第5話
昼休みが終わり、高田に呼び出された梶原に仕事が言い渡された。
「
加藤と相馬は不可視物管理課の職員で、加藤が梶原と同期の男性職員。下の名前が
霊が関わる職務にあたる際は、最低でも二人以上で臨むことになっている。それは、霊からのなんらかの攻撃をうけ、一人が動けなくなるようなことがあった場合に、もう一人がその対処をするか応援を呼ぶためである。
ちなみに船越は現在、他の職員と組んで別の案件にあたっている。
「加藤と相馬が担当していて難航しているって珍しいですね。あの二人はそれなりに場数もこなしていますし、大抵のことは解決出来そうですけど」
「それがね。相手が生きている人間で、家族関係でちょっとごちゃごちゃしてるっていうかなんていうか」
「はい?」
詳しいことは担当している二人に合流してから聞いてねと言われ、この案件の資料を渡され梶原は現場へを向かった。
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「やっぱ運転は自分でするのに限るな」
公用車を使い現場にまで運転する梶原。オートドライブの機能を使えば自分で運転する必要はないのだが、梶原は運転するのが好きで、一人で車に乗る際はオートドライブの機能を使わないことが多い。
現場に着くと、すぐに今回の案件を担当している二人に合流できた。現場は病院で、合流した場所はある病室の前だった。
「あっ梶原さんこんちわっす!」
先に声をかけてきたのは一個下の女性職員の相馬。背が低く、身長は150cmないくらい。髪形はショートボブで、服装はスーツだ。
「おぅ相馬。今日もちっちゃいな。ちょうどいい所に頭がある」
相馬の頭にポンと手を置く梶原。むすっとした顔になり顔を斜め下にそらした。
「ちょっ……女性の頭に気軽に触らないでください。女性が皆頭触られて喜ぶと思ったら大間違いですからね。そもそも誰に触られるかにもよるし」
「すまん頭の位置がちょうど良くてつい」
そう言いながら頭を撫で始める梶原。一向にやめる様子はない。それどころか少しエスカレートしていた。
「ちょっ何その撫でテク。あっちょっと気持ち良い」
抵抗しながらも受け入れ始めようとしている相馬をよそに、もう一人の職員の加藤が声をかけてきた。背が高く身長は180cmを超えている。体格はがっしりしており髪形はソフトモヒカン。同じくスーツを着ており、相馬と比べるとかなりの身長差だ。
「すまん梶原。俺達だけじゃ解決できそうになくてな。お前の力を借りたい」
頭を撫でられている相馬のことには触れず話を進める加藤。相馬のことはお構いなしといった感じだ。
「いや、今回の件はしょうがないでしょ。来る途中に少し資料に目を通したけど、生霊なんだろ?」
あぁと頷く加藤。今回の案件はまだ生きている人間が何らかの理由で、別の生きている人間に執着を持ったために現れる、『生霊』が関わっているということだった。
その場で梶原は、二人から詳しい話を聞くことにした。
「生霊の主が普通に会話できる状態なら交渉なりなんなりすれば良かったんだが、事故を起こしてしばらく前から意識不明の状態らしくてな」
先にこの案件に当たっていた加藤が現在の状況を完結に説明する。
「なるほど。生霊だと簡単に除去するわけにもいかないし、生霊を出してる本人と話して解決しようにも、本人が意識不明の状態なんじゃ話のしようもないってことか」
「そうなんです。そこで霊の声が聞くことが出来る梶原さんに生霊の声を聞いてもらって、霊の望みがなんなのかを確認し、解決してもらおうって寸法です! あともうちょっと撫でてても……」
「ふむふむ」
話の本題に入ったことで撫でられるのが終わってしまい、少し物足りなさそうな顔をする相馬。今回の案件の詳細を聞き、自分の顎に手を添え考え込む梶原。
「ここで霊用集音マイクが実用レベルに至っていれば、わざわざお前の力を借りる必要ないんだけどな」
加藤がため息をつきなら呟く。霊の声を聞くことが出来る機器もないわけではないのだ。だが雑音が入ったり、霊の声が途切れ途切れに聞こえるなど精度が悪く、とても実用出来るレベルに至ってはいないのが現状だ。
「しょうがないっしょ。まっ! 実用レベルになるまでは俺が頑張りますよっと」
一旦話に区切りがついたところで、梶原が加藤に近づき耳元で話しはじめた。
「ところで加藤。しばらくこの病院の職員見てて思ったんだが、看護師のレベル高くね?」
「あぁそうだな。出来ればお近づきになりたい。仕事が終わったら声をかけてみるかな」
「おっまじかー俺は目の保養だけで良いわー。ちょくちょく来ようかなこの病院」
