第9話 ビーストテイマー参上!


どうやらこのクソババァ、大富豪の妻らしくて。子供がつくれない身体らしいので養子をお金で買ったらしいけど、あんな事件の後だったから事情聴取とかで手間取ったらしい。


ママは、どうやら目的が達成できなくて…私たちを諦めるしかなかったと聞かされた。そうか…そなんだ…


でも、いいかって思えた。あんな優しい人は、私たちと関わるより自分の人生を歩んだ方がいいと思ったし、どうやら優もそう思い始めてたようだった。


心配なのは、それを自分のせいだと責めて自分を傷つけないか。あの人って気弱なのに自分への攻撃は容赦しないから…


で、この状態だけど…まぁ、いいかな?大富豪ってことはあれでしょ?さぞかしでかい屋敷に住んでんでしょ?


何かやってもバレる可能性低いってことじゃんうへへへへ…


「よし、それホントだねおばさん?」

「おばさんじゃない。母さんと呼びなさい」


てめぇなんてクソババァで十分じゃボォゲ


「えー?もう母さん気取り?何この人はずかしープププー」

「思い込み激しい人は嫌われるよー?ぷぷぷー」

「あんたら本当に三歳…?」


で、今テストとやらを目の前に置かれました。

二十枚くらいの紙の束が、テスト…?しかも


「これ、ホントに三歳児に出すテスト?」

「ええ」


うわー…このあくどい笑みの完璧さよ。なるほどねー?これ普通の子供じゃできないのね?まぁ、こんなのちゃっちゃとやっちゃうけどさ。


この世界の事、色々知っておきたかったから生まれてからアビリティ使いまくって(怪奇現象がおきまくって四苦八苦したけど)色々勉強したんだからね!


……で、張り切って書いてそのテストを渡したら、ページをめくるたびに女の顔がみるみるうちに青くなっていった。


なんかまずい事…したかな?


そう思っていると、天才だとかなんとか言われた。んん?どゆこと?


「大学レベルのテストを満点、ね…いいわ。」


晴れてその人の養子になったはいいけど、毎日毎日キツイ英才教育はさせられるわ、優には厳しく罰するわ、私と優をしょっちゅう引き離すわ…

挙句の果てに優をアメリカの知人にまかせるだって???


よし。


この豪邸もやそう☆


「めぐ何やってるの?!」

「あちゃちゃーやっちまったい☆」

「てへぺろ☆しても説得力ないよ?!ワザとでしょ?!ていうか逃げよう!!」


ガシ!と掴まれた手。

暖かい、優の手。


もうずっと触れてなかった、温かい私の弟の手…

生まれた時の事を想い出す。あの日も優の手はどんなものより暖かくて、優しくて、安心できた。

今もそうだ。私は優が隣でいてくれるだけで力が沸いてくるんだ。


なんでもできる気がしてくる。


だから…だから…


私から優をとるなんて許さないんだから。


私から大切なものを取り上げるなんて絶対にさせないんだから。


今までの事を想い返した後、私は息を整えた。口の隅についた血を手の甲でぬぐって、目の前の敵を…


「ネガティブ・マペット。私の弟をそろそろ離さないと…怒るよ…」


思いっきり睨みつけながら。アビリティを使った。

呪文なしで、腕と足の周りに光のわっかを出現させた。それからグワッて自分の小周りに広がらせる。光の輪っかがグルグル回ってる、成功したみたいでよかった。


全部の能力値を最大限にまで上げるアビリティ。

アビリティさえも攻撃と出すスピードを上げるアビリティ。

つまり、アビリティさえ向上させるアビリティってこと!


さすがの私や優も、こんな大技使いこなせなかったけど、この世界で何とかできるようにはなったのかな?

