シークゼロ(490)~呪いのループ編~完結!

ネムのろ

第1章 日常がバルスしちゃったよ

第1話 中二病じゃないから。断じて違うから


失敗した。


「あーもう何でこうなるかなー」


本当に、大失敗だ。


「おばさん平気?」

「おばさんのその怪我だいじょぶ?」

「おいお前ら。そろいもそろっておばさんとは何だ。お姉さんと呼びやがれ」


目の前にはこちらをジッと見つめる澄んだ白い色の瞳を持つ双子。暗い処なのによくもまぁ見えるねその色。


「私はまだ二十代だぞ!」


そう啖呵を切る私をよそに、その二人はまったく同じ顔と声で、しかしおよそ十歳の幼い子供とは思えないほどにニタリと笑っている。


「でもどうせギリギリでしょ?」

「おばさんで十分」

「んの、野郎がぁ…」


思わず怒りで拳が震える。だけどすぐに怒りは去って、脱力した。


「あー…助けるんじゃなかったかもなー」

「今更?」

「後悔ちょっと遅いよ」

「クスクス笑うなガキども!」


こちとら命かけちゃったんですけど?なんで当事者のあんたらがそんな平気そうな面してんのさ。

溜息を深く、そう、ふか~くついてから、なんでこうなったのか思い返していた。



*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*



『約束。約束だ…ぜったいに、かならず…』


そんな声が聞こえた。とても優しい声。そして柔らかい眼差し


『うん。二人だけの約束…だね』


そう言うと夢の中のその人は嬉しそうに、でも悲しそうに笑うのだ。


『君が覚えていなくても僕が……』


そしていつも目が覚める。


「また…あの夢か…」


ずっと昔にした大切な約束。大切な思い出は色あせていて。穴だらけで。よく覚えてない。


「最後まで…聞き取れないんだよなぁ…」


ねぇ、夢の中のあなたは…なんて言ってるの?どうしてあんな悲しそうな顔をするの…?

光に包まれる前のあの顔が忘れられなくて、頭の隅っこにいつもこびりついている。それなのにその先はどうしても思い出せない。


思い出そうとするたびに、胸が締め付けられて苦しくなって、まるで引き裂かれるような、そんな感覚が襲う。

そうして、また記憶は眠ってしまうのだ。


「はぁ…」


寝ぼけ頭で考えても思考が追いつかない。カジカジと頭をかいてから溜息をついた私は…窓から外を眺めた。


「曇ってる…」


天候は曇り。ガックシと項垂れてからまた溜息。


「面倒な世界だよなぁ。今日もこの悪天候の中、会社かぁ…」


鬱になりそうだ……


「でも、これが今の私の現実…リアルなんだから…」


あの世界ではないんだから。

そう思い直してから、ベットから起き上がった。


やぁみんな。私の名前はみぎわ 千年ちとせ二十六歳。千の年と書いて『ちとせ』と読む。今年で社会人三年目なんだ。よっろしく!


「かったるーい……」


仕事に行ってからの、通院が物凄くめんどくさい…と、私は寝不足でも起き上がる。


「サボりたい…できれば両方……」


そんで一日中、オンラインRPGやってたい…懐かしい雰囲気がするあのゲームをして、あわよくば元の……


「って、何かんがえてんだろ」


未練がましいのもいい加減にしろっていうヤツだよなぁ。


「私があの世界を懐かしがったり、ましてや“帰りたい”なんて言う資格ないっつーのに」


ゴロンと寝転がって、天井を見つめる。今もぼーっとすれば目の前に、記憶が3Dのように広がっていく。錯覚とは違う。これは私の“昔の記憶”


中二病もいい加減にしろと言いたそうだな?ところがどっこい、コレは現実リアルだ。


私はその世界で剣を持ち、草原に寝転がって…青い澄んだ空を眺めてて。


そう、近くには古ぼけた酒場と、その先には中世期のイタリア風味な家が並んでて。街並が綺麗で風が優しく吹いて…子供たちもあっちへこっちへとはしゃぎながら走って行ったり。

野菜や果物をうるおばちゃんたちが、『いつもごくろうさま』っていって、ニコニコ笑いながら果物をサービスしてくれたりして。


お腹いっぱいで草原に寝転がって昼寝を堪能するのが私のクセで。いつもそうしていると、どこから情報を仕入れてくるのか、相棒に見つけられて叱られて。


『いい加減にしてくれないかな?!探すの一苦労するんだけども?』

『いやーあはは。ごめんごめん。』

『謝ってお金が稼げたらいいのになー。そうしたらもうちょっと良い装備手に入ってたのに』

『あはは…ごめんってー。じゃあ、仕事にとりかかる?』

『そうだね!』


ああ、そう言えばこの子、いつも見てる夢の中の子と似てるな。


そんな事を考えながらもう少し記憶を遡ろうとした瞬間、携帯が鳴って、私の3Dの記憶は中断され、リアルに引っ張り戻された。


「うっげぇ…社長からだー…めんどくせぇ……」


なんでかわからないけどこの社長、私が会社に入ってから何かと面倒を見ようとして来る。

皆は羨ましがってさ…人間関係めんどくなるからやめろって言ってんのに一向にやめてくれないんだよな。


しかも、この社長無駄に若くてイケメンだから。女たちの視線がさぁ…


おかげでボッチ体質がしっかりと板につきましたが、なにか?


