第26話 理の番人

パリパリと静電気のようなものが彼女の周りから放たれる。


「そうだ、この名前、カタカナだからきっとどっかの世界…きっと最初の世界の名前でしょ?」


『デューク』


ザワザワと彼女の周りが怪しい音をたてはじめる


「あと、この世界の名前…たしか『一途之いちずの優夜ゆうや』だったような気が」


その名前が千年の口から出た瞬間、静電気が雷ほどの電力となり、彼女を脅かす。


「きゃあああ!!」


昔から千年はなぜか雷の音に弱いのだ。


「やっぱり出てきたか…!」

「やっぱりってなんなんすか?!」

「社長?!どうなってるんですか?!先輩の周りが激しい雷で…」


幸来と茶飲が慌てていると、冷静に分析していた黒影がハッとした


『こいつはもしや…』


あれもしかして?と、白影もまた何かに気が付く


『まさかの、まさか?』


昴と進は今まだわからないでいたが、千秋もハッとした


「このうすら寒い嫌な気配は…」

「その通り」


社長はアビリティで召喚した


「出でよファイアードレイク!!」


そして続けさまに


「『合成ミキシング』!!」


火のドラゴンにちなんでなのか、炎のような服装。背中には赤いドラゴンの翼。頭には角の生えた帽子。


「察しの通り、『狂った三つ子の理の番人』だよ!みんな気を引き締めて!!最初からフルで行かなきゃやられる!!」


目の前で飛び立った社長は腕を伸ばし、魔方陣を空中で構成。のちに炎の攻撃を繰り出す。しかしさすが世界の理の番人。さもことありげんに、かわす。


『お前らの好きにさせぬ…』

『世界は我らが守る…』

『危険異分子は消え去るがいい…』


彼らの放つアビリティはとてつもなく高密度でいて威力が高い。


「クソ…ッ」


千秋でさえ、ボロボロだ。


「だがな…俺は諦めんぞ“理”たち」


ここまできて諦める選択肢は彼女にはなかった


「せっかくやっと、俺の姉を救える時が来たんだ。諦められるわけがないだろう!!」

『諦めろ…』

『もはやお前たちに課せられた選択肢は』

『死だけだ』


そこへ


「うりゃああ!!」


千年が大きく剣を振りかざす


『その剣は』

『リヒトソード?』

『勇者にしか手渡されないのに…なぜお前が』

「まだわからないのか!!」


社長が声を張る


「君たちはどこかおかしくなってしまっているんだ!!」

『我らがおかしくなっているだと?』

『あり得ない。あってはいけない』

『偽りを言うな人間』

「嘘じゃないよ…本当だ!あってはいけないことが起きてしまって、今、世界のバランスは崩れてる!君たちも感じられるだろう?」


そこで光る彼女たちはハタと気が付いた


『だが、我らは』

『お前たちを』

『消さなければ』

「やっぱり何を言っても修正しなきゃダメなのか」


両手を広げる社長は、彼の周りにいくつもの魔方陣を出現させた


「ペガサス、クラーケン、フェンリル、ニーズヘッグ、ガーゴイル、ウンディーネ、サラマンダー、シルフィード、ノーム召喚!!」


一気に召喚してしまったためにミキシングが解かれてしまったが、そのまま社長は地面へ着地しながら、声を発した


「みんな一斉に攻撃だぁあああ!!」


その彼の指示通りに、幻獣たちが一斉に三人の理の番人へと攻撃を行う


地響きが鳴る。周りに響き渡る空気が割れるような、とてつもない爆発音。立ち込める煙と共に閃光があちこちで巻き起こる。

やっと落ち着いて煙も晴れていくと、そこには


『今のは』

『なかなかだった』

『しかし、まだまだ』

「やっぱり今のじゃ理の番人にはおよばないか…」


でも。と言いつつ、社長…一途之 優夜が


「及ばないくらいが丁度いい」


ニヤリと笑った


「アビリティ発動!『虚無ゼロ・オブ審判ジャッジメント』」


彼の後ろから飛び出て、その手に持つ黄金の杖で幸来は魔方陣を構成、発生させ、その一帯を囲む。


「このアビリティは相手があんまり強くなければ、あたしの魔力が続く限り閉じ込めることができるっす!」

「でも反対に相手が強ければ」

「すぐ出てきてしまうっすね。もってあと、十分程度っすよ!」


