Episode19 再来
遊は七瀬と別れた後、生徒会室へと赴いていた。そこにはやはり、沙良がいた。
「お前、いつでもそこにいるな」
「一応、生徒会長なのでね」
「だからといってここまでする必要はないだろ」
遊は生徒会室においてあった椅子に座った。
「七瀬さんについて知ってる?」
「は?」
急に沙良に話されたので遊は驚いた。
「どういうことだよ」
「そのままの意味よ」
「意味がわからん」
遊は即答した。
「七瀬さんの家のことよ」
「あいつの家?」
意味がわからなさ過ぎて理解が追いつかなかった。
「あいつの家が何なんだよ」
遊は興味なさげに言った。
「じゃあ、治維会が警察と連携して捜査を行なっているのは知っているよね?」
「ああ、一応は」
「その中で優秀な人というのがそれぞれの共通認識が生まれるわけなのよ」
「どういうこと?」
遊は聞いた。
「どういうって……。そのままよ。警察に所属している人でこの人は優秀だよ、とか。その逆、治維会に所属しているこの人は優秀だよ、とかっていうもの」
「あー。なるほど」
つまり、それぞれが連携して捜査を行っているためこの人と組むといいみたいなものが生まれているということだ。
「それで? 七瀬の家とどう関係があるんだ?」
遊はさっきから疑問になっていたことを改めて聞いた。
「七瀬さんのお父さんが警察庁長官で治維会と何回も手を組んで捜査を行ってきた人なんだけど」
「その人がさっき言ってた優秀な人ってわけか」
「そういうこと」
沙良はピンポーンという代わりに指パッチンをした。
「他にもいるのだけど、七瀬さんのお父さんは凄いわけなのよ」
「ふーん、だから、捜査をする機会があるかもねっていうわけか」
「日暮くん、今日は勘がいいね」
「正解なのか……」
落胆したように言った。
「えぇ? なんで、落ち込むの?」
「なんか、人の心を見透かしてる感じで嫌なんだよ」
「そう言ってる割には人の心を見透かす将棋とかチェスとか得意だよね?」
「それとこれとは別だっての」
遊は視線を一回沙良と逆方向へとずらした。
「? こんなこと言うってことは何かあるのか?」
「お。また、勘が当たったね」
「またか……」
「そうなの。あの事件は終わってなかったみたいなの……」
「あの?」
遊は聞き返した。
「この前の」
「柿田のやつか?」
「そう」
「どうせまたどこかで会うとは思っていたが早過ぎないか?」
「そうとは思うけど目撃情報が入っているの」
「そうか……」
遊は肩を落とした。そして、立ち上がった。
「注意しておくよ、俺はもう行くから。七瀬のことは黙っておけばいいんだな?」
「うん、お願い」
「了解」
遊は生徒会室を後にした。
「おかえりー!」
遊が家に帰ると零が飛びついてきた。遊へと抱きついたため遊は動きにくそうだ。
「早く降りろよ。俺も暇じゃないんだからさ……」
「えぇ……。遊はいつも暇そうにしてんじゃん!」
「どこがだ!」
とツッコミが絶えない。
「テレビとか見てるし、学校で楽しそうにしてるし」
「意味がわからん。後、それは暇というのか……?」
「うん」
「うんってなぁ……」
遊は頭を抱えながらため息をついた。
「とりあえず、どけ。夜ご飯いらないのか?」
「いるー!」
「じゃあ。退いてくれ……」
「はーい」
零は遊から降りると居間へと向かった。
「あいつ、本当に子供だよなぁ……」
遊は微笑みながら呟いた。
「何か言った?」
居間から怒っているような声が聞こえた。
「何も言ってませんよ」
遊は返答すると学校の荷物を寝室の片隅に置いて台所へと向かった。
「今日は……」
そう言って冷蔵庫の中を見てみると食材がなかった。遊はため息をついて落胆すると立ち上がって零に言った。
「今からスーパー行ってくるから大人しく待ってろよ」
「ついて行っていい?」
「すぐ戻ってくるからいい。じゃあ、行ってくる」
遊は玄関の扉を開けてスーパーへと向かった。先日、零をスーパーで誘拐されたばかりだ。今日は夕方の時間帯だったためあの時とほぼ同じような状況でだったので連れて行くのはダメだなと思った。なので、零を家に置いてきたのだ。
スーパーに着くとセールの時間帯なのか人が多かった。
「夜ご飯はどうしようかな」
