第19話 会議
ガラリと家の入り口を空けて入る。そして居間へと足を運んでみたら、ぞろぞろといるわ、いる。誰がって?勇者がいないけど勇者パーティの方々ですよ。
「遅いっすよちーさん」
「ちーさん?!」
「あだ名っすよ。千年なんて、なんて紛らわしい字使ってんすか。面倒なんすよ。いちいち呼んでられるかこんなもん(“゚д゚)、ペッ」
「ヒドッ!!」
「それよりちーさん、なんでこんなに遅くなったんすか?もう二時間も待ってたんすけど」
「ああゴメン。もうそんなにたってたんだね。えっと、ちょっと…ん?」
そこではじめて気が付いた。見た事ある人達と見たことのない人たちの間に、どこはかとなく見知った、ていうか物凄く知っている人が混じってる。
「母さん何してんのそこで」
「あら、今気が付いたのちーちゃん?」
「ちーちゃん呼ぶな!そうだよ今気が付いたの。なんで母さん、どこはかとなく男二人に囲まれてんのさ」
そう聞くと、母さんは頬に手を寄せてうふふと笑いながら頬を染めた。
「好みで思わず座っちゃった♡」
「うぜぇ…乙女モード全開やめてくれる?」
あんたたしか、バツいちだよね?意図したことじゃないけどさ…一応母として振る舞ってほしいっつーかなんつーか。
「あら。母として以前に、私は一人の女よ。」
サラッと人の心の中読んだよこの人。電波だよ
「女って。まぁ、そりゃそーだけど」
「女はいつだって女なの。女としてのプライドも持たなくちゃダメっていつも言ってるでしょう?ちーちゃん」
「知ってる。けどさ…」
母さんは私をジッと見つめた。床ギリギリまで長い綺麗なまっすぐな黒髪をゆるりと髪留を上手く使って結んでいて、化粧は薄いのも合わさってか、はたまた若作りしないままでもいいのかわからないけど母はとっても美人だ。
いや、自慢とかじゃなくって。マジで。今の着物姿だってめっちゃ似合ってて綺麗。
私は着ても絶対似あわないから、家の家訓そっちのけだけど。
いや、憧れはあるよ?着たいよ?母さん見てたらちょっと着てみたいなー…とかは思うよ?でもなー抵抗あるんだよなー。
私のこの容姿じゃあね…
「まったく。あの時の事、まだトラウマ?」
そっと近づいて優しく私の頬に手を寄せながら、困ったように笑う。この人は私のトラウマになった一例の事件を知ってる。
そりゃなるよ。普通はなるでしょ。女だったら皆わかるんじゃないかな。
「そりゃね?ちーちゃんがはじめて一人暮らしするからって、心配になってついてきたら、あんなことになってて母さんびっくりしちゃったけど」
「母さん!」
よりにもよって皆の前で!!
「あら。ゴメンなさい。」
まったく悪気のない笑顔で謝られても、いっさい伝わってこない。おほほなんて笑ってるし!
そりゃあの時、母さんが入って思いっきり男の頭を裏拳でぶん殴ってなきゃ、どうなってたかわからないけど。
私はむしろ、その後の母さんが仕掛けたその男への逆襲がトラウマなんですが…
「ねぇねぇ、知ってる?」
「みんな、知ってる?」
わくわくした感じで愛と優が身を乗り出しながら、皆の注目を集めた
「「ちとせのお母さん、四十三歳なんだよ!!」」
「「「はぁああああ?!?」」」
みんなの反応は…わかる。うん。娘の私もそうなるよ。
「え、ちょっ、ええ?」
茶飲が慌てながら、そして何かを考えて、また驚いている。
「四十三ってことは、先輩を生んだの十七歳ってことで…?え、ていうかそれ以前に」
みんながバッて一斉に立ち上がった。
「「「どうみても三十代前半にしか見えない!!!」」」
「あら。ありがとう」
皆の反応を楽しみながら、そして今のを褒め言葉として受け取る己の母の強さよ…はぁ。
そう。私の母はいわゆる童顔って奴で。
なんで私の周りって童顔多いのよって嫌気がさす。
「まぁ、今はちーちゃんの過去の事は一時、置いておきましょうか。あなたたちが話していたことが本当なら、私に心当たりがあるの」
「は?」
