第7話 失踪と謎のメールと新たな転生者…?
朝、起きるのは昔から得意だった。
最初の頃はあんまり起きられなかったけど…同じく朝にとことん弱く、少しだらしない幼馴染をしっかりと叩き起こすために、得意になった。
「今日は…ちゃんと起きれているのかな…
当たり障りのないメールを打って、起きてるか確認する。それがもう、今世の僕の日課になっている。
あの時の幼馴染は、幾度も生まれ変わって幾度も自分が見つけ出してきたけれど
「遅刻癖だけは、直らないんだよなぁ」
この世界の彼女も遅刻は毎日のようにしてしまう。
思わずクスリと笑う。
この
今まで彼女は色んな姿をしてきたけれど。根本的な部分はまったくといっていいほど変わってなくて。しかも今回は姿かたちが一番最初の世界での、彼女の最初の姿だったのでビックリしてしまった。
胸の十字架も相変わらず…
「そうか……」
そこで、僕は重大な事に気が付いた
「大神官さまは“
彼女の名前が千の年と書いて『ちとせ』と読むのも、偶然などではなく、世界が“緊急事態”に陥っているからなのでは?
そしてこの千年の間、ちとせが…ルミが、なしえる事ができなかった事…それを果たす運命にあるから、その名前を世界が与えたのかもしれない…
「と言っても、もう
そもそもの話、転生を繰り返してすべて覚えていられるハズがないのだ。
転生を何度も繰り返すことは別に罪ではないが、それが世界を転々と渉り歩き、アビリティを習得しそのまま全く別の世界へ生まれ、さらに記憶と経験と技を受け継ぐなんて…
狂気の沙汰だ。
世界を『あいつ』から救うったって、やりすぎだ。
「やっぱり、魂自体にダメージがくるんだろうな…」
そのせいで
少し、壊れかけてきた仲間もいたっけ…前の世界はそりゃあもう、酷かったし。
そう考えていたら
「『今日、少し遅れます』か。フフ…やっぱりキミはキミだね…」
さすがボクがこの
「ちとせ…」
でも、この
「すきだよ…ちとせ」
そんな資格なんてないから。
「君をあの時見捨てたボクに…言う資格なんて、ないんだ」
これっぽっちもないんだ。
だから、この気持ちもこの言葉も君には絶対言わない。
…言えない。
「全世界すべてを支配しようとしているアイツを…食い止めるまで」
その時は多分、近い…
「
それでも、彼女もこの計画の一部には変わりない。迷ってる暇はもう…ない。
「今日、彼女を呼び出して、それから…」
僕は、ギュッと目を瞑った。疲れているのはわかっていた。昨日もアエノシロで“あいつら”と話をして…
レベル上げを適当に済ませて、
「ハァ…“できるか?”じゃなく、“やるしかない”んだ。迷うな…やらなければ…彼女自身のためにも…」
僕は覚悟をより一層強固にした。彼女を前にするといつも甘くなってしまうけれど、今回ばかりは針を千本投げるつもりで…
「い、いや…千本じゃさすがに…じゅ、十本くらいで…」
ああ、決心はまだついてないみたいだ。
「最悪だ…」
窓をとおして外を見た。今日も相変わらずの雨だった…
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
『や!』
「白影くん…?」
仕事のいく途中で出会ったのは、三年前くらいから出会って意気投合した、化け猫となった元ネコで。
元、異世界“オルソネア”からの転生者で僕たちの仲間だった双子の片割れ、『白影』くん。
幻影一族で、首都の王族だった彼らの魔力とアビリティ『幻影』はとても強力で、なんども命を助けてもらったことがある。
僕らは度々違う世界で出会う事はあったけど…
「まだお兄さんは
『残念にゃがらね』
「そっか…」
ネコの姿だった彼は、変化をして青年の姿となった。見た目は自由に変えられるらしい。髪の毛が真っ白なのはやっぱり白猫だった由縁かな。そして瞳は変わらずのパープルアイズ。
片手に持つのはキセル。江戸の粋を感じる至福の一服、六角和幸 6寸で素材真鍮ホワイトニッケル仕上げ、羅宇竹、塗りこげ茶。
長さ、六寸から六寸五分(約20cm)。座りが良くて倒れない六角モデル。
へぇ。結構いいもの持ってるなぁ。
「今日は二十歳な気分なのかい?」
