肝試し
第13話
「おい! こっちにもいるぜ写真撮ろう!」
暗闇でパシャパシャと写真を撮る音が聞こえる。スマートフォンで撮っているであろうその場には若い男の姿があった。
「うへぇーやっぱこういう所にはいるもんだな。面白いほど沢山撮れるわ」
最初に言葉を発した者とは別の者が呟いた。
複数人で一緒に行動しているらしく、写真を撮りながら興奮した口調で話している。
「でもこれ大丈夫かなぁ? こんな事しまくってたら祟られたりとかしない?」
一人が心配になったようで、他の者に声をかける。
「大丈夫っしょ! まぁもしヤバい事になったとしても、今は役所でそういうのどうにかしてくれる所があるらしいしさぁ。最悪そいつらにやらせればさぁ」
勝手なことをいう若者達。そしてしばらくそこでカメラのシャッターを切り続け、気が済むまで何枚も霊を写真に収めた後、彼らは帰宅した。
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「梶原君と加藤君、今回の依頼者は大学生だ」
出勤して朝一で、仕事を割り振られた梶原と加藤。
高田から声をかけられた梶原はなんとなくどういった依頼か想像がつき、その内容を予想して答えを言い当てる。
「もしかして、肝試しで心霊スポット行って、霊に憑かれちゃったヤツですか?」
「うんそうなんだ……」
「いつものヤツですね……」
三人はため息をつく。実は良くある話なのだ。夏にピークを迎える肝試し。スマートフォンで霊が見えるようになった現在では、もともと若い世代の間で人気があった遊びである肝試しが、再び再燃してしまったのだ。
夏が過ぎ、秋を迎える季節になり数は減ったものの、それでも同じような案件は後を絶たない。今まではいるかどうかわからない霊を探し、心霊スポットに立ち寄ってはただ肝試しをするといったものだったが、現在はいるかどうかがスマートフォンのレンズを通してわかってしまう。
そうすると、本物の霊にちょっかいを出し、その結果霊が着いて来てしまい、自分達ではどうすることも出来なくなり、不可視物管理課に依頼してくるという若者が多くいるのだ。
この問題はいくら不可視物管理課で呼びかけても減ることはなかった。若者は好奇心旺盛な者が多く、こういったことはどれだけ注意喚起しようと抑えられるものではなかったのだ。
問題は他にもある。心霊スポットに出没する霊は得てして危険な霊が多い。心霊スポットになるには心霊スポットになる理由があり、そこにいる霊はいわゆる『いわくつき』なのである。害を及ぼす甲種であることが殆どなのだ。
「ホント後から後からこういうの辞めて欲しいですよねぇ。ただでさえ心霊スポットにいるようなのは面倒な類の霊が多いのに、そいつに自分からちょっかい出しにいってその挙句こっちに対処させるって」
「まぁまぁ梶原。若気の至りっていうのもあるじゃないか。大抵こういう目にあった奴は二度と軽はずみでこういうことはしなくなるもんだ。一度痛い目見て学んで、大人になっていくもんだ」
「そうだね。加藤君の言うとおりだ。一度目くらいは大目に見て、付き合ってあげよう」
加藤と高田の大人な意見にわかりましたと不服そうに答える梶原。その後加藤と梶原は、依頼人の所へと向かうことになった。
事務所から出ていく直前、高田が加藤に声をかけられているのが目に入り、何故かビクビクしていたが、気にしないことにした。
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依頼者である大学生のアパートに着き、チャイムを鳴らす。はいという元気のない声が響き、アパートのドアが開いた。
「お電話で依頼頂きました。不可視物管理課の者です」
中から出てきたのは短髪で今風の若者という感じの青年だった。身長は梶原と同じくらいで170cmくらいだ。
依頼者は大原の言葉を聞いて、ぱぁっと明るくなる。
「あぁやっと来てくれた! 遅いですよ。朝一で連絡したのに今もう10時じゃないですか」
役所の業務開始は朝9時のため、朝電話して約一時間で到着したことになる。たまたま梶原達は今抱えている案件がなかったため、今回は早く動けた方だったのだが、依頼者の大学生はもっと早く来ると思っていたようだった。ちなみに依頼者の家に到着するおおよその時間は、最初に説明しており遅れてはいないはずだ。
「申し訳ございません。準備がありまして」
答える加藤は冷静に対処しているが、後ろにいる梶原は少し不服そうにしている。
依頼者の部屋に招き入れられ、中に入る際に加藤に耳打ちをした。
「自分の行動のせいで、今の状況に陥ってるっていう自覚あるんかね?」
依頼者の態度が気に入らない梶原は大原に不満を言う。
「梶原、仕事なんだ抑えろ」
と加藤は余裕のある対応を見せた。
依頼者の名前は
部屋は1LDKで、少し散らかってはいるが見れないほどではなく、男の一人暮らしの平均といった感じの部屋だった。
「昨日大学の友達と一緒に肝試しに行って、霊をスマホのカメラで心霊写真に出来ないかと思って沢山撮ってたらたら、一匹着いてきちゃって……」
「えっと……仮にも元人間を、一匹っていうのはやめましょう山岸さん」
不謹慎な物言いに、太一を
「太一って呼んでください! 上の名前で呼ばれるの他人行儀で嫌なんすよね」
いや今日あったばかりの他人だろと内心でツッコミを入れる梶原。そこまで仲良くなりたくもない相手に、梶原は本心では下の名前では呼びたくないと思いながらも、仕事だと割り切り太一と呼ぶことにした。
「うん。実際いるよ梶原。タブレットのカメラに写ってる」
