第19話
収拾がつかなくなった現場は一旦お開きになり、日を改めることになった。
理由はいくつかあるが、まず才賀家族は才賀志衣の直接の子供である父親にもこのことを伝えたいと希望したこと。そして梶原達は今までにないケースに、改めてきちんとした対処をするために、一度戻り相談することにしたからだ。
霊の種別が乙種であるため、どう転ぶかわからないという不安もあったが、リアルタイムで状況を把握する霊判アプリを導入したカメラを設置させてもらい、何かあればすぐ対処出来るようにいつでも才賀家に行く準備は整えておく。
「ふぅ。あんな霊がいるとは思わなかった。どういう事なんだろうな」
「そうですね。あんなに自分のパンツ見せびらかすなんて……」
オートドライブの機能を使いながら、公用車で不可視物管理課の事務所に戻る。梶原と相馬はさっきまでの少女の姿になった霊、才賀志衣について話していた。
「いやパンツの事じゃねぇよ。霊の姿が若返っている件だ」
「あぁそっちですか。私もあんなの初めて見ました」
「まぁこればっかりは霊に対処するようになって日が浅い現在じゃ、専門家にでも聞いてみないとわからないよな」
「そうですね」
今ここで可能性を話し合ったところで答えが出るわけではないと、その話はそこで打ち止めとなった。
「そういやお前どうしてくれようか。俺の指を駄目にした代償は高くつくぞ?」
「げっ! なんとか有耶無耶に出来たかと思ってたのに思い出しちゃった。うぅ……ホントにスミマセンでした。だってあんなに怖い話するんだもん。私が苦手な話をピンポイントで……」
「お前の頭の一部分からピンポイントで髪を抜いて、十円禿げ作ってやる」
「ぎゃあああ! 何てことしようとしてるんですか! 乙女の頭にそんなことしようとするなんて! 髪は女の命なんですよ!?」
「指」
「スミマセンでしたぁ! ホント勘弁してください!」
どうしても許してくれる様子のない梶原に、涙目になりながら訴える相馬。
「私も志衣さんみたいに、パンツ見せたら許してくれます?」
助手席のシートから上目遣いで、目を潤ませながら妙な事を言ってくる相馬。
「お前の子供パンツなんかに興味はない」
そっけなく即答で返す梶原。
「なんで私が子供パンツなんかはいてると思ってるんですか! もう24歳の大人ですよ!?」
「お前がはいてるパンツなんて、全部子供パンツに分類されるわ」
「何ですかその理論! もう良いです今見せますから。私がちゃんとした大人パンツ履いてるところちゃんと見せますから!」
何故かむきになりパンツを見せようとしてくる相馬。さすがに焦りだし止める梶原。
「何言ってるんだお前。そんなことしなくて良いって言ってるだろ。おいちょっと待て車の中でそんなに足開こうとするんじゃねぇ痴女かお前! 俺が悪かったって!」
オートドライブで自動で運転されていて手を離しても問題無いということもあり、梶原は足を開こうとする相馬を両手で止める。それでもなおもパンツを見せようとする相馬を無理やり足を閉じさせた。
「ホントしょうがないなお前。もう許してやるからこんな事しようとするんじゃないぞ?」
相馬のスーツのスカートを左手で抑えながら諭す梶原。はぁはぁと荒い息を整えながら相馬も頷く。
「でも子供パンツじゃないって証明するために、いつか見てもらいますからね?」
「何お前ホントに痴女なの? 根本みたいになってるし! もうこの話を終わりだ終わり!」
そして公用車は不可視物管理課の事務所に到着した。
――――――――――――――――――――
事のあらましを課長の高田に伝えると、どう対処するかの相談になった。
「うーん。話を聞く限りだと、今すぐ状況が悪くなりそうな感じではないんだけど、乙種という事も気になるし、通常の処理をしちゃって良いのかが疑問だね。専門家に連絡してみよう」
「そうですね。少し前に新技術説明会で連絡先を交換した加納納良子という方がいるんですが、そちらに連絡してみましょうか?」
「そんな人と知り合いになってたのんだね! 他部署に話を聞くことも出来るけど、専門家に聞く方が早そうだ。ぜひよろしく頼むよ」
梶原は連絡先を聞いていた加納良子に電話をし、今回の件を相談することにした。
