第28話 社長と茶飲

さて。戦いの後、数か月たちました。相も変わらず僕は社長をやってます。長年封印してきた名前が徐々に呼ばれ始めて、少し戸惑っていますが、僕も他の仲間たちも、変わらず元気に過ごしてます。


アエノシロも相変わらず、やってます


せっかくここまでレベルを上げたんだし。それに他のみんなと情報交換あそべることができるし。何よりみんな、肩の荷が下りたとかで、ずっとずっと生き生きしてる。


そんな皆を見ることができたのなんて、何時ぶりだろう?始まりの世界ではこんな風に笑ってても、みんな何処か重苦しい時があったりしたし、それになにより、やっぱり世界を救うという責任感と命のやり取りをしていたから…


「さぁてと、今日の書類は、と」


早速仕事をかたずけ始める。もう少ししたら千年を呼び出して、いつものようにアエノシロのことで色々話して…それから


ああ、そうだ。すべてが終わるまで保留にしていた事も、やり遂げたい。でも、今の僕が告白したからと言って、千年の中に何か芽生えたりするだろうか?


ちらりと、キッチリ働く千年を盗み見た。

今日も彼女は後輩に優しく、時には厳しく察して、パソコンに向かって溜息を吐きながらパチパチやり始めた。


いいや、絶対フラれる自信ある!

まぁ、だからといって、このまま何もしないわけでもないけど


「どうすればいいのかなぁ…?」


ずれた眼鏡をクイと指でなおしてから、少し溜息を零す。すると、ブブブとメールが来た。


「茶飲くんから?」


普通のメールだ。まぁ、もうアビリティは使えないから普通のしかできないんだけども。


「どれどれ…『社長という名のヘタレへ』…」


ピッ。


僕は即座に携帯の電源を落とした。

次に机の上の書類とにらめっこを始めようとしたら、勝手に僕の仕事部屋に茶飲くんが入ってきた


「ちょっとぉおお?!なに無視してるんですか優夜社長?!」

「うん。最初の行に、じつに腹立たしい言葉があったから、つい。」

「てへ♡なんてしても様になってても認めませんよ?!」


それから、彼はハァ―と深い溜息を吐いた


「社長、あんたこのまんま、何もしないで先輩を放置するんですか?」

「…」


ああ、やっぱりこの事について彼は乗り込んできたのか。お節介焼きだなぁーもう。


「あのね、物事には順序ってものが──」

「あんたの順序は千年か」

「うっ」

「たしかに前よりはかなり仲良くはなりましたよ。友達として。でも、じゃあいつになったら次のステップへ移行するんです?また千年気長にやっていくんですか?」

「そ、そんなワケないだろ!というよりも、もう僕たちは転生は──」

「そうです。できないんですよ」


急にふざけた感覚が抜け落ちて、彼は真剣に話始める


「今世紀だけなんですよ。自由に生きられるのは」


その彼の言葉の重さと言ったら。思わずしりごみしてしまった。


「ということで、先輩とすでにデートの約束してあるので、社長一緒に行ってください。ハイこれ遊園地のチケット。はじめてのデートにはうってつけだって聞いたんで」


とても良い笑顔でチケットを渡された


「その次にデートに誘うなら映画館ですね。先輩は恋愛ものには無関心で、見るならアクション映画ですよ」


そして、彼はまた真剣な顔で


「良いですか社長?ぜったい先輩を落としに行ってくださいよ?彼女自分はモテないとか、自分はブスとか悲観的ですが、結構…いやかなりの数の男が彼女を狙ってます」

「え、そ、そうなの…」

「そうですよ!あんな美人を逃すバカいます?あ、いますね目の前に。まぁとにかく上手くやって先輩落としてください。じゃないと先輩、誰かに落とされちゃうかもですよ?」

「え、ええぇえ?千年に限ってそれは」

「ありますって!油断大敵です。人生は一回きりですよ?」


念を押していきました…


そういうことで、僕の財布の中にはきっちりと二枚の遊園地のペアチケットが


「はぁ…これじゃ、千年を呼ぶに呼べないじゃないか…」


僕の仕事の合間の唯一の楽しみだったのになぁ


「社長、なに辛気臭い顔してるんです?」

「ああ、うんなんでもな──ち、千年?!」


わたわたと慌ててしまったからか、書類を床にぶちまけてしまった


「もー、なにしてるんですか」

「ご、ごめん」

「戦いが終わったからって、気緩みすぎなんじゃないですか?」


そう言いながら千年は書類を拾うのを手伝ってくれた


「うん…そうかもね」

「はい。これで最後ですね。気を付けてください。あと、この書類とこれにサインを…」

「ねぇ千年」

「はい?」


戦いは終わった


気が緩んでいるのも、もしかしたらそうかもしれない


でも、それでもいいと思った


「今度の日曜日…」


すくなからず訪れたチャンスを、少し掴んでみようと思った


「デートしない?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る