第8話 めぐ

私たちの自我が覚醒したのは、まだママのお腹の中に居た頃だった。覚醒してから、そばにいてくれる存在を確認して、ほっと安心した。


ああ、またこの世界でも、あなたは私と一緒に生まれてくれるんだね…。そっと、手を動かしてギュッと相手の手を握る。


(また、一緒だね)


そう、言葉のようなもので言えば、相手がもぞもぞと動く気配がした


(うん…いっしょだね)


その懐かしい声に嬉しくなって。いっぱい色々話した。

前の世界の事。はじめの世界の事。そして…今度生まれるこの世界の事。この世界はどんなだろう。親はどんなだろう。


前の世界の両親のように優しいだろうか。

貧乏でもすごく良い人たちだった。病に倒れてからもずっと傍にいてくれた。最後は病に負けて死んでしまったからこうして転生したのだけど。


今度はどんな世界なのだろう。魔法あるかな。医学は三つ前の世界のように進んでいるのかな?


本当に色々しゃべったあとで、私はハタと思い出した


(どうして私たちって、転生をくりかえしてるんだっけ?)


そうしたら、目の前の大切な私の片割れが笑った感じがした


(相変わらず姉さんは忘れん坊だね)


そして、また手を握ってきてくれた。彼はいつも優しい…この手のぬくもりが大好き。昔も今も…そしてきっとこれからも。


(僕たちがこうして死んでも別の世界に転生し続けられるのは千年までだよ。何度も転生して魂が壊れちゃった人や、耐えられずに記憶が所々抜け落ちちゃったりしてる人たちがいる。)


でも…と、彼は続けた。


(僕だけはちゃんと覚えてられるようにしておいたから分かるよ。あのね…)


聞いた後、ちょっと驚いて固まっちゃったけど


(姉さん?大丈夫?)

(う、うん…でも…そんなことがあったんだ…)

(トバッチリを食らったって、お前のせいだっていって、あの人を苦しめた人たちもいたよ…でも、違うと思うんだ)

(うん…私もそう思う。きっとなにか、重大な何かが…)


生まれたら、そのひとを探そう。

私たちは固くそう決心した。


それから、多分数日たったある日。私たちが生まれるその日…何かがおきた。おこりはじめたと言っていいかもしれない。

お腹の外側がやけにざわついていて。少しばかりアビリティをつかって外の会話を聞いた。


『本当に…その値段で買ってくれるんですか?』


震えた、怯えたような声が聞こえた。この声には覚えがあった。ママのだ。


『ええ。悪くないでしょう?ただ私たちは女の子だけほしいの。幸い、あなたが身籠ってるのは双子なのでしょう?』


こっちの女性の声は高飛車で、なんだかイラッとくる。なんなのこの女?


『もう一人は…どうなってしまうのですか?』

『もう一人は男の子なんでしょ?いらないわ』


ちょっと待って。この女、いま私の可愛い可愛い弟をいらないって言った?よし、生まれた後みてなさいよぶっ飛ばす!


『いらないって…わ、わたしはどうすれば……』


おどおどするママの声。どうしたんだろう…この女にいじめられてるのかな?


『育てられないから代わりの親を探しているっていうから来たの。でも二人はいらないわよ。跡取りは一人だけでいいの。』

『で、でも…』

『なに?買い手が見つからないの?なら、堕ろせば?』

『え…?おろす…?』


あ、ママのキョトンとした顔が見えた。よしよし、アビリティの制御は今のところ順調ね…


それにしても、重たい現実の話ね…前の両親は貧乏でも生んでくれて、ちゃんと育ててくれたんだけど。

ママは追い詰められてる。何に追い詰められてるんだろう?できればママに起こってる色んな困った出来事から守ってあげたいけど…


『あらやだ。堕ろすって事もわからないの?高校生なのに…あのね、堕ろすってのは、中絶よ。』

『ちゅう…ぜつ…』


声が、唖然としてる…私もちょっとビックリした…ママはまだ高校生と呼ばれるもので、多分、顔が幼いから…子供で…やっぱり色々起こってて、追い詰められてて…それでも私たちをお腹の中にいさせてくれたのね。


でも、話を聞くに…彼女は、私たちを養えない。だから生まれる前に…養子として誰かにあげるか、売るかをしようとしてる。


心が痛むけど…それでママが平穏に暮らせるなら…それでいいと思った。でも、お願いだからその女の人だけには私を養子に出さないで。


あんな目が冷たい人……私の半身とも呼べる、血肉をわけた大切な弟を、私から引きはがそうとするような人の所には…行きたくないよ……


『あなた、バカじゃないの?もともと養えない、育てられないんだったら身籠るんじゃないわよ。じゃなきゃ早い段階でおろせばよかったのに』


おおう。責め立てるね。私のママはまだ子供なのに。あ…っママを泣かせたよ?こいつ…どこまで…


『…で、できなかった…んです…だいすきな…人の…ヒック…子供だったから…!』


そうか…パパのことが大好きで、その人の子供だったから…私たちをおろす事ができなかったんだね…


『フン…泣いちゃってまぁ…こんな結末になるくらいなら元からつくらなきゃよかったじゃないの。まったく…これだからガキは。後先考えないから軽はずみで命作るような行動しちゃうのよ。』


いや、そうだけど!言い方ってモンがあるでしょ?!あーダメ。私、こういう人間だいっきらい。

幸い、弟はあっちで眠ってる。こういう人の部分は…見せたくない。

私が取る行動のキッカケとなった、こんな汚い人の一部…


みなくていい。


(ねえさん?どうしたの…?)


