第15話 永遠の約束
あいつが言った。
転生させなければいけない別の理由があったと。
それを聞いた俺は千年…ルミエールへの恨みがなんだったのかを考えさせられた。
あの時の選択に腹を立てている?
救える者を見捨てて逃げ出したから?
魔王軍の罠に引っかかったからか?
どれも釈然としない。
『どれも違う気がする』
この千年もの気の長くなるような間…自分は何をやって来た?
なにを、やってこなかった?
自問自答のすえ、見つけた答えは
『ありゃしにゃい』
だから、俺はここに来た。いつの世も戦乱にて多くの者が何かに気づかされる。だが、多くのものも失う。俺たちは…一体何のために今まで戦ってきた?
何かに気づくためか?何かを失うためか?
一体今まで、なにと戦ってきた?
敵と?
運命と?
魔王とか?
やはりどれも違う気がする。
最終的には魔王と戦ってきたのだろうが、今の、今までの記憶からするに、すべてが魔王の仕業だったとも言い難い。
『ごちゃごちゃ考えてもなんの答えも見いだせにゃかった。だから俺はここにきたんにゃ』
スゥウと長くキセルを吸うと、今度はフゥゥウウウと長く煙を吐き出す。するとその煙が敵陣へと迫り、敵を縛る。
『どうせ嫁バカのことだ。力を使い過ぎたんだろう?デュー』
その彼の言葉にグッと何も言えない社長。
『じゃあいくよ兄さん!!』
キセルをクルクル回し、白影がニッと笑う。
『
キセルを杖のように振り回し、ピッと前に勢いよく繰り出すと、その正面に紫色の魔方陣が出現。そこから白い霧がサァァァアアアと吹きあられて、あっという間に氷柱ができあがり、敵めがけて刺さっていく。
「「バーサーカー・モード・
今度はもう片方の双子がそう叫びながら、敵陣に突っ込みながら、体術だけで敵を壊したり気絶させたりしている。
「おらおらおらおらぁぁぁああああ!」
「あはははは!さぁもっとこい!もっともっとだぁあああ!」
確実に狂戦士化している双子を見ながら、幸来は社長を見つめた。未だバリアーは解かずにいるのは万一の事を予想してるからだ。
「兄さん、落ち着いてきたっすか?」
ハァ…と疲れたようなため息をした社長が目元を抑えた。そしてまた目を開いたころには、真っ赤になっていた瞳が元の優しい琥珀色に戻っていた。
「ああ。すまない…取り乱したよ」
「まったくっすね~。これだから嫁バカは」
「…今は何も言わないよ」
「そうしてくださいっす。どうせロクな事言わないんだから」
ニヤリ笑いながら言う幸来。対する社長は苦笑。
「おいおい。そこまでいうか幸来?」
「そこまで言わせているのは誰っすかぁ?」
「悪かったよ」
「声が小さいっすよ~?」
意地悪気に、しかし強めに幸来がそう言うので、癪だったがハッキリと声を出したほうがいいと、もう一度社長は謝ることにした。
「悪かったよ。ごめん。」
「わかればいいんすよ。わかれば」
一体何様のつもりだと聞けば、帰ってくる返事は決まってこうだ。
「何様俺様幸来さまっす♪」
とても愉快そうにクシシと笑う。そしてその勢いのまま幸来は大声で言った
「聞け!世界を壊そうとする愚の骨頂!!われら集いし勇の者!!他が他のために成すべきことをし、世界に光をもたらすものなり!!」
いいつつ、バリアーを外し、敵陣へと突っ込んでいた左右の双子の援護呪文を素早く唱えてアビリティを発生させた。
「とにかく全略!お前を倒すんで首洗って待っていやがれ!!」
何とも素晴らしい快進撃は、はじまったばかりだ。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
やくそく、覚えてる?
(やくそく…)
あのね、ぼく…あの時の約束、はたしにきたんだけど…
(なに?)
