第12話

 飲み会が終わり二次会まで参加した根本、相馬、船越、佐々木の女性陣は、次の日が休みだという事や佐々木の家が近くだったという事もあり、佐々木宅に泊まる事になり歩いて向かっていた。


「本当に泊まっていっても良いんですか? 旦那さんだっているのに」


 船越が歩きながら心配そうに佐々木に尋ねる。


「平気平気。旦那も電話で二つ返事で良いよって言ってたし。っていうか言い出したの私だし」



 佐々木は船越の心配をよそに楽しそうに返す。



「寧ろ久しぶりに人が泊まるんで、ちょっとワクワクしてるよ」


 あまり感情が表に出るタイプではない佐々木だが、酒が入っていることもあり嬉しさが前面に出ている。

 そんな二人を見て相馬と根本も感想を漏らす。


「私も人の家に泊まるなんて久しぶりで、何かワクワクしてます!」


「うんうん美香は可愛いねぇ。おーよしよしよし」


「ちょっ! 根本さんからかわないで下さい!」


 根本は相馬の頭を撫でながら頬ずりをしており、相馬は恥ずかしそうに俯いている。


 そうしているうちに佐々木の家に着き、玄関にたどり着いた。二階建ての一軒家で、表札には『佐々木』の文字があった。


「おかえり美里。皆さんこんばんわ初めまして! 夫の佐々木ささき ちからです!」


 玄関から入ると笑顔で迎えてくれた佐々木の夫である力。小柄で身長は160センチほど。たれ目で優しそうな男性だった。


「ただいま力。今日は皆泊まりって伝えてあった通りだからね」


「うん解ってる。二階に皆さんが寝るための寝具用意しておいたから」


「さすが気が利くね」


 夫婦のやり取りを見ていた船越が声をかける。


「突然お邪魔してスミマセン。ご迷惑ではなかったですか?」


「いえいえ全然! 寧ろ助かりました」


「助かった?」


「いえいえこっちの話です!」


 慌てて取り繕う力に疑問符を浮かべる船越達だったが、美里に急かされ二階の寝具が準備された部屋まで案内される。一同はお礼を言いつつ二階まで向かった。


「ふぅ……お互い明日休みだったから、今日は一晩中搾り取られコースになりそうだったしなぁ。疲れてたから泊まってくれるの本当に助かった」


 一人一階に取り残された力は呟く。どうやら夜の営みを回避出来たことに安堵しているようだった。


 ――――――――――――――――――――


「船越はさぁ。梶原のどういう所が好きなの?」


「ぶっ……」


 部屋に着き寝支度を整えるなり、いきなり話を切り出してきた美里に、船越は不意打ちを食らいせき込む。


「あーソレ私も気になりますぅ」


「私も令姉さんがどうして梶原が良いのか、気になりますぅ」


 相馬と根本もその質問に便乗する。


「美里さん知ってたんですか?」


「見てればわかる」


「う……そんなに分かりやすいですか私……っていうか変なノリで相馬も根本も便乗しない!」


 恥ずかしそうに俯く船越をよそにその場は盛り上がっていく。



「いやぁ良いですね恋バナは! いくつになってもガールズトークっぽくて!」


 テンションが上がって上機嫌な相馬は、ニコニコしながら話を聞く態勢をとっている。


「まぁ彼氏と別れた次の日に別の男に告白してるって、どんだけ切り替え早いんだよって感じだけどね!」


 その場のノリと酔っている勢いで、船越に対し失礼な事をいう根本。


「悪かったわね切り替え早くて」


 失礼な物言いに根元を睨みつける船越。根本は瞬時に身をかがめて謝る。


「ひぃ! スミマセンでした令姉さん!」


「まぁまぁ船越。でもそんなにすぐ告白したってことは、彼氏と別れる前から好きだったの?」



 割って入ってきた美里の質問に、うっ……っと言いよどむ船越。


「まぁ彼氏がいる頃から良いなって思ってました。でもまぁ告白しちゃったのはお酒で酔っぱらった勢いというかなんというか……」


「へぇ。前から良いとは思ってたんだ? その理由が知りたいなぁ」



「私も知りたいっ!」


「私も!」


 美里の質問にまた便乗してくる相馬と根本。

 期待の眼差しを向ける三人に、船越は根負けしたように話し出す。


「私昔から霊媒体質なんていうものだったから、霊が普通の人でも確認出来るようになる最近まで腫れもの扱いされることが多かったんです。

小さい頃は良く霊に乗り移られて、おかしな言動をすることがありましたし」


「まぁ高校生になった頃あたりから自分の体質との付き合い方がだいたいわかってきて、明るく振舞ってるうちに友達も増えたので良かったんですけど、

それでも霊媒体質のことになると親しい友達もなかなか触れてこないというか、彼氏でさえもそこには立ち入れないって感じの扱いだったんです」


 船越の語りは真剣で、少し前まで恋バナを聞けると思い盛り上がっていたその場は静まり返っていた。



「でも梶原君は最初に一緒に仕事をして失敗してとり憑かれそうになった時に、躊躇なく私を助けてくれようとして来たんです。なんか……それが嬉しくて」



 静かに聞いていた美里は船越が話終えると、笑顔になった。


「そっか」


 一言だけ呟いた後、相馬と根本も感想をもらす。


「なるほどー。良いですねぇその話、私も恋したいなー」


 うっとりとした顔をする相馬に、根本が水を差す言葉を放つ。


「うんまぁ梶原彼女いるらしいし、令姉さんの恋ほぼ実らないけどね?」


 その発言でその場の空気が凍る。


「根本ーーーー!」


 船越は根本に襲い掛かり、布団に押し倒す。


「きゃっ! 令姉さんごめんなさい! あっわきの下くすぐるの辞めてそこ弱いの!」


「根本さん! ホントの事でも言っちゃいけないこともありますよ!」


 そう言いながら押し倒された根元を船越と一緒にくすぐりだす相馬。


「せっかくだし私も参加しちゃおうかな。楽しそう」


 そう言ってくすぐりに参加する美里。


「やぁああああああああ辞めて三人ともおおおおおおおお!」


 ビクンビクンと体を震わせ悲鳴をあげる根元。


「ねぇ相馬」


「はい何でしょう船越さん」


「さっき根本にホントの事でもって言った?」


「ひっ! い、言ってません!」


「嘘つくんじゃない! 嘘つきはこうだ!」


相馬にも襲いかかり、押し倒しくすぐる船越。


「や、やん。辞めてください船越さん! アハハ駄目ですってばぁ!」


「はぁはぁ。こっちへの攻撃がやんできたから今度は美香へ八つ当たりしてやる!」


「じゃあ私もー」


今度は矛先を相馬に変え、ふざけ出す根本と佐々木。


「や、やぁ! くすぐったいですー!」


かまわず続ける三人。こうして夜は更けていった。

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