そう呟いて野菜のコーナーを回っていた。
「お、今日はキャベツ安いな……。手軽で美味しい野菜炒めにするか」
キャベツを手に取った。それから野菜炒めに使おうと思ったものをカゴへと入れていきレジを済ませてスーパーから出た。
「久しぶりだな。日暮」
急に声をかけられた。
「何の用だ、柿田」
この声は紛れもなく柿田の声だ。しかも、公園での戦いの時と同じような声色で登場した。
「少し話をしないか。この前のところで。今日は全員奏多に預けたから大丈夫だぜ?」
遊は戸惑った。前のように騙された状態にされるのは嫌だったからだ。だが。
「ああ。だが、少しだけだぞ?」
遊が柿田を睨むように言った。それを見て柿田はニヤリと笑った。
「で、何の用だ」
遊と柿田はつい先日戦った舞台である公園へと向かった。その時の被害であるトイレの建物はいまだに改修されていなかった。
その公園の中央に設けられている噴水の淵に二人は座り込んだ。
「まあまあ、焦るなって」
柿田は遊に回していた手をポンポンと遊に軽く叩きつけた。
「こっちの情報だからなぁ……」
「……」
「つい先日、俺らの次の目標が決まった」
柿田は淡々と言った。
「何?」
遊はそれに反応した。
「その目標はかなり強力でな、俺らも手に入るか全く検討がつかん」
「なら、諦めたらいいんじゃないか?」
「そんなことすると思うか?」
「しないな」
「わかってるなら何も言わないように」
柿田が声のトーンを落として言った。
「……」
誰が目的だ……。
そうやって遊の中で考えを巡らせるが全く検討がつかない。
「何をするつもりだ」
遊は言った。だが、柿田はニヤリと笑った。
「もちろん、あの男を倒すためだ」
「……」
「ま、下手したら敵対するかもしれんがな」
「は?」
遊は聞き返した。
「そのままさ。そいつは中々心を相手に開けない。他のやつがそいつに手を出したが全く芽が出ず、挙句の果てには負傷して帰ったそうだ」
「そんな奴を引きずり込む気なのか……?」
「そうだ。そうでもしないと無理だからな」
「……」
柿田が目標としている人物も気になるがその倒さなければならない人物もこの際気になってくる……。どういう奴なんだ……。伝説と呼ばれた男……。
「じゃあな」
遊が考えを巡らせている途中に柿田が言った。
「おい」
遊が振り返るとすでに柿田の姿はなかった。
「あいつ、本当にマイペースだな。前と全く変わらんな、そういうところだけは」
遊はさっき買った食材を手に持ち家へと帰った。
「遊、遅い!」
遊が帰ると零が出迎えてくれた。
「食材選ぶのに時間かかってしまってな。すぐ作るから用意しててくれ」
「わかった!」
零は元気な返事をすると居間へと戻って行った。さっきの威勢はどこ行った。
五分後、料理が出来上がり食卓へと並んだ。二人は机の周りに座った。
「おおー! 今日も美味しそうだ……!」
零が机から飛び出て目を輝かせていた。
「そうか、ありがとな」
遊は夕食を食べ始めた。それに合わせて零も食べ始めた。すると、遊の携帯に電話がかかってきた。その相手は古崎だった。
「夜遅くに何の用ですか? 古崎さん?」
遊が返事をすると零がピクリと動いた。
『こんばんは、日暮。ちょっと来てくれる?』
「ん? 何があった?」
電話の向こうからため息が聞こえたが続きが聞こえた。
『管轄内で事件が起きてね……』
遊はそれを聞いて目を開かせた。そして、はっきりと言った。
「行く。待ってろ」
遊は電話を切ると夕食を手早く食べた。食べ終わると準備をすると玄関に向かった。
「遊?」
零が不思議そうに呼んだ。
「零も行くぞ。初仕事だ」
遊は振り向いて言った。零は目を大きく開けて喜びを表現をした。
「さて、行くか」
玄関を開けて二人は外へ飛び出した。
柿田はとある丘にいた。
「さっき、あいつが動いたのか……」
携帯端末を見ながら呟いた。柿田が立ち上がって丘を降りた。
「ん?」
柿田の目の前に誰かが立ち塞がった。柿田はその誰かを見て笑った。
「こっちから行く手間が省けたなぁ……」
と言った瞬間、柿田はその人の目の前に立った。
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