ママがあのあと、責め立てられて弟をおろす…というより、弟が生まれる直前に薬を撃って半死状態にさせて、私から遠く離れたところで殺されてしまう事を聞いた。


(なんでもないよ)


彼は知らなくていい。


(ほんとうに?なんだか…とても元気がないけど…)


弟はいつも私の支えで、癒しで…だから転生なんてものを何度くりかえしても耐えられた。

そんな彼を、おろせ?ハハッ…言ってくれるじゃない?


みすみす殺させはしないんだから。


(ねえさん…頼むから、下手な事しないでね?僕たちこの世界では平穏に暮らせるようにアビリティとか使わないようにしようね?)

(うんうん。わかってるってー)


うそついて、ごめんね。

コレから私がする出来事で、きっと平穏には暮らせないかもしれない…

キミが望む展開じゃなくなるかもしれない。


でも、私はキミが殺されていくのを黙ってみてる姉じゃないんだよ…


(でも、力があんまり制御できないんだよねー)


これは本当の事。


(当日なにかないように努力はするよ)

(そうしてね)

(うん!)


笑顔の下に、隠そう。キミから隠そう。

キミは知らなくっていい。こんな出来事なんて。

私だけが知ってればいいの。


そして…ママ。

あなたを恨んだりしないよ。憎んだりしないよ。なんとかするから。ママにも害がないようになんとかするから。


だから…そんなに自分を責めないで?

そんなに泣かないで…笑って…ただただ、あなたには笑っていてほしいの。


そんな状況でも、私たちを生む決意をしてくれた、あなたには幸せになってほしいの。


そしていつか出会えたら、その時が来たら迷わずあなたを抱きしめて、頭を撫でたい。


ねぇ…お願い。

こっちまで悲しくなるから…

なかないで。



*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*




(ねえさん、準備はいい?)

(いいよー)

(力、暴走させないでよ?)

(アイアイサー!)

(なんか嘘くさいな…)

(…信用されない姉の悲しさ…)


むむむ。やっぱり弟は勘がよくって鋭い。でもこれだけはどうしてもやらなきゃいけない。


赦して…なんて言わない。

でも


(ダイジョブだってば。今日は私たちが生まれる日だよ?)


キミにも、私は笑っていてほしいんだ


(がんばるから)

(うん。ぼくも…頑張るよ)


その日…私が最初に生まれて、次に弟が生まれた。私たちは手を繋ぎながら生まれた。


それを見て息をのむ医者、手が止まる看護師…驚いて、それでも生まれたての私たちを見て、少し笑ったママ。

ペチペチと彼女の頬を撫でたら…さらに周りはざわついた。


ママはとうとう泣き出してしまった


「ごめんね、ごめんね…」


ママは力なく私たちを抱き寄せて、泣いた。彼女の温もり。それはとても暖かくて、優しげだった。涙さえも…

その様子を見て、周りの医者と看護婦が何かを諦めた気配。


諦めてくれるなら、それにこしたことはないって思ってたけど…そうもいかないのが人生って言うやつで。


「なにしてるの。」


バッと私から…私とママから弟を引きはがした


「やめてください!そっちの子は…私がなんとかして育てますから!だからどうか!」


ママが泣き叫ぶ。


(なに?なんなの??どうして僕だけこっちなの?ねえさんとママの所になんで置いておいてくれないの?)


「交渉しちゃったの。お金ももらっちゃったし…諦めて。それに感謝してほしいわ。子供なんて今のあなたが育てても子供の方がかわいそうになるだけ。今のうちに」


(だまれ)


もう、我慢できなかった。


力を解放し、その周りにぶつけた。とくに…弟を持っていこうとした看護婦に。するとその看護婦は…灰になっちゃった☆彡


(ねえさん、あれほど使うなって…)

(ごめん…でも…でも…っ)


周りはザワザワしていて。呪われているとか、なんだかんだ言われた。ママはそんな私たちを庇うようにして抱き上げてくれた。


「ごめんね…私がもっと大人で、もっと強かったら…こんなこと、起きなかったかもしれないのに…ごめん、ごめんね…」


私と弟は、ママのほっぺをペタペタ触る事しかできなかったっけ。

それから三日くらいたって、ママは私たちに名前をくれた。


「女の子のほうは…誰からも愛されて、そして愛してほしいから…めぐ。男の子は…優しく、強くあってほしいから…ゆう


それから、少しお話ししてくれた。彼女の事、パパのこと。ママの家族の事…


彼女ではやっぱり私たちを育てられないから、施設にのこさなければいけない事。でも、あと数年したらかならず迎えに来てくれることを約束してくれた。


それなのに、迎えに来たのはあの、高飛車な女で。

嫌だ、ママを出せ。そう言い続けても、ママが売ったとか、もういないから迎えにきたとか言いやがって…


私は彼女にたてついて、続けて…そうして、もうウザいから優と一緒じゃなきゃ、どこにもいかないと言ったら…テストをして、満点をとったら優も引き取ると言い出した。


あー、そんな気はなかったけど、どうしようこの状況。

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