第25話

 トイレから戻った船越は一言あやまりの言葉を入れ、梶原と一緒に自身の家まで向かうことにする。


「ホント近くまで来てくれるとか、そこまでしてれなくても良いのに」


「良いですよ別に。それにお互いの住んでる所がそこまで遠くないことも分かった事ですし」


 船越と梶原が住んでいる場所は駅で一駅分しか離れていなかった。このくらいの距離であれば近くまでおくっていくと梶原が申し出たのだ。


「ホント梶原君はいい子だねぇ……」


「こ、こら船越さんやめっ……さっき注意したばかりでしょうって、今度は前! ダメですってホントにそこはっ!」


 またしても下半身を触り始める船越、さすがの梶原も二度目のやり取りであることや、少し前に事故を起こしそうになったこともあり怒りをあらわにし始めた。すると船越はすぐに下半身を触るのを辞めた。


「ねぇ梶原君、梶原君は彼女さんの事好き?」


「……好きですよ?」


 不意に真剣な眼差しになり、外池狩る船越。突然の船越の変わりように怪訝な顔をする梶原。


「そっかぁそだよね。梶原君私ね……やっぱり梶原君の事が好き」


 船越のまっすぐな視線に梶原は耐えきれず、目をそらしてしまう。


「あ、ありがとうございます」


「もし彼女さんと別れることがあったら、私のことも考えておいてくれないかな?」


 その言葉を聞いた梶原は急激に表情が変えた。


「船越さん……そういうことを言うのは辞めてください……」


 悲しそうな、それでいて怒ったような表情になった梶原を見て、船越は焦りだした。


「ご、ごめん梶原君」


 こんな表情をする梶原を……船越は見た事がなかった。船越の予想では、怒るか困るかのどちらかだと思っていたのだ。


「もし仮定の話だったとしても、それでも俺はそのことについて返事を返すことは出来ません」


「あっ……えっと」


 船越は梶原の様子から、自分が梶原の何か大事な部分を傷つけたことに気づいた。だがそれに対してどう返していいのか分からず、言葉が出てこない。このままどんな言葉をかけても、梶原の気持ちを逆なでしてしまうと思ったからだ。


「もうすぐ家……着きますよね? そこまで送り届けたら、俺帰るので」


「うん……」


 気まずい雰囲気が流れる中、船越の家まで着いた二人は別れ梶原は帰路に就いた。



(船越さんにキツイ言い方しちゃったかな)


 徒歩で帰宅しながら梶原は船越に言った言葉を思い出していた。


「でも、もし船越さんが言ってた事をしたら、俺は七海ななみを裏切ってしまう事になる……」


 梶原はななみという名前を頭の中で反芻しながら帰宅した。


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「久しぶりに会ったけど、やっぱり昔の友達と飲むのは良いねぇ」


 とある居酒屋で、根本由紀は学生の頃の友達と飲んで酔っぱらっていた。


「由紀は相変わらずの飲みっぷりだねぇ。今は彼氏いないんだっけ?」


「うんいなーい。でも職場が結構良い男多くてさ、彼氏いなくても楽しんでるよー?」


「へーそうなんだ。えー誰か紹介出来そうな人いたら紹介してよー」


 友人も酔っぱらっており、根本に身体を密着させ不可視物管理課の男性陣を紹介してくれとねだる。


「やーだねっ! 私のハーレムを簡単には人に渡したりするもんか」


「えー何それズルい! 良いじゃんかちょっとくらい!」


 身体を密着させたまま、友人は根本の胸を揉みはじめた。


「こ、こらやめっ……んっ!」


 友人の行動が予想外だったのか、身体を震わせながら声を漏らしてしまう根本。

(くそぅ。女に揉まれてるのに予想外に気持ちよくて声出ちゃった。胸を揉むの上手いなこいつ)


「ここかー? ここがええんか? もっとしてやろうかー?」


 しばらくは抵抗する根本の反抗を楽しんでいた友人だったが、ひとしきり根本の胸を揉んだ後ようやく満足したのか根本を解放した。だが根本は胸を揉まれはじめた最初の頃とは顔つきが変わり、うっとりしたような表情になっていた。


「ふぅ気持ち良い……今度は人気のないところでやって?」


「ありゃ? やり過ぎちゃったかな?」


 うっとりした表情になってしまった根本を引き戻そうと、友人は話をもとに戻す。


「結局紹介出来そうな人はいないのー?」


 はっと我に返り、質問の内容を思い出して考えこむ根本。


「んー真面目に考えると課長は論外だとして、加藤は何か紹介自体を断りそうだし、木下は私のものだし、梶原は彼女いるらしいし……」


「いやいやちょっと待って。明らかに今木下って子は紹介出来そうだったでしょ? 私のものって何?」


「木下は年下の男の子。可愛いんだコレが……」


「えー! 年下良いじゃん紹介してよー!」


 盛り上がり、ひとしきり騒いだ後に友人は思い出したように口を開いた。


「あれ? そういえばさっき梶原って名前言ってたけど、下の名前聞いて良い?」


「えーと確か梶原は下の名前は御影だったかな?」


 友人はポンと手を叩き、思い出したと口にした。


「そいつ知ってるわ多分。大学生の頃同じ学部だった。私は直接の知り合いではなかったけど、そいつの彼女が私の友達と仲良かったんだよね」


「へぇーそうなんだ? 梶原の彼女どんな感じだったの?」


「何か明るくてノリが良くて良い子だったよ? あれ? でも確か大学卒業してしばらく後に……」


「ん? 何かあったの?」


「いや、私の記憶違いかもしれないから、ちょっと確かめてからまた由紀に連絡しようかな?」


「え? うんまぁ良いけど……」


 友人のはっきりしない物言いが気になった根本だったが、友人も酔っぱらっていることで何か思い出せないことがあるのだろうと特にそこで深追いすることはしなかった。


 その後も根本は友人と飲み明かした。

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