「ただでさえ、こんな髪と瞳の色だし」


ああ、もうホント…ツイてない……


「私の事、ただ珍しいから弄ってるだけっしょこの社長」


まぁ、路上でお金に困ってた時に声かけてくれて、次の日に会社員にしてくれたのには、物凄く感謝してるけどさ……


え?その社長オカシイって?うん。めっちゃオカシイよ。保証できるほど。


でもなぁ…なんかさぁ…


「あんまし…かまってほしくない……」


どうせ、使い物にならなくなったらポイって捨てるのは目に見えてるんだから。


そんな事を考えていると、また記憶がバッと目の前に広がった。

そこは、先ほどの街で。でも…火の海と化していた。


「なに…コレ?!」


こんな記憶、今まで見たことがなかった。

逃げ惑う人々、助けを乞う人たちの傍らで、私は…いた。

剣を片手に。でも、その手は震えてて……


『あんたのせいで…!』


街の人が立ち去る前にそう私に吐き捨てていった。さっきのおばちゃんはいつものあの果物をくれてた──…


『あんたが!あんたがこの街に逃げ隠れてこなければ…!父さんと母さんは!!かえしなさいよ!かえしてよぉ!私の父さんと母さんをかえしてぇ!!』


道で泣き崩れる女の子。その後ろは──…魔物の群れ。


『ひぃ…!』


カタカタと、腕や身体が震えてしまう。ああ、そうか…この騒動は私のせいなんだ──…私が引き起こした…!

ここの人たちが苦しんだのも、死んでしまったのも全部───…


『なにやってる?!早く戦う準備をしろ!俺たちが強くあって、こいつらから人々を救わなきゃ意味がな…』


何を思ったか、私はその場所から走ってしまった。


仲間を…置いて。


『お、おい?!戻ってこい○○!一人は危険───…』


嫌だ


まだ


死にたくない


『私はまだ…!』


そうして、逃げた先に待ち構えてたのは、相棒とも呼べる、信頼ある男の子。あの夢の中の男の子だった。

壊されていく街を立ちすくんで見てて。私へと振り返った彼の顔は───…悲しそうに笑っていた。


待って。待って待って。私は、わたしは──…っ!


そこで、記憶はバッと消える。


「──…カハッ?!う…はっ─────!!…あぁう…ケホッ…!」


今まで眠っていた記憶が無理に出てきたためか…私は呼吸困難になってしまった。でもすぐに息を整えて、汗だくになった身体を清めるために、シャワーを浴びる事にした。


まだ胸の痛みを覚えながらも、私に悲しむ資格なんてないと思いながら…携帯をとって社長に『遅れます』というメッセージだけ書き込んで送った。


ああ~もうサイッアク。


「後悔したって遅い…私はきっとあの世界での役割を果たせなかった。そして…」


無駄に死んでしまったのだろう。何も守れずに。何もできずに……恐怖に負けてしまったがために。

臆病にも逃げ出して、街の人々の命までもたくさん奪うような事態を引き起こして───…そして…


そうか…私は罪人なのか。だから、ずっと感じていたんだ。疎外感を。背徳感を。悲しみを。


胸の痛みを────……


だけど、今まだ私はずっと祈り続けてる。


「バカな私をどれだけ罰してくれてもかまいません。役割を果たせなかった弱虫なダメ人間な弱い私なんて、逃げたクズな私なんて永遠とわに罰せらればいい。だから…引き換えに…」


どうか、あの世界が…救われていますように…


「そう願う事だけは…赦して…」


私の行った愚行は赦されなくってもいいから。

胸の銀の十字架をギュッと握って。目を瞑って祈るように呟いた。


その時丁度、社長からメッセージが届いた


『汝の行いは間違ってはない。愚行でもない。すべては罪びとに罪を着せるための嘘であり…封じられた“力”と“記憶”を取り戻すためには、罪びとの枷を外すべし…』

「“すべての始まりはすべての終わりからはじまる…”」


私はそれを読み上げて……溜息を零した。そして返信した。


「『社長…リアルオンラインヴァーチャルRPGのアエノシロの暗号の話するとき、冒頭になにか書いてからにしてください。紛らわしいです。あとウザい』……返信っと…」


その後きた(´・ω・`)こんな顔文字にイラついた私は…華麗に無視してやった。


余談だけど、オンラインRPG…『リアルオンラインヴァーチャル』略してROV株式会社が開発したこのゲーム、『アエノシロ』に私と社長はハマっている。

世界観と言うか、雰囲気と言うか…記憶に出てくるあの世界と似ていて居心地がいいのだ。だからなかなか止められない。


……もう末期だな


って思った奴ちょっと表でろや。


社長がこのゲームにハマっていると知ったのは…たまたま部屋でオンラインで遊んでたら一人の『魔獣使ビーストテイマーい』にパーティ組み換えで仲間に入れてほしいと言われたから。


数日後、社長がものっそそれらしいことをツイッターで呟いてたからカマかけたら見事に引っかかってびっくりしたのを昨日の事のように覚えていた…

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