第24話
加藤達と別れた梶原は駅に向かい、電車を乗り継いで事前にチェックをしていたスーパーマーケットの最寄り駅で降りた。
「今日はここで安売りをしているはずだから、そこで食材を買ってから帰るとするかな」
そのスーパーマーケットへ向かう途中、見知った顔を見付けた。
「あれ? 船越さん?」
「わぁ! 梶原君!」
そこにいたのは船越令。私服で、薄手のカーディガンににジーパンのラフな格好だった。
(今日は同僚に良く合うなぁ)
「くっ何で梶原君がこんなところに……こんな気の抜いた格好で会ってしまうなんて……」
その発言と反応の可愛さにに梶原は思わずにやけてしまう。
(この人いちいち反応が可愛いんだよな)
「こんにちわ。いいじゃないですかそういう格好。俺は好きですよ? その体のラインがわかっちゃう感じが良いです」
「そういうこと梶原君は普通に言っちゃうんだよね……えっち」
顔を赤らめながら言う船越を、少し虐めたい衝動に駆られた梶原だったが、自分が買い物に行く予定だったことを思い出し話を進めた。
「船越さんはこんな所で何を? 俺はスーパーに買い物に行く予定でしたが」
「あっそだった。実は私も買い物に行く予定だったんだ。梶原君はどこのスーパー?」
「スーパーバリューですね」
「あっ私もそこ! 今日安売りの日なんだよね。良かったら一緒に行かない?」
「良いですね」
どうやら目的地は一緒だったようだったので、二人は一緒に買い物をすることにした。ちなみにスーパーバリューとは良く安売りをしているスーパーマーケットだ。
スーパーマーケットまでの道のりを二人は話しながら歩く。
「梶原君も一人暮らしだったっけ? やっぱ自炊とかするの?」
「えぇしますよ? 一人暮らしは大学生の頃からなので、それなりに料理も作れますし」
「いいねぇ。料理できる男はモテるらしいよ?」
そういえば船越の料理の腕は最悪だったということを思い出した梶原。店の入り口までたどり着き、そのまま話をしながら店内に入る。そして入り口にあった買い物かごを梶原は二つ分手に取った。
「え? いいよいいよ私の分なんて一緒に持たなくたって」
「何言ってるんですか。こんなの男が持つに決まってるでしょう。せっかく一緒に来てるんですからこれくらいはさせてください」
「……ありがと」
当然のように買い物かごを自分の分まで持ってくれる梶原に、船越は申し訳なさを感じながらも機嫌が良くなっていた。
商品を二人で選びながら船越が話しかける。
「ねぇ。梶原君は彼女いるんだよね? 二人で暮らしてたりはしないの? さっき一人暮らしだって言ってたけど」
梶原は自分の発言を思い出し、はっとしたように返事を返す。
「えっと今は彼女とは別々に住んでて、たまにうちに通ってもらってる感じですね」
「ふーんそうなんだ……」
生鮮食品のコーナーに二人で立ち寄りながら、話を続ける。
「残念だなぁ。梶原君が彼女いなかったら絶対付き合ってたのに」
まだ諦めていなかったのかと梶原は苦笑いをする。
「大分前に飲んだ時のこと、アレ本気だったんすね。まぁ嬉しいではありますが」
梶原の発言に船越の表情はぱぁっと明るくなる。
「ホント!? っていうか付き合ってたとか言ってるのに拒否しないんだね! 彼女いなかったら私と付き合ってた?」
顔を近づけ上目遣いで迫ってくる船越に、うぐっと声をあげ梶原は船越から視線を外す。
「ふ、船越さん近いですよ。あとまた谷間から色々見えそうになってます」
「見てもいいよ? ねぇそれよりどうなの? 彼女いなかったら私と付き合ってた?」
どんどん大胆になっていく船越にたじろぐ梶原。これ以上この話を続けるとまずいと話を打ち切りにかかる。
「彼女いるんだからそんなこと言ってもしょうがないでしょ? はい買い物の続き続き!」
「あーごまかした! いいもん絶対聞き出してやるから」
二人はそのまま買い物を続け、必要なものを買い終わると帰路についた。