『まぁね。この姿じゃにゃきゃ、キセル使ってもむせちゃうし』
そう言いながら着物姿に優雅にキセルをくわえて、フーと煙を吐き出す。うん、すっごく様になってて格好いいよ。
「吸いたい気分だったんだ?」
『うん…まぁね』
雨はまだ降っていて、僕は持っていた折り畳み傘を彼へと差し出した。濡れたい気分なのだろうけど、そのままじゃ風邪ひくし。
「どこか話せる場所へ行こうか」
そう言えば彼は少し驚いてから…困ったように笑った。
『にゃんであんたには見透かされちゃうんだろう?』
兄さんには気づかれないのになぁ…と、寂しそうに彼は呟いて。傘を差して、キセルを仕舞った。
『喫茶店って、喫煙席あるかにゃ?』
「あるよ」
彼はいつもなにか、がまんする癖がある。その我慢の容量が半端ない。そして限界を超える前にいつも僕のところへくる。一見すればなんともないようだけど…じつは爆発寸前なのだ。
だから、こういう時。
僕は真っ先に彼の話し相手になるようにしてる。三回目の世界で一度爆発してしまって、酷い目にあったから。
それに…彼は、兄と正反対らしくってルミになんの恨みも憎しみも感じてない。むしろ感謝さえしてるらしい。
だけど兄に何も言えず。自分の事は何も言わずに、ずっと傍で見守ってきたのだ。兄思いの良い弟だ。
それなのに自分の事ばかりの黒影は、少しだけでもいいから白影を見る事をいい加減覚えてほしい。
無理か…彼は今、復讐者と化しているのだから。
それにしても…その復讐の相手が違うのではないのかとも思うけど、しょうがないって思う気持ちもある。
なんにせよ、これはルミ…
さてと。会社にメールを送って、今日はお休みにしてあげよう。白影を見るに…事態は深刻みたいだから。
今日…帰れないような気がするなぁ…ハハ……
あ…
今日こそって、決心してたのに。
まぁいっか。明日にすれば。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
「え、社長が行方不明?」
三日連続で会社自体が休んだ上に、社長が失踪した。今までこんな事は起こったことがなかったし、聞いたことさえない。
元々彼はあんな顔してるからナメられたりすることがあるけど、性格は生真面目で何の連絡もよこさず会社を休んで、しかも誰にも告げずに姿を消すなんてことありえない。
おかしい。何かが起きている。
彼の身に何かが起きたのだということはみんな、気がついていた。一応、警察がきて色々しらべていたけれど。
どうも腑に落ちない。何かを見逃しているというか、何かがおかしいのは感じ取れるんだけれど…
何がおかしいかまでは、わからない…なんだろうこの、胸に何かつっかえるような気持ちの悪い感覚は?
そう考えているとポケットの中のモノが震えた。携帯だ。
と、言うことはあの双子が何か知らせてきたのか…とにかく何なんだろうと携帯を取り出しながら、中庭へと移動した。
ちょうどお昼休みでよかった。
「?」
だけど、携帯の画面に映し出されたのは、身元不明のメール。
本当は開きたくもなかったけれど、事態が事態だし、もしかしたらひょっとして双子たちのなんらかのイタズラかメッセージ、それか…社長が何かを知らせてきたか…
とにもかくにも、私はその怪しいメールを開いた。
CC:??????
Re:
???
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なんじゃこりゃ
文字化けしてるじゃないか。これじゃ読めないし。
「イタズラだったかぁ…」
よかったような、よくなかったような…
ああ、そうだ。まだ時間あるから双子の様子でも…
そう思いながら携帯を再び開こうとした私の横を…何かが掠った。驚いてそっちを見るその前に魔力を感じ取った。
「…結界?」
恐ろしいスピードで広がっていくソレには見覚えがある。
「オルソネアのアビリティだ…たしか、神官しか会得できなかった高等術…じゃなかったっけ?」
近くに神官だった転生者がいるってことか。しかもこの結界…転生者たちしか動けない亜空間になってる。
襲われてる…?でも、誰に……?
