第25話 名前

「恥ずかしいけど、これに気が付くのにとても時間がかかってしまったんだ」


ハァ…と溜息を零す社長。それを見て、早く言えと先を急かす千秋。


「はじめの世界。そこで僕は自分の真の名前をマナに変えて、“理”の中に侵入させて一部改変を行ったんだ。」


愛と優が首を傾げる


「「だから何?」」

「誰も何もできないハズの世界の理はちょっとやそっとじゃ変えられない。でも僕はそれに成功した。まぁ、あの世界での寿命の大半を失う事になったけどね」

『『それがにゃんだ?』』


白影と黒影も首を傾げる


「あの世界の理は、今やバグっているのと同じなんだよ。世界のルールがおかしいんだ。たとえば空が飛べなかったキリンがいきなり空を飛び始めたり、泉がワインになったり…まぁ色々」

「それがどうかしたんですか社長?」


やっぱりわけがわからない茶飲も首を傾げる


「そこを僕は利用して、僕の魔力とアビリティを駆使して、理の中に潜入して、ある部分を書き換えた。その部分は『他の世界に転生できない』を『転生“できる”』に変え、もう一つの『アビリティはこの世界だけのもの』を『この世界と共通するもの』にしたんだ」

「だから、なんなんすか!いい加減に答えを──」


そこで、幸来がハッとする


「まさか」

「その、まさかだよ幸来」


社長はわかりやすく空中に光る文字を描いた。それもきっと彼のアビリティなのだろう。スススっと書いてから、皆を見わたした。


「いい?世界の理はね、一度混入された力に滅法弱いんだ。そして部分的に文字と文字をそろえるだけなら今の僕でも簡単にできる」

「はい!社長質問です!」


勢いよく手を挙げた千年を、社長はビッシと指さした


「はい、千年さん!」

「だから何なんですか?趣旨がわかりません!」

「気持ちいいくらいキッパリ言ってくれて、ありがとう…」


社長は今まで自分が言ったことが伝わっていなくてガックシと肩を落とした。


「まぁ、ようは、理も千年から出たし…僕だったら“書き換えられる”ってわけ」


その彼の、単刀直入な発言にみんなは


「「「は、はぁぁああああ?!」」」


ただただ、唖然と驚くしかなかったのである。


「いやー、僕も盲点だったよ。実はそれに気が付いたのは魔王に閉じ込められてた間でね?色々考えられたよ。これが結果オーライってやつかな」

「いや、それは少し違う気が…」


まぁ、なにはともあれ


「さぁ、みんな!僕の名前を当ててごらん!」

「はぃ?」


あまりの変化についていけずに、千年から変な声が出てしまった。


「社長、突飛すぎて何が何だかわかりません。詳しく説明してください」

「ああ、ごめんごめん…えと、つまり僕の今まで巡った千年の間の魔力の源が世界の“理”の中にあるんだ。それを解放して“理”を中から書き換えれば」

「なるほど!中からなら防御が薄い!千年も世界も救えるっていう寸法っすね!!」

「その通りさ幸来!」

「やるっすね!でもそれに今まで何で気が付かなかったんだダメ兄貴が」

「怖いし痛い!急に変わらないでくれるかな幸来?!」

「でかしたぞ社長!」

「よっ!さすが天童♪」


騒がしくなっていた場が再びシン…と静まり返ったのは、千秋の放った静かな言葉が響いたから。

たった一言


そうか…助かるのか


それだけ


「千秋…」

「よかった…これでやっと静かに暮らせるんだな」


千秋も、静かに暮らしたいと心底願っていたらしい。そこはさすが双子というかなんというか。


「でも、それを解放するための『鍵』が僕の真の名前なんだ。」


世界のどの記憶からも薄れてしまった社長の名前


「いずれかの世界でつけられた名前…それを言い当てる事が出来たら!」


それだけでいいんだ!さぁ早く!!

そう社長は言うが、皆は首をひねり、唸り、考え込む。しかし


「だぁあ!ダメだよ~!一番最初の世界も、どの世界も…ましてやこの世界のも思い出せないよ!」


一番最初に音を上げたのは進。


「そんなこと言ってもはじまらないだろ。ほら、もっとよく考えるんだ…きっと何かの手がかりが」


一生懸命思い出そうとするが、これまたダメで少し落ち込む昴。

二人はうーんうーんと言いながらも続けてくれていた。それを見て、白影が思い出したように声を発した。


『そう言えば、兄さん少し思い出しててこの前、社長さんのことあだ名で呼んでにゃかった?』

『ああ。たしか…デュー』

「そう!ほら、そこから思い出せない??」

『…』


黒影は考えた。首を傾げて、また戻して。そしてまたかしげて。


『すまん。どうやら今の俺はそれが精一杯のようだ』

「そっか…しょうがないよね。あ、この世界のでもいいんだよ?誰か…」

「つか、兄貴が言えばいいんじゃないんっすか?」

「それは無効になってしまうんだ。自分は意識しちゃってるからさ。外部の意識してない人が言ってくれないと『鍵』は発動できない」


しかし誰も、思い出せなかった。魔王だった千秋さえも


「でゅー?」


しかし


「ねぇ、それってたしかさ」


千年は考えて、思考して、頭を捻って


「アエノシロで使ってたアバター名じゃない?」


そうして思い出した事がある


「社長ってたしか、二つ名前があって皆がそれを馬鹿にしてた時あったじゃないですか?」

「千年…」

「たしか…えっと…」

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