてるんですが」


 七瀬は本気トーンのまま続けた。


「真面目だよね? 君」


 あまりにも衝撃的すぎて遊は普段の状態を維持できず思わず聞いてしまった。


「そうですよ。いつもは良い子ぶっていますから。周りからはいい感じで見られているんじゃないですか?」

「じゃあ、俺の前で。しかも初対面なのに」

「え?」


 七瀬は手を顎に当てて少し考えた。


「私と同じような人だから?」


 首を傾げた。


「どういう感じで?」


 遊は聞き返した。


「本心は常にやる気ないなーとか思っているところとかですか?」

「そ、そうだな。俺は常に出ていて。あんたは人が少ないところで出すところが違うってわけか」

「ま、そういうことですかね」


 遊は正直に驚いていたがなんか納得してしまった。


「で、言いに行きます?」

「どうしようか」


 遊は悩みこんだ。


「悩んでるならやりましょう。一回やって『怠いです』的な事言っておけば辞めれると思うので」

「すごい悪知恵の働き方だなぁ……」


 というわけで行ってみると。


「絶対ダメです」


 沙良に完全に止められた。


「面倒いから良いじゃん」

「私は助っ人なので本人の意思を尊重します」


 あれ? さっき言ってたことと逆じゃない⁉︎


「もうちょっと社会を見てきなさい」


 という理由より先ほどの部屋へと強制返還。


「意外と無理だったか……。面倒くさいなー!」

「それなら、書類運びとかどうですか? ここには書いてはなかったですけど」


 資料を一枚一枚丁寧に見ながら七瀬が言った。


「そうだな……。それなら簡単かもなぁ……」


 遊は腕を交差してうーんと唸って考えた。


「そうしようか……」



 このことを沙良に説明するとあっさりと了承を得たので早速行動することにした。

 まず、職員室へ。


「じゃあ、この書類を科学室にいる人たちに。先生が科学資料として使ってくれと言っておいてくれ」

「わかりました」


 七瀬が好印象にその書類を受け取った。それは高さ的に十五センチほどあったので遊の方が少し多くなるように七瀬は渡した。


「え? あ、なんで?」


 遊は七瀬の行動に不信感を抱きながらあれこれ呟いているうちに七瀬は職員室から出ようとしていた。遊は慌てて追いかけた。


「早くないか? そんなに人と会うのが嫌なのか?」


 遊は気になったので聞いてみた。


「そりゃそうですよ。私、ちょっとした人混みが嫌なので」

「あー。あれか、中学失敗したから高校はいい感じで行こう的な」


 遊は納得したように七瀬のことについて肯定した。すると、七瀬が止まった。


「ど、どした? 図星だった?」


 遊は心配そうに首を傾げて言った。


「なんでもないです。早く届けましょう」


 ものすごい勢いで前へ進んで行ってしまった。怒ってるな。


「失礼します」


 科学室に着くと扉を開けて書類を渡した。


「これ、なんですか?」


 渡した相手の生徒が言った。


「先生が科学資料と言ってただけなのでおそらく見て頂いたらわかると思いますよ」


 七瀬が手慣れたように答えた。


「わ、わかりました」


 相手は不思議そうにしていた。書類をいろいろな方向から眺めていた。


「それでは、失礼します」


 そして、部屋を出た。また、さっきと同じように職員室へと向かった。する

と。


「んグッ!」


 遊は突然、後ろから蹴られた。振り向くと七瀬が立っていた。


「すみません。足が滑ったみたいで。でも、まぁ。さっきのよりはマシだと思いますけどね」

「怒ってますよね? ね?」

「いえ、全然」

「正直に言って」

「殺したいと思いました」

「すみませんでした」


 といろいろとあったが再び次の資料を受け取った。今度は体育館で部活中のバスケ部へと個人の成績をプリントしたものだ。比較的少なかったので遊一人で足りた。


「先輩は全くそういうの得意ではなさそうなので私が届けますね」


 先輩と呼ばれたの初めてだとかという初歩的な感想を持っていたがすごく冷徹な声色なので少し恐ろしくも感じた。

 そして、無事七瀬に届けてもらい一度生徒会室へと戻ることにしてその方向へと向かった。


「なあ、何か武術やってる?」

「名前で呼んでくださいよ。お互い名乗っているわけなので」


 遊の質問の仕方に不満を持ったのかふて腐れた様子で言った。


「七瀬」

「はい」

「武術やってたか?」

「やってますよ。合気道を。今は二段ぐらいですかね」

「すごいな。だから、さっきみたいな一撃が出せるんだ」

「もう一回やって欲しいんですか? 先輩、そういう趣味だったんですか」

「そんなわけないだろ! 後、七瀬も人のこと言えないじゃないか」

「どういうことですか?」

「だから、俺のことをただただ『先輩』というだけじゃないか」

「そんなのはどうでもいいじゃないですか」

「なぜ、そこをスルーした」


 そんなこんなで生徒会室へと近づいてきた。


「⁉︎」


 隣の教室から変な音が聞こえた。遊はすぐさまその部屋へと向かった。

 扉を開けると一人の少年が転がっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る