第5話 罪人

その近くに、あの黒猫はいた。


黒影こくえいにいさん』


そう言いながら傍に寄って来たのは…真っ白い猫。その瞳は黒影と同じくパープル色で。そしてそのしっぽは…黒影と同じく二つに分かれていた。


『なんだ。白影はくえい

『よかったの?見逃して』

『ああ…』


黒影はスッと、瓦礫がれきまみれの廃墟はいきょ跡地あとちにいる三人を見つめた。


『今はまだ泳がせておこう…時が来たら』


彼のパープルの瞳は細くなり…怪しく光る。


見定みさだめて……もしあいつが“覚醒”しようものなら…』

『しようものなら?』


スゥと、二匹とも猫の姿から人の姿へと変化した。


『跡形もなく“消す”』

『ワーオ』


ニャフフと笑う弟の白影とは裏腹に、兄の黒影の瞳はそれはそれは鋭く、睨みで人を殺せそうなほどで。


『殺気が凄いですよ~?兄さん♪』

『“覚醒”しなければ…このままあいつを見逃せる。』

『まったくもう。冷徹れいてつなんだか優しいんだか…』


そのまま二人は足を返して、その場を去っていく。白影はくえいはまったく、といったような溜息にも似た呆れ顔で、『でもまぁ…』と続けた。


『かつての仲間で、兄さんたちを裏切った人を見逃すところは、優しいかにゃぁ?』

『それを千年せんねんという長い月日がっても、うらんでいるような俺が…優しいわけがない…』

『そお?それは絶対にゃの?』

『絶対だ』

だんじて?』

『断じてだ。』

『ふーん…』


白影はくえいは後ろを軽く振り返った。そしてニンマリと猫顔で笑った。


『まぁ、せいぜい…“思い出す”ことのないよう願うよ…“罪人クリミナル”さん?』

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