『はいもしもし。あなたの加納良子です』
「えっと……この前新技術説明会でお会いした、梶原なんですが……」
『はい。携帯に名前が表示されてたので分かってましたよ? しばらくぶりですね』
「はい……あの……電話出るときって毎回さっきみたいな事言ってるんですか?」
『いえ。梶原さんから初めて電話来たと思ったらテンションが上がったので、ついノリで』
「そ、そうなんですか……」
加納の独特な雰囲気にのまれてしまう梶原。正直一度会っただけの相手にこんなノリで来られても困ってしまう。
『で、今回はどんな用件で?』
「あっはい! 実は今少し変わった案件に当たっているのですが、専門家の指示を仰ぎたいと思いまして」
そして今回の件を加納に説明する。一通り全てを伝え終わると、加納が話を切り出した。
『ふむ……実はそういった例は少ないながらも報告が上がってきています』
「そうなんですか?」
『はい。ほぼ全てが乙種に分類されていて、そういった霊には若返ったり姿を変えることで得たい強い願望というか、叶えたい願いのようなものがあるみたいですね』
「願望……ですか」
『はい。霊を機材なしで見ることが出来たり、梶原さんのように霊の声を聞くことが出来る職員から、貴重な話を聞いています』
「私以外にもそういう人が!
ではその霊の願望を叶えてあげることが出来れば、除去せずに浄霊してあげることも出来ると?」
『……そうかもしれませんね』
少し間が空いて返ってきたきた、含みのある返事に梶原は電話越しに怪訝な顔をする。
「何か問題でもあるんですか?」
『今までに上がってきた報告の中で、その願望を叶えられた人はいません』
「霊の願望を叶えられた人がいない? それはどうしてですか?」
『実際の案件が少ないからというのもあるでしょうが、そういった霊の願望が、叶えられる類いのものではなかったからです』
叶えられる類いのものではないという言葉から、嫌な予感がした。
「……具体的にはどういったものなんですか?」
『少し重い話になってしまいますが、良いですか?』
「かまいません」
『では話します。ある熟年夫婦のご主人様が若い女性と不倫をしてしまい、熟年離婚の末、奥様が自殺し霊になったという案件があります。その際に自殺した奥様が、若返った姿で霊になり現れました。苦労して調査した結果、彼女の願いは若返った自分とご主人様が一緒に添い遂げる事……でした』
「……」
そんな願い、叶えられるはずがない。なぜならば既に霊になった時点で亡くなっているからだ。いくら霊になって若返ったからと言って、どうすることも出来ない。そして不倫をしたその旦那が、ソレを受け入れる事が出来るとは到底思えなかった。
「結局どういった対処を行ったんですか?」
『その女性の霊の願望は叶えられず甲種に転じ、ご主人様に危害を加えようとしたため、除去するしかありませんでした。他の案件も同じような結末です』
「そう……ですか」
『ただ何しろ件数自体が少ないので、必ずしも叶えられない願望を持っているかはわかりません。それと、そういった霊には必ず何か依り代になるような物があるみたいです』
「依り代ですか?」
『はい。どういった理由かは分からないですが、若返った姿で現れる際には、その姿の時に身に着けていたものや持っていた物が、必ず近くにあるようです。先ほどの女性の霊の場合は、指輪でした』
「なるほど、それが今回の件ではは人形なわけですね」
『そうだと思います。その依り代がなくなれば、元々の姿に戻る。もしくは若い姿を保てなくなるようです』
「わかりました。それだけ分かれば十分です。ご協力感謝します」
そう言って電話を切ろうとした梶原に、加納が最後の忠告をする。
『梶原さん。もしもの時は、優先順位を間違えないでください』
「……分かっています。ありがとうございました」
電話を切り、深呼吸をする梶原。まずは状況を整理しなければと考える。
「まず才賀志衣さんの願いがなんなのかを聞かないとな」
梶原はそう呟きながらこのことを高田に相談し、翌日の準備を進めた。
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