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買い物を終えると自然に梶原が荷物を持つ流れになり、船越は遠慮しようとするも梶原はそれを譲らず持ち歩くことになった。
「ほんと素敵な男ですこと」
「どうも」
両手に買い物袋を持ち船越の後を歩く梶原に、船越は買い物中にした話をふたたび掘り返す。
「ね! それでどうなのさ! 彼女と付き合ってなかったら私と付き合ってた?」
またそれかとあきれ始める梶原。好きだと言われて嫌な気はしないが、それでもこうしつこくされてしまうとさすがに困ってしまう。
渋い顔をしながら無言をつらぬく梶原に、船越はいたずらっぽく笑みを浮かべ梶原の後ろに回り込み臀部を触りだした。
「言わないとこうだっ」
びくんっと梶原の体が跳ねる。
「こ、こら船越さんセクハラですよっ?」
「梶原君だって私にセクハラしたじゃんか。これでおあいこにしてやると言うておるんじゃ」
何故かジジィ言葉になる船越に、両手がふさがって抵抗が出来ない梶原は焦る。
「ホント船越さんいい加減に……それにそれを言うことによって船越さんに良いことがあるわけじゃないでしょ?」
するとふざけていたせいで態勢を崩した船越が車道に道を踏み外した。
「あぶない!」
とっさに持っていた買い物袋を下に落とし、船越を抱きとめる梶原。
間一髪、車に轢かれずにすんだ。
「危ないでしょう船越さん!」
「ご、ごめん。あと梶原君手が……んっ」
むにっと柔らかい感触を手に感じふと自分の手の位置を見てみると、とっさに体を抱きとめた為船越の胸を触ってしまっていた。そして妙に柔らかかった。
「す、すみませんとっさだったのでつい……」
体から手を放し向き合う二人。
「ん。いいよふざけすぎた私が悪いし……」
沈黙が二人の間に流れる。
「オフで完全に気を抜いててブラ付けてなかったのはちょっとまずかった」
そのせいであんなに柔らかかったのかと納得する梶原。
幸い買い物袋の中身はダメになった食材もなかった為、梶原は再度拾い上げて歩きだした。
船越は顔を紅潮させながら梶原と一緒に歩きだす。
「ごめんね梶原くん不謹慎なんだけど……」
「良いですよもう。ただもうああいうことはしないで下さいね?」
「いやそうじゃなくて……」
「え? そうじゃなくて?」
船越の言おうとしてることがわからず、首をかしげる梶原。
「スイッチが入っちゃった」
「スイッチ?」
「さっき抱き締められた時にドキッとしちゃって……」
「は、はぁ」
「ご、ごめんちょっとトイレ行ってくる」
「……?」
首をけしげながら梶原は船越を見送った。
「行ってらっしゃい。荷物持って待ってますね」
船越は顔を赤らめながらトイレに駆けていった。
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「ふぅ……びっくりした」
船越は近くの公園にあった公衆便所に駆け込み、個室に入りドアを閉めた。
「あんな風に抱き締められたら我慢出来なくなっちゃうじゃん」
船越は梶原に彼女がいることも、自分の気持ちを抑えないといけないこともわかっている。
ただそれでも、梶原にちょっかいを出さずにはいられずにいた。
それほど気持ちが強かったのだ。
「うーもう訳がわからなくなって、変な事口走ってきちゃったじゃんかぁ……」
梶原自身や梶原の彼女にも悪いという気持ちはあるものの、理屈ではどうにもならないこの状態をどうしたらいいのか船越自身も苦しんでいた。
梶原に抱きしめられたことで、その気持ちに歯止めが利かないところまで来ていた。
「ダメだ。やっぱり気持ち抑えられないや」
船越はもう一度梶原に気持ちを伝えることを心に決めた。
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