でも、加減がムズイ…もともと戦闘には不向きなんだよなー私たちヒーラーは…


「ちとせさえ、ココに居てくれたら…」


きっと、ちとせなら、私たちの技に耐えることができるから…

一緒にカイブツ倒せたかもしれない。けど…残念。ちとせは仕事。私たちは結界内。電波はたしか、遮断される…


「携帯つながらない。思った通りかー」


そして、よそ見をして。気が付く頃には


『ガァア!!』

「もう一匹いた?!」


手遅れだった。


「しまっ…」


大きな黒い手。その黒い手がスローのようにせまってくる。私は動こうとするのに体が思うように動いてくれなかった。

ああ、そうだった…このアビリティをヒーラーが見に纏っちゃダメだったんだ…ヒーラーが自分にかけたら…身体…動かなくなる──…


もうダメかぁ…


きっとこれは


「めぐーー!!」


私への罰なんだろうなー


「誰かおねえちゃんを…!!」


優…ごめんね…さきにいってしまうけど…そんな姉を赦してね…


…元気でね


「おねえちゃんを助けて!!」




「───…やれやれ」


そんな、静かな…それでいて響くような声が聞こえた


「最強の狂戦士バーサーカーヒーラーも…時がたてば案外大人しくなるんだね?」


ドン!という、その人形に何かどでかいモノが当たった音がした。見れば、それは二メートルのクマで。

唖然としているとそのクマの背中からヒョッコリ人が現れた。


「や!久しぶり~。はじめと、五つ目の世界以来じゃない?」


そう言いながら手を挙げて微笑む男を見て、あれ?どっかで…と考えた。はじめと五つ目の世界ってことは…こいつも転生者で、私たちのパーティの一員だったっていうことだよね?


でも、こんな人いたっけか?


「忘れてしまったか…いいよいいよ。説明は後で。おっと?どうやら客人だ」


彼がそう言って後ろを向いている。ああ、本当だ


「ちとせ」

「愛!」


走って抱き着いてきた


「おいコラ。傷に響くでしょおばさん」


軽くチョップした。でも、それでも強く抱きしめて離さない彼女の背中をそっとさすった。


「ね、ちとせ」

「…」

「ゆうがね、捕まっちゃったんだ」

「…」

「助けるの、手伝ってくれないかな?」

「…」


ちとせは、何も言わなかったけど。私をそっと放して…立ち上がった。


「あのフザケタ化けもんをぶっ飛ばせばいいんだね?」

「うん、まぁその通りではあるけど」


あの優しそうな男の人が困り顔で笑いながら説明をしようとして、チトセと眼を合わせた瞬間、カッとチトセの眼が見開いた。


「社長?!?」

「うん」

「なんでここに…え、もしかして社長も?!?!」

「まぁ、積もる話は後にして…」


社長と呼ばれた人は、両腕を広げた。すると、クマが傍に寄って、どこから来たのか分からない動物たちがわんさか彼の傍に寄った。


え、この力ってもしかして?だとすると、この人はあの、初めの世界の…あの人の幼馴染?!


「社長…その力って?!」

「ああ、まだ言ってなかったっけ」


その人はとても可愛らしく、優しく包むように笑った。


「僕のアビリティは魔獣使ビーストテイマーいだよ」

「異議あり!」

「同じく!!」

「え、何二人とも…」

「社長、ビーストテイマーは動物使いじゃない気が。魔獣を味方にするんであって、動物ではないと思うんですけど」

「ちとせの言う通りだよ!お兄さんのはただの動物だよー魔獣みたく技持ってないし、魔力持ってないし…」


で、私とちとせは口に手を置いて。眉を八の字にしながら社長さんを見つめて。


「「プププー」」


って笑ってやったえっへん。でも、社長さんは呆れる事はしても、怒ることはしなかった。あれれ。普通ならここで怒られるんだけど。おもしろくないなー


「相変わらず、君たち二人は気が合うなぁ」

「バカにされたようで社長さんの笑顔がムカつく」

「なんで?!」


まぁ、そんな事は置いといて。と言いつつ社長さんが説明を始めた。


「十個目くらいの世界で、アビリティが進化したんだよ。よって僕は『ビーストテイマー』であり、『獣使い』でもあるんだ」

「へー…あ、社長さん、ついでに教えてよ。さっき言ってた最強の狂戦士バーサーカーヒーラーって?」

「君たちの事だけど…あれ、なに…忘れてるの?」

「うん。なんかねーそういうのは、ゆうが全部おぼえてるらしいの」

「ああ、あの子。そっか。あのアビリティがあったねそういえば」


その口調からして、彼も色々と知ってるらしい。


「むー…なんか私だけ知らないこといっぱいでヤダなー」

「いやいやいや。愛はまだいいほうだよ。私のほうがけっこう覚えてないし、思い出したら気分悪くなるし…」

「わーそれって記憶が暗いってこと?ね、そうなのちとせ??なにかすんごく嫌な思い出なの??」

「う…それに関してはあまり聞かな」

「ねーねーちとせーきかせてよー」

「あんた…いい性格してるよホント」

「えへへへ」








「………そろそろ、僕を助ける事を思い出してほしいかなー…なーんて呟いてみたりして…」



そう遠くで呟かれて


「しまったすっかり忘れてたっ!!」

「実の弟のこと忘れてた?!」

「ふふ…千年、人の事言えないよ?」

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