私は思わずそう言いながら、そこに居た全員を一睨みした。縮こまったって許してやらないからな
「お前らなに?人様の母の前で話したの??何を話した?吐け全部ゲロリと吐け」
「い、いやぁ…ちょっと今までのおさらいを、参加できなかったこいつらにも話そうと思って言いあってたら、いつの間にかちーさんのお母様がいたっていう。」
「最初、信じられなかったのだけど、園美さんがアビリティ見せてくださって信じたわ」
「原因はてめーか」
「あいだ?!」
人が
「何も拳骨で殴らなくったっていいじゃないっすか!」
「…それだけで済んだことを感謝してほしいくらいだよ」
ったくもう。
「で、こっち側の…えと、集まった人たちの自己紹介そろそろやってほしいんだけど」
いい加減に無視をやめてあげないと可哀そうだし。
チラリ見れば何だか落ち込み具合の男性と苦笑している男性が。
「ああ、こいつらっすか」
幸来がちらりと二人を見つめる。そしてとても良い笑顔で言い放った。
「こいつらあの時の戦いを放棄した奴らっすから無視し続けてくださいっす」
「「ええ?!」」
「へぇ?あの大変な戦いを放棄したのかそうかじゃあしかたないね!」
「いや、放棄したのは事実だが!」
「理由さえ聞いてくれないの?!」
「うん」
「「もの凄い笑顔?!?」」
勘弁してください。聞いてくださいお願いしますって、二人が焦ってそう言ってくるけど聞く耳持たないね。
「ふーん。聞いてほしいんだ?魔王の力を一部封印してた社長を浚われたあの大変な戦いを放棄したくせに、聞いてほしいんだ?」
その私の言葉に、うっと唸り声をあげる二人。
「まぁまぁ。いいじゃないの。お話くらい聞いてあげましょ。さ、二人ともどうしたのか言ってごらんなさいな」
でたよ母さんの悪い癖。
「あのね母さん…甘やかさないでよ」
そこに幸来が身を乗り出した
「そうっすよ!いくらちーさんママが優しいからって、そいつらにそこまでやる必要は」
「あらあら。優しいだなんてそんな。」
「え?」
あ、母さんがニヤニヤ笑ってる。知ってるよあの笑い方。
「だって二人とも私の好みのタイプにドハマりなんですもの♪ついつい手伝いたくなっちゃうわ♪」
「「「…」」」
あーやっちゃったよー…母さんの悪い癖。
好みのタイプの人や気に入った人には甘い。それ以外は塩対応。この人本当にもう!それを微塵も隠そうともしないのがまた…
思わず顔に手をパチンて置いてあちゃーと言ってしまった私は悪くないと思うんだ。あーホントにもうこの人は。
「空気読んでよ…」
毎度のことながら、この母は空気を読まない。
「え?なんのことかしら♪」
空気を読めないんじゃなくて、読まない。我が道を行く人だから。
「それより、私気になってる事があるのだけど」
ん?母さんがいきなりかわいーく首を傾げながら聞いてくる。
ヤメテ…様になってるから。可愛いから。皆が見惚れちゃうから。
「その社長さん、名前が社長さんなの?それともみんな知らないの?」
「「「…」」」
そう言えば、そうだ。ハタと気が付いた。なんで私らは社長のことを──
「それ、気が付いちゃうのって凄いっすよ…」
どことなく顔を青くした幸来が母さんに言った。そして、深呼吸をしてから語り始めた真実。神官だからこそ、兄から託された鍵の情報と、その解き方と封印の仕方。それは言わないけど説明はしてくれる。
「実を言えば、一番最初の世界で兄貴、自分の中に魔王の力を取り込んで、魔王を弱体化させてから倒そうとしたんすよ」
「ああ、そうだったんだ?魔王の力が封印されてるって聞かされたけども、そこまでは知らなかったな」
「まぁ、この部分はかなりあたしたちの中ではあやふやで、定かじゃないっすけど」
それにはちゃんとした理由がある事も聞いた。
「なんでもあたしら、あと一歩のところで瀕死になっちゃって。勇者なんて先に死んじゃってたらしいっすよ」
「え」
それって…勇者パーティが全滅したってこ、と?え?お伽話とかではかならず勝つ側が、倒されてたってどういう事なのソレ?!
