別れ
第26話
土曜の朝、毎朝起きている時間になり、カーテンが自動であいた。梶原はしまったと心のなかで舌打ちをする。休日に自動でカーテンが開かないように設定するのを忘れていた。
梶原が住んでいるマンションは、スマートフォンと家の設備を連携させる機能がついている。
いわゆる家電連携というヤツで、スマートフォンで色々なものを操作し、インターネットに繋げて、家の中からも外からもスマートフォンで家電の操作を行うことが出来る。
代表的な例としてはエアコンの操作で、帰る前に操作を行い、帰ったときには既に温度調整がされた部屋で快適に過ごすことが出来るというものがある。
「まだ寝れる……」
もぞもぞと布団の中で二度寝の準備をする梶原。
「こらっ休みの日だからってごろごろし過ぎないの」
不意に梶原の耳元で囁かれる声。その声に梶原の体がビクンと反応してしまう。
「
「耳元で囁かれるの大好きな癖に何ゆってるのさ」
照れ隠しで言った発言を見抜かれ、気恥ずかしさで枕に顔を埋める梶原。
「あーはいはい耳元で囁かれるの大好きですよー。七海さんに囁かれるとゾクゾクしますー」
「よろしい」
梶原は声がした方を自分のスマートフォンで写す。するとそこには、満足げな表情で立っている女性の姿があった。
髪型は茶色がかったショートボブ。身長は160㎝くらいだ。
「真面目な話、俺耳元で囁かれると興奮してしまったりするんですが、でも俺達今それを発散する方法がないじゃん?」
梶原は話しながらテーブルに置いてあったタブレットを専用の台に立て掛け、七海の姿を写す。そしてそのタブレットの映像を50型の大画面のテレビに写した。
「よし! これで七海を大きな画面で視れる!」
「私を大画面で見たいとは、なかなか良い趣味だね御影!」
テレビに写し出された七海は、どや顔をしながら梶原に話しかける。話しやすくはなったが、これで嫌でも認識させられる。
スマートフォン、タブレット越しではないと、七海の姿を見ることは出来ない。何故なら彼女はもう死んでいる。
「だからさ。七海に囁かれて興奮しちゃったら、どうすれば良いのさっていう話だよ。生殺しじゃん」
「御影が一人でするの見ててあげるよ?」
「いや俺そういうの趣味じゃないから」
なんてことを言い出すんだと一瞬怯んだ梶原。だがすぐに元の調子で反論した。
「ふふーん。でも実は発散させる方法があるんだなぁこれが! この前試してみたら成功したし!」
「試してみた?」
不穏なことを言う七海に、どういう意味かと問いただす梶原。
「あっいやゴメン何でもない。今言ったこと忘れて」
怪訝な顔をしながら少し考え込み、梶原は思い当たった答えを口にした。
「もしかしてなんだけど、『夢』とか?」
「……」
梶原の質問に押し黙る七海。これは当たっているなと言葉を続ける梶原。
「俺この前すっごいエロい夢見てさ、七海としてる夢だったんだけど、俺自信が欲求不満なんだと思ってたんだよ」
なおも黙り続ける七海。そのまま続ける梶原。
「すっごいリアルな感じの夢で、七海と実際こんなことしたかったなぁとか思ったりしたんだけど、もしかして七海が関係してる?」
「……はい」
「やっぱり」
梶原が睨んだ通り、七海が関係していたようだった。
「私が御影の夢の中に入って、エッチな夢見せてました」
「もうそれサキュバスじゃん」
サキュバスとは一般的には女性型の夢魔を指す。男性に淫らな夢を見せて、生気をすう悪魔だ。
「だって御影ともう実際にエッチなこと出来ないから……せめて夢の中だけでもと思って……」
「いやうん。普通に嬉しいけどね? 俺も七海とまた出来たらなぁと思うこといっぱいあったし」
「そう!? やっぱり嬉しい? じゃあいっぱい夢でしようよ!」
「調子に乗るんじゃない。ホントにサキュバスみたいになるよソレ」
一気にテンションが上がった七海を、静止する梶原。
「いいじゃんかぁ。ほらまた囁いてあげるからさ!」
七海の姿がタブレットで写されているテレビの画面から消え、梶原の近くに移動する。
「ちょっ! ちょっと待っ! あーーーーっ!!」
「好き。好き。大好き御影。だーい好き。私の御影。私だけの御影」
再び耳元で囁かれてビクンビクンと体を震わせてしまう梶原。
「辞めろって言ってるのに……もう寝る! 二度寝するからな!!」
(おやぁ? これはフリかな?)
ベッドに潜り込んで二度寝の準備を始める梶原。それを見た七海は不適に笑い、梶原が寝息をたてるのを確認した後、夢の中に入った。
もちろんエッチな夢を見せるために。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「凄かったね」
「凄かった……」
昼過ぎまで寝た梶原は、さっきまで七海と見ていた夢の感想を言い合っていた。
「夢の中とはいえ、あんなに激しくされると思わなかった……」
顔を赤らめて言う七海に、梶原も赤面しながら答える。
「夢の中であることを自覚すると、何しても良いって思えて、七海と出来るって思うとさらに歯止めがききませんでした。申し訳ない」
「いや全然良いんだけどね。嬉しかったし」
そんなやり取りをする中、梶原のスマートフォンに一件メッセージが入った。
「あっごめん。ちょっと何か連絡が入ったみたいだから確認する」
メッセージの送り主は『加納良子』となっており、新機能説明会で連絡先を交換していた研究者だった。
内容は、休みである今日か明日、また暇があれば直接会って話をしたいというものだった。検査の結果を踏まえて、霊の声が聞こえる梶原の話をもう一度聞かせてもらえないかというものだった。
特に用事もなかった梶原は、今日今からでも良いですよという返事を返した。
「ごめん七海、これから出かけることになった。留守番よろしく」
「えーやだ。休日なんだからイチャイチャしようよー」
タブレットを通してテレビに映し出された七海を見ながら微笑む梶原。
「出来るだけ早く帰ってくるようにするからさ」
「わかったぁ。ちなみに何処に行くの?」
「えっとこの前仕事で新機能説明会に行ったって言ったじゃん? そこで知り合った加納さんっていう研究者の人。俺の霊が聞こえるっていう体質を研究に役立てたいらしくて、また話聞かせてくれってさ」
「昨日も行ったんじゃなかったっけその人の所。女の人なんでしょ?」
「あぁうん昨日は身体を調べる検査に行った。女性だけど?」
「……浮気は許さないよ?」
「しねぇよバーカ」
笑いながら流す梶原に対して七海は不服そうだ。
「着いて行ったらダメ?」
「仮にも霊の研究者だから見つかったらどうなるか分からないからな。いつもの普通の買い物くらいなら良いけど。今回は大人しく家で待っててくれ」
「はぁい」
むくれながら返事をする七海は恨めしそうに梶原を見つめていた。
身支度を終え、玄関に立った梶原は振り返り、自分のスマートフォンで七海を捉えながら話しかける。
「じゃあ七海、行ってくるから!」
「行ってらっしゃい! 寄り道せずに帰って来るんじゃぞ!?」
「はいはい」
唇を尖らせたまま行ってらっしゃいを言う七海に愛しさを感じながら、玄関を出ようとした梶原はぶるっと身震いした。
「今日はちょっと寒いな」
心なしか温度が下がっているように感じ、少し肌寒さを感じながらも自宅のマンションを後にした。
「寂しいなぁ」
扉がしまった後の部屋に、梶原しか聞こえないはずの声が響いた。
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