第24話 『呪縛』と『理』

司祭は千年の頭を撫でて微笑んだ。まるで父のようにその瞳は優しくて。


『とてもキミ想いの良いひとじゃないか?』

『あうう…』


そして、今度はやっと出会えた双子の片割れ。自分をずっと大切に思って一人で頑張り続けてきてくれた妹。


そっと、千年は千秋の頬へ手を寄せる。顔こそ俯いていて表情は読み取れなかったが、その頬はいまだ濡れていて。


「あと、千秋と会って触れ合って…やっと弱い自分と向き合えた。こんな自分を赦せた」


足りなかったのは、自分と向き合う勇気だった。


「「ありがとう」」


重なった声は、千年と千秋のもので。


「こ、んな…俺なんかを…赦してくれて…ッ!こんな俺を家族として、触れ合ってくれて…」


俺は今まで悪だったのに


「お前は変わらず俺を…ずっとずっと、救おうとしてくれた」


お前こそ、もう救われていいんだ


そう呟いた千秋は、ありったけの力を魔方陣へと攻撃し始めた。魔方陣は攻撃されるとひび割れて跡形もなく消えていくが、千秋の攻撃によって四方に飛び散る。


「千年から離れた『呪縛』なら、今のお前たちでも消せるはずだ!これらを消さぬ限り千年は完璧に開放されないぞ!」


お前たちはそれでもいいのか!と千秋がアビリティを使いながら破壊していく。その彼女の言葉にハッとした仲間たちは、それぞれ武器を手にした


「冗談キツイっすよ!これの繰り返しなんてまっぴらごめんっす!」


幸来は自分の武器を巧みに使い、アビリティでそこいらに散らばる魔方陣を破壊していく。


「他人の一生はやっぱり一回だけで十分ですよ!何回も繰り返されるのなんて本当もう色々我慢の限界ですからね!」


茶飲も早速自然の力をふんだんに使って破壊する。

もちろん、すべての仲間が魔方陣を破壊していく。よし、私も!とリヒトソードを掲げた千年へ待ったをかけたのは千秋だった。


「お前ではこの呪縛式魔方陣は破壊できない。あれは光魔法。お前も光魔法…光は光を破壊などできないんだ。」


だから、光には


「闇だ」


そう言いつつ、彼女はアビリティを発動させる。紫っぽい黒い魔方陣が、彼女の足元に現れてそこらに飛びかう魔方陣を弱らせ動きを鈍くする。


「これならお前たちでも簡単に破壊できるはず。やれ!」

「「「よっしゃあ!」」」


あと数個というところで、かれらの一斉の攻撃は受け流されてしまった。皆は反動で少し吹き飛ばされたが、なんとか戻ることに成功した。

しかし、彼らの攻撃を跳ね返したであろう原因の元を見て、唖然としてしまったのだった。


「社長…?」

「な、んでっすか…?」


そこには、ゆらりと満身創痍で立ちふさがる社長の姿が


「なんでは、こっちが、聞きたい…」


彼は息を吸い辛そうにしながら、皆の前に立ちはだかる


「世界を守らなきゃいけない僕たちが…どうして“理”を破壊しているんだ?!」

「“理”…?」

「え、だって…それはチトセを苦しめていた“呪縛”でしょ?」

「壊さないと、また、ちとせは“囚われる”んでしょ?」


双子の愛と優がそういうと、社長はギリッと歯ぎしりした。


「魔王…話すんだったら、きちんと最後まで話してあげなきゃダメだよ」


そして、哀愁漂う面をしながら、言い辛そうに顔を背けた


「そうだよ。魔王の言ったことはすべて事実。でもね、彼…いや、彼女は一つ君たちに言ってないことがある。」


千年にかけられた『呪縛』は、狂った世界が生み出した『理』そのものだと


「理を破壊したら…どうなるか知ってるかい?」


チラリと幸来を見つめれば、幸来はえっと…と言いつつ答える


「たしか…世界のバランスが崩れる。じゃなかったっすか?」

「そうだよ。だからそれ以外の方法で僕たちは」


それにつっかかったのは千秋で


「もう時間がないのだ!これ以上ちんたらしていれば、理が千年を殺すぞ!」

「理を壊せば世界は崩壊しはじめるって知ってて言ってるんだったら、さすがの僕も怒るけど?」


ガっと社長の胸倉を掴んだ千秋は、グッと社長を自分へと引き寄せる。その瞳は赤かった。


「俺はもう怒り狂いそうだが?」


そしてそのまま二人が睨み続ける中、千年が仲たがいをする


「あのねぇ、いい加減にしてくんない?」


溜息を吐きながら二人を引きはがしながら、まだ火花を散らす二人を見て、今度はニッコリ微笑みながら二人へ綺麗に拳骨をお見舞いした千年は、まったくもー。といいながら二人を地面へ正座させた


「これじゃラチがあかない。ね、千秋は本当に世界の理を破壊するしか方法はないって思ってる?」

「思ってる」

「そう。本当に?」

「ああ」

「ホントのホントに?一かけらも残ってないって思うの?」

「…い、いや、それは…」


言いよどんだ千秋を見て、フフと微笑したのち、千年は今度は社長のほうへと顔を向けた。


「社長は?」

「あるよ」

「即答ですか」


さすが社長だよなぁ。と遠い眼をしながら千年は溜息を吐く。

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