千年は、今、夢を見ている。しかし今までの夢ではなく、すべて自分が忘れていた何か大事なことを、繰り返し、見ていた。
そういえば、いつも同じだった。やくそくを果たしに来たと言った少年がいた。約束してくれた少年がいた。
その少年はいつも、何時の世界も、彼女がどこに居てもかならず見つけ出して、思い出せもしない約束を守ろうと必死になっていた。
(だれだっけ…)
とても大切な誰かだったと思う。しかし、思い出せない。
(あの子は誰なの…)
千年は、目の前に繰り返される、その“約束”を口にする彼をじっと見つめた。
そして、今度は今世に移る。今世で仕事を失くし、途方に暮れて雨の中、フラフラ歩いていたら、誰かとぶつかってしまった。
「すみませ…」
「あ…っ」
相手は、ハッと何かに気が付いたみたいに、そう声を発して数秒した後
「どう、したの?」
とても心地の良い声で、優しい声色で…ずっと昔から知っているかのような気がして。いてもたってもいられずに、そっとその人の顔を見上げた。
それが社長だった。
こちらがどんな屈辱で、惨めで絶望してても、彼はニコニコと嬉しそうに笑いかけながら、色々話して
「約束は、覚えてない…よね?」
「やくそ、く?」
千年が聞き返すと、やはりと少し悲しそうに笑った。その彼の顔を見て、チクリと胸が痛んで。
彼にはそんな顔をしてほしくないと思ってしまった。
初めて会ったハズなのに、色々よくしてくれて、彼が運営する会社にまで入らせてくれた。
感謝している。とっても。
だが。
どうして彼と会った直後に、懐かしいと感じてしまったのかは未だにわからない。ただ、彼の笑顔を奪いたくないと、そう思った。それは今も変わらずに千年の中で息ずいている。
何故なのだろうとは思うけれど。
ただ、本能とでもいうべきか、彼には幸せになってほしい。そんな気持ちが沸々とわきあがってくる。
その気持ちは日に日に膨れ上がっていき、今では彼の傍にいるだけで切なくなるほどだ。それがいったい何を意味しているか、千年は気づきもしない。
ただ、知りたい。今まできっと一度もそう思ったことはなかったが、今回だけは何かが違う。千年は知りたがっている。
昔に起きた、全ての事を。
『ならばいっそ、知るが良い…』
そんな悲しそうな声がその空間に木霊した。
すると、千年の浮かぶ空間が一転する。後ろの方で泣き声が聞こえる。その声を辿ると、一人ぼっちでうずくまって泣いている子供がいた。何ら変わりのない普通の子だ。
しかし、彼は大人の手に引っ張られてどこかへと連れてかれた。
「さぁ、お前が役に立つ時が来た」
カタカタと震える幼い子供に、冷たく伝えるその大人の瞳は、えらく冷え切っていた。しばらく時間が早送りのように過ぎ去り、先ほどの子供が現れる。
その子供は酷く衰弱しており、祭壇のような場所に祀られているところをみるに、何かへのお供え物…つまり、子供は生贄にされてしまったらしい。
(なんて、ひどい…)
しかし、それは一昔前まではごくごく普通の出来事だった。人は人を道具として扱い、傷つけ、そして時には存在さえ消してしまう。
「しにたく…ないよぉ…」
その子供のか細く震える喉から出た、しぼりだしたような、消えかかった掠れた声。思わずグッとこみ上げる目元のなにかを、千年は制御し押し込んだ。
そして、じっと見つめているとある事に気が付いた。子供は死ぬ間際…自分さえ理解してなかった力。アビリティを発動させてしまった。それが『
それと同時刻、反対側で全く同じ子供が生贄にされてしまい、息絶える前に発動させたアビリティが『
相反する力かと思えばそうではない。それぞれの力は、まだ生きたかったという強い念から発動した、幼い力。ゆえに強力過ぎて世界の理を動かしたほど。
そして、二つの概念はいつしか惹かれ合い、融合しようとする。二人の子供が欲しかった唯一の願いは、『生きたかった』からだ。
