第27話 千年と千秋
私が目を覚ましたのは、全てが終わったあと。
あの後、社長は見事、最後の力を振り絞って“理”を修復することに成功したそうです。切り裂かれるような痛みと戦いながら、彼は“異常”な部分を“正常”にして、そしてすべての力を失ったそうです。
それはもちろん、私や他のみんなもそう。ちょっとだけ惜しい気もしたけど
でも、これでよかったのかもしれない。
なんて言ったって、私たちが不思議な力を何万個も使えるなんて、それこそ世界のバランスが崩れてしまってたかもしれないと、千秋が言ってたような気が。
難しいことは、頭が痛くてよくわからなかったんだけど…
まぁ、なにはともあれ、私たちはこれで、やっと静かに生活できることになったわけで。うん、まぁちょっと。ほんのちょこっとだけ惜しいけども。
自分の手を見つめる。
「これで、世界の“理”が修正されたんだから、もう生まれ変わったりループしたりしないんだよ、ね?」
隣にいる千秋へ問いかけると、まぁ、な。とお茶を優雅にすすりながら答えてくれた。魔王の力も完全に消滅したらしくって、彼女の瞳は私のと一緒のスカイブルーに戻り、もう二度と赤くはならない。
らしい。
「ところで、千秋はこれからどうするの?世界の破壊はもうさすがにしないでしょ?」
「まぁ、な。俺はこれから、当主として色々なものを変えていこうと思ってる。まず手始めにお前たちを受け入れる事からはじめる」
「へ?」
千秋は優しそうに笑ってて
「お父様は無理やり地位から落とした。叔父様や曾祖母、曾祖父さまももう、こちらの味方だ。明日からでも母様と一緒に、家に戻ってもいいぞ」
「マジかよmy sister」
驚きのあまり一部英語になってしまった私を責めないで。だってあの家だぞ?頑なな面倒くさそうな仕来りいっぱいあるあの、名門家のカナメともいえるジジババの頭をどうやったら柔らかくできたのさ?
ああ、でも経緯はいいや。知りたくない。考えるだけで頭痛そうだし。
「ところで、千年は社長とはどうなったんだ?」
「え?普通だと思うけど」
「本当か?」
なにちょっとニヤけてるんだこの妹は?
「本当だってば」
「…そうなのか」
今度は呆れた顔してる。なんで?
「あいつめ、今世紀が最後だというに、言わないつもりなのか…?だとしたら筋金入りのヘタレだぞ…」
「まぁ、社長はたしかに筋金入りのヘタレだけどさー」
「やはり千年も気が付いていたか」
「でも、千秋が言おうとしてることは、まったくわからないんだけど?」
「わからんでいい」
「ええ?ちょっとは教えてくれたって」
「教えん」
「いじわるー」
そういうと、千秋はクスクス笑った。黒髪美人が笑うと絵になるわー。
「そうスネるな。こればっかりは、当人たちの問題だからな。俺の出る幕ではない」
「あ、千秋はその口調、なおさないの?もう魔王じゃないんだし」
「ああ。これはしかたがない。長い間、男としてしか生まれてこなかったのでな。」
「え?じゃあ今世紀がハジメテの女の子?」
「ああ。まぁ、いい経験にはなった」
雪も解けかけの、春の予兆とでもいうのか、縁側でのほほんとお茶を飲み飲み、茶菓子を食べ食べ、そんなことを言い合って笑ったりしていると、奥の方から千秋の幼馴染で秘書になる予定の人が話の途中で出てきた。
もうそろそろ仕事に戻らなければいけないと告げてきたので、私はそろそろ、おいとまするからと、立ち上がった。
すると妙に泣きついてきたのが千秋で。やれ今日は泊まれだの、今度はいつ来るだの、ちゃんと食べているのかとか、よく寝ているのかとか聞いてきた。
これじゃどっちが姉だがわから…ゴホン。
「千秋」
ギュッと彼女の両手を握る
「また、会えるから。心配しないで?」
「千年…」
やっぱり不安に感じてたのか。でも大丈夫よ。失った時間の分、うんと時間をかけて色々一緒にやっていこうね。
そうして私は汀家を後にしたのでした。
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