「かろうじて生きてたのが兄貴と、そっちの双子の片割れ。優っす。まぁ、生きてても余命三週間ほどしかなかったって言ってたっすよ」
そんな。それじゃまるで…
「悪がはびこる世界と化してしまうかもしれなかった。だから、しかたがなかったと、兄貴は悔いながらもあたしらと、そして半殺しの魔王を強制転生させたって言ってたっす」
「は」
「え」
「な…っ」
皆が息をのんで、それからすぐに大きく息を吸った。
「「「なんだってぇえええ?!」」」
その皆の反応を見ながら、幸来はグッと拳をつくった。
「しかたがなかったんすよ。そうでもしなけりゃ、魔王の奴あの世界を中心に、今この世界まで侵略して破壊させてたかもしれなかった。あの時の兄貴の勇気ある決断は…まぁ、無謀百パーなんすが、あたしも、しかたがないなって思ってしまったっすね」
困り顔で幸来が笑った。
そう、だね。崩壊よりは、マシだよね…
「それで、兄貴の名前なんすが、兄貴が言うには力を封印したさいに、自分の“言霊”で、自分の力の源でもある“己の名前”をマナに変換して封印したから、何度生まれ変わってもあだ名や、組織名とかでしか認識されなくなるって言ってましたっすよ」
「え?」
ごめんね。真剣な話なんだろうけど言ってることがさっぱりだ。
「言霊って?マナに変換ってなに?」
そう聞くと、幸来が物凄く嫌そうな顔をした。
「だからこの説明役、やりたくなかったんすよ…面倒くさい」
「本音ちょっとは隠そうよ?」
拳をつくって前で止める。殴らないよ?ただイラついてるよ~という意思表示だから別に殴らないから決して
「いったぁ?!殴らないってさっき言ってたじゃないすか!ちーさん!!」
「言ってないぞ?」
お前もなに人の心読んでる?電波が。
「仮にそうだとしても、昔の事は忘れたね」
「いい性格してるっすね」
「幸来ほどじゃないけどね」
私たちは二人、睨みながらも笑った。
「「アハハハハ!」」
「こ、こわいよ。ユウ…」
「う、うん…こわいねメグ」
「なんでこの二人こんなに怖いの…?」
双子に続いて茶飲まで青い顔でカタカタ震えていた。そんな皆を見ながら微笑ましく笑ってたのは、母さんだけだったと加えておく。
「うふふ。仲良いわね二人とも」
「「「どこが?!」」」
私らそっちのけで、みんなが母さんに突っ込んだ瞬間だった。その時ちょっと笑ってしまったけど、そこは見逃してほしい。だってみんな面白い顔してたからさ…
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さて。いったん休憩をした後、幸来の半逆切れの説明と、優の丁寧な説明により、私はやっと社長のやったことがなんとなく理解できた。
はじめの世界では、『言霊』と『マナ』と呼ばれる法則があったのだと。言霊は言わずもがな『言の葉』つまり、言葉で形にすること。
自然にあふれる魔法の源である『マナ』を変換、自分の力へ変えてからはじめて、あつかえるようになるらしかった。それを『具現化』と呼ぶらしい。
へぇ。
あの世界でも魔法を使える者と、使えない者がいたと。
使える人は、変換だけではなく力の相性も問われるらしい。あと魔力とか、魔力の源のマナが身体にあるかないか。
だからここの世界でバカみたいにパカパカ魔法と魔法を混ぜて使うなんて絶対できなかったハズだったと。
そこが、世界の理から外れた私たちの違いで、特異体質…らしい。
「だからして、兄貴の名前が何故か皆に認識されないのに疑問を持つことすら珍しいんすよ。」
へぇ~。じゃあ母さんは特異体質?まぁ異常な人っちゃ異常だけど、いい意味での異常さだからなぁ。
「でも、そんなチートな俺たちがよくもまぁ、転生したこの世界で問題起こさなかったよね。色んな力があるってことはそれなりに問題にもなったり、世界の均衡が崩れたりするハズだけど」
「え、するの茶飲?」
「え、普通するんじゃないんですか?この前の世界じゃ、俺たちが魔王を見つけて倒そうとしたら、世界が俺たちを拒絶して相打ちにさせたくらいですから」
「この前の…世界?」
「え、マジで先輩、今までの転生の記憶ないんですか」
これには他のみんなも驚いた様子で。ええ?そんなにおかしな事なのかな?
「だって、ないものはないんだし、しょうがないじゃない」
ちょっと落ち込むなぁ。
他のみんなと違うから差別されてきた。だからちょっぴり嬉しかったんだ。私のような異端者たちが他にもいて、自分らしく生きてて。
ああ、私は私で居ていいのかぁ。って安心もしてたのに。
まさか、この中でも私は異端者だったなんて。
「ところで、猫又さんの黒影…こーちゃんは、なぜ社長さんのはじめの世界の名前のあだ名を知っているの?」
「え、なに、知ってる奴いるの?って」
くるりと振り向いたら、そこに猫耳生やした二十代後半くらいの黒髪の男子が。その隣に人懐っこそうな顔瓜二つの、白い髪で白い耳生やした男子
「この方たちどなた?」
「あらあら。猫又さんたちよ?ちーちゃん。こーちゃんは、ちーちゃんと会ったっていってたけど」
こーちゃんってまさか、黒影のあだ名っすか母さん。
「会った?どこで??」
そこで、その黒影っていうヤツが言いにくそうに眉間に皺をつくりながらぽつりと言った。
「崩れ行く廃墟…」
「ああ、あの時の。って、あの化け猫?!あんたあの時、15歳くらいの少年に化けるもんだからてっきり、それ以上のはできないと思ってた!」
「俺たちを見くびりすぎだぞ…」
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