持ってきたタブレットを通して依頼者の太一を見る加藤は、太一の後ろに女性の霊が憑いているのが見えた。
「御託はどうでも良いんで、早くどうにかしてくださいよ! 怖いんですよー」
「……ぶん殴りてぇ」
聞こえないぐらいの小声でそういう梶原。なら最初からこんなことはするなと言いたくなったが、それを今ここで太一に言っても始まらない。
「梶原抑えろ」
梶原の表情や仕草から気持ちを察して耳打ちしてくる大原。それに対して解っているということを加藤に頷いて伝える梶原。
この事態をどう対処するかという事について考えを巡らせる二人。ちなみに霊を確認するのはタブレットでもスマートフォンのどちらでも構わない。タブレットの方が画面が大きく広範囲を見ることが出来るため、霊が複数いた場合の見落としが少なくなる。
「今のところ憑いているこの霊の声は俺には聞こえないです。タブレット越しに見ても太一さんを凝視しているだけで、特に目立った動きはないですね」
「梶原が声を聞き取れてないってことは、霊自信がなにか口にしているわけではないんだな。後は種別が何かだが……」
梶原と加藤が霊の状況について話あっていると、太一が口を挟んできた。
「えっ!? そっちの人霊の声聞こえたりすんの!? すげぇすげぇ!」
「太一さん。今どう対処するかを話をしているので、少し黙っていてください」
「はぁい!」
苛立ちを抑えられなくなり少し強めに窘めるも、太一に反省した様子はない。
ふうとため息をついて話を戻す梶原。
「甲、乙、丙の判断は、先週発表されたこのアプリを使って判断してみよう」
梶原は新技術説明会で発表された、霊の種類を判別するアプリ、通称『霊判アプリ』をタブレットで起動した。
太一に憑いている霊の方にタブレットを向けると、霊判アプリを起動したタブレットのカメラは、霊の色を赤色で写した。
「真っ赤っかだな」
「真っ赤っかだねぇ」
霊判アプリは霊を補足した際に、丙種なら緑色に、乙種なら黄色に、甲種なら赤色に変化する。
最初から予想が付いていたことではあったが、太一に憑いてきた霊は甲種だった。
「梶原、霊はこっちの声に反応はありそうかな?」
「問いかけてみるよ」
梶原はタブレットを持ったまま太一に近づき、太一の後ろに憑いている霊に語り掛けた。
「スマン。こちらがした事で、何か不快な想いをさせてしまったか、怒りを買うようなことをしたんだと思う。今思っていることを、教えてくれないか?」
『……』
だがその問いかけに女性の霊は反応しない。ただ太一の方を向き、凝視している。
「駄目だ。反応が返ってこない。」
「うわこっえー! 何かされそう俺!」
「太一さん黙ってて」
反応がなく、どうしようもないことを確認した梶原に、こんな状況にも関わらずはしゃぐ太一。そしてさすがに静かに怒りを表す大原。
念のため梶原が腕時計型のウェアラブル端末で周囲の温度を測ってみると、部屋の温度は零度。かなり冷たくなっており、体感的にも寒い。
「やっぱり甲種であることは明らかだな。反応もないし、やはり除去するしかなさそうだ」
「そうだな」
いくら甲種とは言え、ちょっかいを出した太一が悪いことは一目瞭然。除去することは出来るが、それも少し憚られた。それでも甲種であることが明らかになった時点で、このまま放置しておけば、太一に悪影響が出てくることはほぼ確実だった。
「甲種であることは確定で、それから市民を守るのが俺達の仕事だ。それに、除去すると言ってもSDカードに封印して供養してもらう形だ。やろう梶原」
「了解」
仕事だという事で割り切り、梶原はタブレットに霊を封印するためのSDカードを入れ、太一に憑いている女性の霊の写真を撮った。
その写真に写りこんだ霊はその場から消え、タブレットの操作でSDカードの中に封じ込まれた。
「よし、これでお寺に持って行って供養してもらえば大丈夫だ」
一件落着と安堵のため息をつく大原と梶原。甲種の霊は、場合によってはかなりの抵抗を見せるものもいるため、注意が必要なのだ。
「へぇー! それで封じ込めたんですか! 俺の持ってるスマホでは出来ないんですか?」
太一が興味津々といった感じで聞いてくる。それに対して大原が答える。
「普通のスマートフォンには出来ないな。俺達が持たされているものは、そういったことが出来るように改造された業務用端末だからな」
「へぇー!」
今回の案件は解決したと判断した大原と梶原の二人は、不可視物管理課の事務所に戻ろうと身支度を始める。
「今後こういう事は、ないように気を付けてください」
最後に梶原が声をかけ、玄関に向かおうとすると太一に呼び止めらえれた。
「待ってください! 一緒に行った友達も似たようなことになってて、俺の件が解決したらあんた達向かわせるって言ってあるんで、そっちに行ってください!」
「は?」
梶原と大原は高田からそんな支持は受けておらず、他にも同じような事になっている者がいるというのも初耳だった。
その場で高田に電話をして確認を取る梶原。高田もそういった話は聞いていないという事だった。
太一もそのことを最初から伝えておらず、友達にも勝手に連れて行くと話していたようだ。
だがそれでも対処しないといけないことには変わりないということで、梶原と加藤は太一の友達の所へ向かうことになった。
「この子達には躾が必要だな」
加藤がこぼした言葉に、普段の梶原なら止めるところだったが今回はそういう気持ちにはなれなかった。
「躾お願いします」
と同意の言葉を口にし、次の現場に向かった。
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