第16話 力は進化する
「社長!右上きますよ!!」
「わかった!」
「今度は左下です!右は私に任せてください!」
「了解!」
千年と社長は掛け合いを行いながら、ツーマンセルで敵と立ち向かっていた。補助として幸来が離れたところから皆の防御や攻撃力を上げたり、敵の攻撃をバリアーで防いだり、敵を鈍化させたりしている。
「真上!!でっかい奴くるっすよ!」
「「了解!!」」
千年と社長が、真上に召喚されたであろう、化け物に向かって飛び出す。そこからまた勢いをつけて飛び出たのが千年で。その勢いのまま敵へと突っ込んでいった。
「とりゃあ!」
千年が勢いよく大剣を振りかざすが、跳ね返される。それを見てただちにアビリティを発動したのは社長だった。
「『
社長が茶色い魔方陣を出し、そこからでかく、不思議な模様が体中にある羊を召喚させて体当たりをかますが、効かなかった
「アイギパーンを召喚しても効かないか…」
あれは防御壁を周りに張り巡らせているな。そう分析した社長の行動は早かった。
防御壁があるならばと、彼は緑色と茶色の魔方陣を出現させ、合わせる。
「アビリティ発動!!」
風がその魔方陣に吸い込まれる。光もまるでブラックホールにでも吸い込まれるかの如く、その魔方陣に吸い寄せられる。
召喚されていた巨大な羊───神の一柱である、アイギパーン───が遠吠えを発した
「『
アビリティの発動とともに、彼の瞳が赤く染まっていく。そして羊の身体に巻き付いていた模様と、蹄とフワモコの毛が、ブーツと手袋のように社長の腕と足へと装着され、頭の上には羊をかたどったベレー帽。ちゃんと羊の雄についているクルリと渦巻く角がベレー帽についている。
「バージョン、アイギパーン!!」
言いながら、グッと足に力を入れて、彼はジャンプした。その威力がハンパない。みるみると空高く飛び、そしてそこから転じてキックのモーションへと移行した。
キン!という金属音が響く。そのあとすぐに聞こえてくるのは、追撃のキックとパンチの強力な連打の音。
「わ、れろぉぉぉおおおおお!!」
そしてついに、防御壁がパキパキと音を立てて崩れ去った。
「千年!」
そう社長が叫ぶと同時に、千年が社長の真後ろから飛び出す。
「食らえ!」
大剣に光が集中されていく。光がその剣を渦巻くように吸収されて。グングン大きくなっていく。飛び上がったまま、恐ろしいくらいの大きさになった光の大剣を、千年は躊躇なく敵へと振りかざした。
「ギガント・ルミエール!!」
光が、あまりの速さでまるで円を描くように振りかざされた剣に応じて、カイブツを内側から崩壊させていく。
『オォォオオオォォオオオオオ!!』
そんなうめき声が辺り一帯に響き渡り、やがて敵は粉々の光の粒になって、消えていった。そこへそのまま格好良く着地した千年の足元が、崩れる。
落ちる──そう思ったとたんにクンッと何かが千年の手を掴み、引き寄せた。引き寄せられた先は…社長の胸の中。
「あ、あの…社長……」
「…っ」
千年からは見えなかったが、社長は今、苦しそうな顔をしていた。もしかしたら、千年を失っていたかもしれなかったさっきのあの場面が、どうしても今まで体験してきた彼女を失う場面を、記憶の底から引き出して社長を恐怖と絶望に叩きつける。
わかっている。頭ではちゃんと理解しているのだ。
今までがダメでも、今回こそは守り抜くと。今までそうやって失敗してきたが、今世紀は今までの経験から、自分はずいぶんと動けるようになったのだから。
だから、大丈夫。
自分がしっかりしていれば…千年は…生きられる。
今までと、今世紀は何かが違うのだからと。
だがそれでも、やはり彼を蝕むのは千年もの長い間にわたって味わってきた喪失感と絶望と、破壊しれないくらいの悲しみ。
思わず彼女をギュッと強く抱きしめて離さなかったのを、千年の痛いです!という苦しい声でハッとし放した社長は、申し訳なさそうに謝罪する。
「ご、ごめんね千年。つい…」
「まったく。いま社長、アビリティつかってて力がつよい…って、あれ?そう言えば社長ってビーストテイマーなくせになんで合体しちゃってんですか?!」
「今更?」
苦笑しながら彼は説明した。彼曰く、アビリティはある程度世界を渉って育てれば強くなり強力なモノへとグレードアップしていくと。
「え、まさかそれって」
「そうだよ」
コクリと頷きながら彼は蹄の手袋みたいな手で後ろに迫っていた敵をクルリと身体を捻りながらパンチし、倒した。
「ある一定の条件が揃えば…僕たちのアビリティは」
今度は右からきていた敵を足で蹴って消滅させる
「進化する」
大勢の敵が一斉に攻撃するために二人に飛びかかったのを、怒涛の目まぐるしいほどの攻撃で倒してしまった社長を見て、ポツリと千年が呟いてしまった言葉。
「格好いい…」
まるで何かの舞台を見るかのような、そんな華麗な、精錬された動きに歓喜してしまった。残念ながら社長の耳にその嬉しい言葉は届かなかったが…
社長の真剣でいて、真っ直ぐな切れ長に見える赤い瞳も、とても綺麗で。すべてが終わったあと、ポカンと呆けている千年を見た社長が、クスリと笑った。
「千年、なに呆けてるんだい?」
ほら。と言いながら差し出してくるその手を、今度は自然にとった。そして社長が自分を片手で立ち上がらせたその、瞬間。
千年はまた、記憶の逆流の一部へと
意識が呑み込まれたのだった。
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