第6話 気づかれない願い


「おっきろー!!」

「遅刻するよー!」

「ぐふっ…!!」


目覚ましが鳴るその数分前に、二つの声を聴きながらうるさいと言おうとした瞬間、腹にダメージが入って気絶しそうになった。

何今の攻撃…殺意を感じたよ……?


「朝っぱらから…お前たちは何してくれて…」


さっきの衝撃で腹からくる痛みで身体を震わせながら、そう問えば二人は私の顔を覗き込みながら笑った。


「仕事、いくんでしょ?」

「遅刻したくないでしょ?」

「だからって…目覚まし鳴る前に起こすとか…しかも私、持病持ちで身体ちょっと弱いのに…見事な蹴りを腹に入れるってお前たちどういう神経して」


涙目になりながらそう言うと、私の言葉を遮って愛が意気揚々と語る


「仕事って、何のお仕事してるの?」

「やっぱパソコンぱちぱちやるの?」


双子の全く同じな顔と声と仕草に、若干引き気味で答えると


「ああ…まぁ…そだけど」

「へぇ!そうなんだ!」

「じゃあ今日いっしょに付いてい「待て待て!」…だめ?」

「ダメ!」

「「ええー…」」

「そんな顔してもダメなものはダメ!」


粘りつく双子を無理やり引きはがし、ふてくされた顔をされつつも朝ごはんを一緒に食べて、くれぐれも外に出るなよ、出たら晩御飯ぬき!と念を押してから家を出た。


何故あの双子が私の家にいるかだけど…


双子に助けられた後…二人には行く場所がないと知った。


「いやー…どうやらさ、生まれた時に愛ってば看護婦さんを灰にしちゃったらしくってさー」


どんな“うっかり”だソレ?!


「それを見た両親は危ないからって私たちをどこかの施設に預けてさ。この年になるまでそこで暮らしてたんだけど…両親が引き取りに来て」

「大事な跡取りだかなんだか言いながら英才教育?し始めてさ」


おいおい…どんな偉い方々の血を受け継いどるんだお前ら……


「「面倒くさくなったから皆が出かけた時に家を燃やして逃げてきた」」

「面倒くさいの領域じゃねぇえええ?!」


なんだそのスケールのデカさ?!事の重大さ?!てへへ☆って笑っていいレベルじゃねーんだよこのお気楽道楽家の双子さまがぁ!


「ハァ…それで、行く宛も行くところも住む場所もなかったからこの廃墟にいた…と?」

「そうだよー」

「でもいい加減、限界だと?」

「そうそう」

「で、助けた礼として私の家に住まわせろ…と?」

「「その通り~!」」


脅迫かよ…こんの…小悪魔たちめが


「はぁ…とんだ日常になったもんだな……」


つい最近のボッチがレベルアップしちゃったよ…村人Aポジの“普通のボッチ”から旅人ポジの“編入生ぼっち”へ進化をとげちゃったよっつーかゲーム脳な自分がそろそろやべーって思ってる。


「とにかく、今あいつらが何してるかを確認しよう…」


スマホを手にしてSNSを開いて…グループ名『家にいるやつら』…あったあった。えっとー更新履歴はないな。

今どんな風なのか聞いてみるか…


グループ名:家にいるやつら


千年

おい、ちゃんと家にいるかお前ら?


めぐ

ちゃんといるよー!


ゆう

いい子にして遊んでるよ。

なに、どうしたの?ちとせ


千年

いや、ちゃんと家にいるんならいい。


千年

そうそう、お昼は朝に作った味噌汁あっためて

冷蔵庫の中いれておいた漬物と

サラダと煮物あっためて食べな


めぐ

えー?ちとせはー?


ゆう

一緒に食べないの?ちとせ?


千年

会社あるからいけないの!

私はテキトーにこっちで食うから


千年

ああ、ジュース欲しかったら冷蔵庫あるから

なんかあったら連絡よこしなさいよ?


めぐ

はーい(^O^)/


ゆう

ハーイ(-ω-)/


「…本当に何もしてないだろうな?」


そこはかとなく不安だけがつのるけど…しかたがない。


「遠くに居ても連絡取り合えたりするのは、凄いよなーこの世界。」


あらためてスマホをマジマジと見つめる。


「前の世界じゃ、連絡方法は一般だと鳥に運ばせる文通で、特別とか至急とかだったら、魔法使わなきゃいけなかったし…遠距離型の繊細な魔法を扱える格上の魔法使いじゃなきゃ」


そこを考えると科学っていうのは、かなりありがたいんだな…魔法という願念は無いに等しいけども。


ん?じゃあ科学と魔法が混ざったらどうなるんだ??いや、それは考えちゃいけない事かもしれない。やめよう…

そんな戯言を繰り返してやっと会社へきました~。フイ~…


「あら。遅刻魔ちこくま常連じょうれんさんじゃないですか」


はい朝っぱらから嫌な奴とでくわしましたー!