そのアビリティは、強力すぎたがために、二人がこの世を去っても発動し続け、惹かれ合い、融合しようとする。そのたびにその力に人々は翻弄され、争いを繰り返してはまた平和を取り戻し…しかしまた争い…それをずっと繰り返してきた。
まるで呪いのように。
そこで疲れた世界は、大変な者たちを呼び起こすことになる。生贄で死んだ二人の子供を新たな生命に入れて、落とし前をつけさせようとした。
しかし、惹かれ合う一方で拒絶反応も起こす二人の魂は、恐ろしいほど真逆の立場のものに転生してしまう。
それが『魔王』で、もう一方が『勇者』だ。
彼らは戦い、悪と呼ばれる『魔王』が倒されるまで何度も世界は巻き戻しされ、魔王を倒しても世界は巻き戻され…
ある日、魔王側が有利になり続け、勇者側が負け続けて命を奪われ続けると言う、最悪な事態が百年続いた。
そこである天童が気が付いたのだ。世界が壊れかけていると。すべてを終わらすことのできるハズの希望のアビリティ、『プレイクスルー』が弱まっていることに気が付いたのだ。
天童は出来る範囲で探った。そしてとうとう原因を掴んだ。魔王が実は何度も殺され、そのたびに違う世界で生まれ、その世界の特殊なアビリティを覚え、アビリティを強化し、また死して元の世界へ戻り、力を蓄えていた事に気が付いた。
そして同時に、ある可能性にも気が付いていた
「魔王は、嫌気がさしているんだ。死んでも死んでも世界に舞い戻されるという、運命に。」
そしてそれは勇者も同じなのではないのか?と他の神官たちが言うが、青年は首を振った
「勇者は魔王と違って、前の記憶を持って生まれていません」
だから、二つの魂は極端に違うと断言できる。だから極端に相反する力同士で引き寄せ合いながらも、拒絶しあって、最後は自滅してしまうのだ。
自滅するのが両方だった。しかし、何をどうしてそうなったのかは、わからない。
が、魔王の力が…負の力が強まってきている。このままでは最悪な事態が起こる。
「復讐か…」
ポツリと、青年は言葉を零した。
すべての世界を終わらすための、いわばこれは…数千年前の復讐だ。その復讐と、悲しい因果を断ち切るためには
「世界を渉って、一つ一つ、魔王がもう同じ手を使えないように、魔王の印を消して回る必要がある…」
あの少年だ。あの約束の少年が、今は青年となって、神官たちを仕切っていた。
「しかし危険すぎます!ここに戻ってこれるか保証はない…それに、世界を渉るといっても並大抵のことでは…」
一人の若い神官が、青年へかけより、心配で顔をくしゃりと歪ませながら言ってくるのを、青年は彼の頭をそっと撫でて、微笑んだ。
「わかってる」
「仲間を連れていくと言うのは正気ですか?!彼らの人生を棒に振るかもしれないのですぞ?!」
年老いた白長の髭の神官が、彼に詰め寄る。
「承知の上だ」
「もしできたとしても、肝心の勇者が見つからなかったり、力を解放させられなかったりしたら、この世は終わりなのですぞ?!」
中年の少し太ったおじさんが、切羽詰まったように言う。
「覚悟してるさ…」
それでも、青年の覚悟は揺るがなかった。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
彼の目の前に、魔方陣で囲まれた部屋があった。すべて一つ一つ、仲間が横たわっている。そして、その真ん中にいるのは…
(私…?)
床に散らばる長いプラチナブロンドの髪の毛。組んだ手に置かれた十字架のネックレス。蝶があしらってある銀のティアラ。そして身を守るために用意された軽量の最低限の鎧。
その女の元に、そっと近づく青年
「ルミエール…」
(違う。あれは私じゃ…)
切なそうに呼ぶ声。悲しみに歪む顔。今まで靄がかかったような青年の顔が、やっと明るみに出た。
(しゃ、ちょう?)