「この平和な世界にまさか敵がいるとでも…?」
そんな。
認めたくはない。でも、平和だから死者や怪我人、建物を崩壊させないために転生者は結界を貼ったんじゃないのだろうか?
そしてこの範囲。
やっぱり誰かが誰かと戦っているとしか考えられない。
信じたくはない。けど…無視もできない。
しかたがない。
「行くしかないよね」
足取りは重い。けれど。もし、本当に神官なのなら…どうして私が、私達が違う世界に転生してきてしまったのか、わかるかもしれない。
神官は神に使える使者だ。お告げを聞いたり、旅人についていってサポートしてくれるありがたい存在だった。
そんな神官までもが転生してきているのだったら。
この世界…いや、多分もっと規模がでかい何かが…起こってる。いけば何か手がかりがつかめるかもしれない。
「いこうか…」
胸の銀の十字架をぎゅっと握ってから祈った。どうか、私が行くまで持ちこたえて。そして…どうか、この悪い予感。
双子が何かと戦っているかもしれないという予感が外れてくれますように…
「アビリティ…発動!」
瞬発力、スピード強化!
さぁ、後は走るだけだ。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
「ハァ…ハァ…油断しちゃったな」
「めぐ!」
心配そうに語りかけてくる弟に、私は笑顔で答える。
「ゆう、手出しちゃ、メッ」
「でも…」
「ゆうは回復魔法得意でしょ。自分に使って」
「でもでも!」
「私にかけて爆発させたらいくら優でもぶっ飛ばすよ?」
「え、笑顔が怖いよ愛…」
私は自分に腕力、瞬発力、防御力をアップする魔法をかけた。もともと魔法に言霊は必勝で、呪文やその技の名前を叫んだり唱えたりすることで本領を発揮させるらしい。
つまり、自然の力を自分の力に変換するために言霊で縛って変換させて使うってことだね。それがどうも私達双子は下手くそで。
何度生まれ変わってもそれだけは上手くならなかった。それどころか魔力が増えていくと使うたびに何かしら反動が返ってきて、あるときは間違えて敵を回復させた途端に爆死させてしまった。
それでなんとなくわかった。
あ、私達変換の才能ねぇな。呪文必要ねぇなって。
代わりに縛られない自由な回復魔法とかサポート魔法とかできるようになっていった。ただし、それは自分たちに使えばの話。
回復魔法を他人に使って何も反動が起きなかったのなんて、チトセくらいだった。面白い人だと思った。だからついていくって、ゆうと一緒に決めたんだ。
だから、彼女を脅かす可能性があるものは排除するって決めた。きめたんだけど…
「めぐ、また来るよ!」
「りょーかい!」
さっきからやられっぱなしなんだよな~。
「あいつのアビリティ、なにかわかった優?」
「たぶん、あれって人じゃないよ愛」
「だよね…」
目の前の相手を睨むけど、その相手はまるで思考を持つことのない、破壊願望だけがある人形のよう。
ていうか、あれって人ならざるものじゃないかな。
「めぐ、あれってたしか魔導人形じゃない?魔力で動く傀儡人形」
「うん。たぶんね。しかも禍々しい…」
「て…ことは」
「うん。間違いないよ」
私たちが話している間、その人くらいのデカさの人形はボコボコって音を発して、姿を変えていく。ああ、人に成りすましてたのか。
どんどん見慣れた姿になっていく。その姿はおぞましく、口が裂けて歯が胸まである。涎が出て、目は赤くて三つ…角が二本生えて背中の背骨が変な方へ曲がったりしてる。
きっもちわる~い☆
「オルソネアにいるはずの魔王しか作れない『
それに…
「結界があるってことは、どっかに神官さんの転生者がいるってことだよね?」
「そうだよ。でも…姿が見えないって事は、結界だけはってどっかで隠れて様子を見てるんだよ」
「うわーなにそれ趣味わるぅ」
「だよねー。こんな、いたいけな少年少女をほったらかしでさ」
「私たちといい勝負だね」
「だね」
さてと。どうやって引きずり出そうか?
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