「…灰三はいみ 弥奈やなさん…おはようございます…それから私の名前、みぎわ 千年ちとせですから。遅刻魔常連なんていう名前じゃないんで、ちゃんと名前で呼んでください」

「あら失礼。あまりにも現実離れした格好をしてらっしゃるので名前もそうだと思ってしまったの」


オホホホ…なんて言いながら三人くらい従えて扇パタパタしながら高笑いしてさっていった。


なんなんだいつもいつも。しかも扇を常備してるなんておかしすぎる。おほほなんて、いつの時代の人の笑い方だよ。しかも手下を従えるって…おいおいマジでダイジョウブかあの人たち…


「おかしな出来事に、いっつも巻き込まれるのはサガなのかねぇ」


言いながら無意識に十字架をいじくっていた。しばらくボ~っとしてハッとする。

いかんいかん。これから仕上げた書類を社長に持っていって…


「はぁ~…まぁた昨日の『アエノシロ』の失敗についてどやされるんだろうなぁ…」


仕事で失敗しても「そんなことより」とリアル無視してゲームの話に持って行っちゃう人だからねうちの社長。


ゲームで失敗したら仕事場で顔を合わせた瞬間呼び出されてすぐ説教&作戦会議と言う名の時間つぶしがやってきちゃうからね。

うまく理由つけて逃げないと、後々の仕事に支障するんだよ…


残業するハメになっちゃうんだよ…


「今日はどんな手でまこうか…」


なんでこんな事かんがえなきゃいけないんだろう?


「やっぱおかしいよな…このリアル…」


で、案の定、社長に捕まりました!まる。


「すみません、あの…今は書類の方に目を通していただ」

「そんなのどうでもいいじゃない。いい?アエノシロでのあのボスの戦いで最善策を見出すべきチャンスは今をおいてないんだ。我々のパーティには職業勇者こそないけど、かなり強くバランスもとれてると思っている。負けるハズなかったんだよあの戦いで!なのに…」

「社長…たかがゲームじゃないですか。もういいでしょ?私仕上げなきゃいけない書類が…」

「たかが…げーむ…だと?」


うわ!やっちまった!!社長にゲームを馬鹿にするような発言をすると、彼に異変が起こる。


目は普段、少し大きめの琥珀色なのに、怒ると赤く光るようになり…まるで天変地異を起こしかねないような気迫とオーラ。


外見はスラリとした長身で、髪はツーブロックの真っ黒い髪で、耳周りもスッキリのマッシュベースヘアー。ソフトにパーマをかけている。

彼に合った眼鏡をかけてて、これがまた優男にいきおいつけてるようなもので…


普段は明るく、物腰柔らかく、優しく、人を魅了にするドのつくお人よしが、怒るとこれまた別人のようになる。触らぬ神に祟りなしとはよく言ったものだよ…


「社長、すみませんいまのは…」


失言でしたと、そう言う前に社長はそっと、包むように優しく、しかし心配そうな声色で私の眼を見てこういった。


「…それが、キミの本音かい?」

「……え?」


怒られると身構えた私に降り注いだのは…疑問。


拒絶でもなく、怒りでもなく


謙遜してるでもなく、飽きれでもなく、ましてや差別でもない。


純粋な…疑問。


「そもそも、キミにあの記憶がないのがおかしいとは思ってたんだが…」


キラリと眼鏡が光る。その奥にある琥珀色の瞳がジッと私を見ている。


「あの記憶…って?」


そう聞くと、社長は少しだけ考えてから頭を振った。


「…まだ話すべき時じゃないんだろう…そうそう、それよりも、なんでアエノシロの君の職業が『罪人』になってるかがずっと疑問だったんだが」

「……それは」


私のいましめ。


「あれじゃ、いつまでたってもレベル上がらないし、呪文も覚えない。」


私の、罪の意識を反響はんきょうさせている

私の…魂の一部……だから


「覚えるのは一時的に腕力と瞬発力を上げる魔法とか、スピードを上げる魔法、体力を少し向上させるだけのちっぽけな魔法だ。戦闘でも日常の中に使うにしても…物足りないだろ?」


思わず、笑ってしまった。可笑しかったからとかじゃなくて…ただたんに、自分への呆れた空笑いだった。


「いいんです…それで。それが、ですから」

「そお?じゃあいいけども…」


ハァ…と疲れたように溜息をつくねぇ社長……


「その君の“罪の意識”さぁ…どうにかしないと、いつまでたっても君の“枷”になって、真実にいきつけないよ」

「え?」


そんな事をいきなり社長が言い出すものだから、驚いて振り向いてしまった。

社長の顔はなんとも言えないような悲しい、もどかしいとでもいうかのようにしかめられていて。


「“罪の意識”って必要だろうけど、時々いきすぎて人を盲目にしちゃうんだよなぁ…それでいっつも進化できずに立ち止まって、“罪の輪”をぐるぐる回って一人じゃ出られなくなるんだ」


それはまるで今の私そのもののようで。


「それってどういう…」


詳しく聞こうとしたけれど、社長はなんでもないかのようにまたニッコリとほほ笑んで。


「こっちの話!とにかく、君の今後の活躍に期待してるから!今日のクエスト報酬高いようだし、頑張ろう!」

「…あ、あいあいさー……」


そっと、ドアを閉める前に社長を見てみる。こっちに気が付いたようでニッコニコ無駄にイケメンオーラ放ちつつ、無邪気にかわいーく笑うのヤメロ……


あいかわらず、二十七歳には見えない童顔なんだから。


時々、社長のいう事がリアルの話なのか、ゲームの話なのか区別がつかなくなる時がある。もしかして混ぜてる…?


「なーんてね…」


あるわけがないよね。


パタン。と閉じられたその扉の奥でなにがあったかなんて、私は知る余地もなかった。社長がとても残念そうに溜息をついていたなんて。


悲しそうにポツリ呟いただなんて


「思い出してよ…いい加減……」


知ることなどできやしなかった。


「世界は、もう千年せんねん待ってくれやしないんだよ…」


ほら、もうすぐだ…


タイムリミットが…迫ってる。


「お願いだよルミ…思い出して……」

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