中で出てこようとして、暴れまくる三人を見ながら、満身創痍の仲間たちは集まって地面に座る。そして一人ひとり、魔方陣をその場に作り、魔力を高めていく。


「みんなは…なに、しようと?」


フラフラの千年がやってきて、今にも地面に倒れそうだったのを、千秋がサッと肩を貸して立ち上がらせた。


「あいつらは今、究極奥義を放とうとしている」

「きゅうきょく、おうぎ?」

「ああ。体内に存在するほとんどの魔力を同時に放出し、それを空中で混ぜ合わせてこの世界に存在する異分子、少ないマナを使い、召喚した幻獣たちの力も混ぜ合わせて世界の理の番人へ攻撃を食らわせるつもりだ」


しかし、大きな技にはそれ相応の代償がつきもので。


「この攻撃の後、世界と俺たちの身体に流れる魔力の源のマナが回復する見込みは…無いに等しい」

「それって」

「ああ」


千秋も地面に座り、どんどん魔力を高めていく


「俺たちはアビリティを使えなくなる」


黒い魔方陣が千秋の座る地面から広がっていく。


「だが、それでも、万に一つでも可能性があるなら」


アイツらに勝てるのなら


「千年を、救えるのならば」


ちらり流し目で千秋が千年を見つめる。真っ赤な瞳がブルースカイの瞳と視線がぶつかり、そのまま彼女は微笑した。


魔力こんなものなど、惜しくはない」

「まっ」


直後に集まっていく皆の力。それは熱風にも似ていて、


「いくぞ!幸来の『虚無ゼロ・オブ審判ジャッジメント』が破られた瞬間にありったけの力を解き放て!」

「待って!」


千年が何かを言う前に、番人たちはアビリティを粉々にしながら出てきた。その瞬間巻き起こる爆風。みんなの力が一斉に集まり混ざっていく。そして、千秋の掛け声により真っ白い魔方陣が空中に構成されて──


「「「いっけぇぇええええ!!」」」


折り重なる力。折り重なる声。小さな力は重なり大きいものとなって、番人たちへと降り注ぐ。


『ぐあ、あああ、あ』

『くっ』

『なんのこれ、しき』


それでも耐えている三人へ、飛びかかったのは


「とりゃああああ!!」


千年だった。


「アビリティ発動!!『ライトニング最終エンド!!』」


その剣は大きくなり、光を集めて眩い閃光を放つ。途端に皆の攻撃の中心へと飛び出した。


「「千年?!」」


優夜と千秋が驚いて立ち上がる。


「ちとせ!」

「無茶だよチトセー!!」


愛と優が大声で叫ぶ


『なんという無謀な…』

『でも、彼女らしいけど』


白影と黒影がポツリ呟く


「先輩なにしちゃってんですかもー…」

「さすが、勇者なだけあるけども…」

「やりすぎな気がする」


茶飲と昴と進が呆れ気味に言うが、みんな微笑していて


「そうだよね。最初から君はこういう人だった。己の身も顧みずに助けようと、頭より先に身体が動く。それでこそ、僕が愛したひとだ」


優夜はそういうと静かに立ち上がった。そして


「最後になるかもしれないけど…アビリティ発動!『ミキシング』!」


彼はペガサスとミキシングし、背中に真っ白い大きな翼を生やして、千年へと向かった


一方彼女は苦戦していた。どうしてもあと一歩のところで、攻撃が彼女たちに届かない。まるで強固のバリアーでも張られているかのような。


「でも、諦めないからな!!こんのぅ~!」

『しつこ、いぞ』

『光のもののくせに、我らにたてつく愚か者が』

『跡形もなく消し飛──』

「させないよ」


バサリとやってきたのは優夜。その瞳は覚悟を決めた男の瞳で。


「しゃ…ちょ?」


千年をギュッと抱きしめた彼は、そっと地面に寝かせる。上着をそっと彼女の上にかけて、ボロボロになった彼女を見て


「よく頑張ったね。えらいえらい」


頭を撫でて


「最後は僕に任せて。きっちり修正してくるよ」


そう言って社長、一途之優夜はまた、バサリと空へ飛び立っていった

止めようとして伸ばした手が、空を掴む。


「しゃ、ちょ…」


ボンヤリとしか見えない千年の瞳に、最後の力をありったけ使ったために、バリアーに空いた穴へ、彼がアビリティを使って攻撃、書き換えを行う姿が映し出されて…そして


千年の意識は深い暗闇へと落ちていった

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