看護師に美人が多いため、加藤と梶原の二人は鼻の下を伸ばしていた。ニヤニヤしながら話す二人に相馬が何の話ですかーと声をかけてくる。
「何か仕事中に不謹慎な話してそうな感じがしますよー?」
図星をつかれ動揺しだす二人に、相馬はジト目で見つめる。
「別に咎めやしませんから何の話してたか教えてくださいよー」
話していた内容を聞き出そうとする相馬に、話せる内容ではないと判断した加藤と梶原。
「いや何でもないよ相馬。さて仕事仕事。後はご家族のところで話すとしよう」
誤魔化すように話を終わらせる加藤。話に入れてもらえず不服そうな顔をする相馬に、梶原はほら行くぞと声をかけ、生霊をだしているという者の眠る病室に向かう。
病室に入ると家族と思われる人物が二人、ベッドで寝ている男性の隣の椅子に腰かけていた。
二人とも女性で、一人は中年の女性、もう一人は若い女性に見える。中年の女性は茶色がかったロングの髪型で、淡いピンク色のカーディガンとロングスカートを着ている。若い女性の方は同じく茶色がかった髪色で髪形はセミロング。服は薄手の黒いコートを着ていた。
「寝ているのが旦那さんで、そばの二人が奥さんと娘さんだ」
加藤が梶原に近づき耳打ちする。
こちらに気づき椅子から立ち上がり、会釈をする奥さんと娘。
「はじめまして。不可視物管理課の梶原御影といいます」
軽く自己紹介をして話はじめる。ある程度のことは資料と加藤たちの話から聞いているものの、実際に家族とも話をしてみる必要がある。
「
「……」
中年の女性は礼儀正しく挨拶をするが、娘の方はしかめっ面でこちらをあまり見ようとしない。話しだそうとすると娘の方が口を開いた。
「私もう帰っても良い? 別に危険なことがないんだったらもうこんな人と一緒にいたくない」
こんな人とは恐らく父親のことだろう。ベッドで寝ている父親のことを睨みつけながら話す娘の明保。なにか事情があるのだろう。
「申し訳ないのですがまだ安全かどうかは断言できないので、
今すぐに帰って良いとは言えないんです。せめて私が声を聞いてみるもう少しだけ待ってもらえませんか?」
梶原が宥めるように申し出ると、明保は怪訝そうな顔をして梶原を見つめた。
「あなたが霊の声が聞こえるって人? 胡散臭いわね。ほんとに聞こえてるかどうかなんて誰にも証明出来ないじゃない。信用できないわ」
そばで聞いていた相馬がむっとして異議を申し立てようとするが、梶原が手で制して話を続ける。
「確かにおっしゃる通りです。なので実際に声を聞いてみてそれをお伝えしますが、信じるかどうかはご家族の判断に任せます。現状は霊の声を聞く確実な手段が確立されていませんので、私のような者の力を頼るしかないので」
「ふうん。でも本当に声が聞けたとしても結局意味はないわ。私父親の声なんて伝えて欲しくないもの」
娘の発言にさすがに母親が止めに入る。スミマセンと言いながら母親に連れられ病室を出る娘。どうやら事情があるようだが、このままでは話が進まない。
「加藤。すまんがフォロー頼めるか? あの親子の様子を見て来てくれ」
「わかった」
梶原の頼みを聞き、病室から出た親子を追う加藤。
病室に残った相馬から、話を聞くことにした。
「この旦那さん。浮気してそのまま家を出て行ったらしいんです。離婚したあとは家に生活費を入れることもほとんどなかったらしくて、先ほどの家族の方も苦労されたんだとか」
なるほどなと相槌をうつ梶原。
「娘さんはそんなお父さんのことが嫌いらしくて、別に直接害がないんだったらこんな人の言いたいことなんて聞きたくない……ってことなんだと思います。でもだからって梶原さんの力まで疑いだすなんて」
「いや普通は信じられないもんだ。最初はお前も含め、皆そうだっただろ? だからあんまり気にするな」
相馬を宥めながら軽く頭をポンと触る。
不可視物管理課が発足された当初、霊の対処で息詰まることは多々あった。その際に梶原の霊の声を聞いて出した答えにより解決された案件は多い。
精度の悪い霊用集音マイクと梶原の通訳を併用してみたこともあり、霊用集音マイクで拾った途切れ途切れの声が、梶原の通訳で途切れていた部分がしっかりと補完され、意味の通る会話になったという実際の例もあり、不可視物管理課での信頼度は確立されたのだ。
「でも私は梶原さんがあんな扱いされるのは嫌なんです」
涙目になって言う相馬に、梶原はありがとなと言って頭を撫でた。
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