「僕もすぐに、君の後を追うから…ずっとずっと、どこにいてもかならず見つけ出すから…そして僕が守って、そして救い出すから…」
永遠の約束だ。
「こんどこそ守ってみせるよ…」
(やくそく…)
魔方陣がいっきに輝きだす。
「○○様!!お近くにいては危険です!!」
若い神官が、彼を本当に心配しているのが見て取れる。そうか。彼はあの青年を慕っているのか。と千年はすぐわかった。
「最後まで、彼女といさせてよ…」
反対に、社長ソックリの青年は、切なそうにそう言うと、もう動かなくなって冷たくなり始めてしまった、彼女の身体をギュッと抱きしめて、愛おしそうに、プラチナブロンドの髪をサラリと撫でる。
「ルミエール。ルミ……」
泣きそうな、苦しそうな声。喉からやっと出たその言葉。
「ルミ…ぼく……」
最後に、彼は何かを呟いたが、アビリティの発動の余波でなにも聞こえなかった。そして…光が納まるころには、彼らの身体もなにもかも、その世界から消えていた。
(こんなことが…)
沈痛な面持ちでじっとしていた千年の空間が、また一変する。
今度は、あの泣いていた子供が目の前に現れた。
「どうして邪魔するの…」
「邪魔って…」
「俺はただ、こんなひどくて救いがない世界全部を、壊したいだけなのに」
その子供の身勝手さに、さすがの千年もカチン!ときた。
「そんなの、あなた一人の見解でしょ?!いうなればただの我が儘よ!」
千年のその言葉に、ピクリと反応した子供。
「わがまま…?」
ギロリと睨んできても、千年は怯まない。
「そう!だって、いつだってどこだって、誰かがあんたにそう言ったわけじゃないんでしょ?世界を壊したほうがいいとか、言ってないよね?」
「いう必要がない。わかる」
「それはあんたの思い込みでしょうが!誰かに聞いてもいないくせに、勝手に悪だと決めて、他の命を無視して…全力で消そうとするなんて」
ビッシと指さし、千年は声高らかに言った
「捻くれた
彼女のその言葉を、子供は静かに聞いていた。
「あんた何千年の記憶があってもなお、そんな捻くれた思考しかできないの?本物の
そこで、フゥ…と子供は溜息をついた。
「…そうか…やっぱり最後の世界でも君とは分かり合えないか…」
子供はどんどん大人へと変わり、そして人型から角が生えて、しっぽが生え、真っ黒い翼も生えた。
「ならばしかたがない…対等であり、対局の位置にいる我らの運命は、やはりどちらかの崩壊。」
ギロリと赤い眼玉が光る
「お前の死を持ってして、俺が正しいと証明させよう。」
「望むところだぁああ!」
「うわぁあ?!」
いきなり起き上がった千年を見て、心底ビックリした社長が大声出して腰を抜かしたのは言うまでもなかった。
「あー…ご、ごめんなさい社長」
「…いいよ。千年が無事なら」
ニコリ笑う社長を目に、千年は息を深く吸って、そして吐いた。
「社長、私たちまだ勇者見つけてないですけど」
十字架を手に取り、大剣にした。
「私の記憶、少し戻って、そしたら魔王が出てきてちょっと話しました」
「え?!」
いきなりの千年のフェードアウト
「ケンカしました」
「ええ?!」
そして唐突の報告。これにはさすがの社長も目をまん丸くして驚いてしまった。それをプッと笑った千年。コホンと咳払いをして会話を戻す。
「でも、このままじゃダメだと思うんですよ。なんで…社長」
クルクルと剣を背中の上で回し、周りの敵を切り崩してブン投げる。
「仲直りしたいので、手伝ってください!」
あっけにとられて口をポカンとあけていた社長は、すぐ事の重大さがわかって、そして同時に、記憶が千年の中で少しでもよみがえったと知り、嬉しくなり。
「どうやら、他のみんなが忘れていたことも思い出したみたいだね」
「全部じゃないんですけどね」
「ううん。十分だ」
スッと千年の背中へと移動し、トンと背中合わせになった
「背中は任せて大いに暴れていいよ千年!!」
「了解!!」
敵に囲まれているのに、二人は余裕の笑みをしていた
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