第24話 自分の色

「よし、やるか」

「よしっ」

 淡い黄色の服の青年が言って、薄い桃色の服の女性が同意した。

「よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします」

 赤い服の少女と深緑色の服の少年が、対戦相手に礼をした。

 ロングヘアのヤヨイを、短髪のカケルが見つめた。笑顔を返されて表情が緩む。

「普段どおりでいいぞ。二人とも」

「公式戦も普通の広さだね」

 エミリが見つめるのは、半径約50メートルの広場。

 クリーム色。まるい。

 建物内部はそれよりも広い。戦闘空間を模したドームになっている。

 撮影機材がずらりと並ぶ。

 それぞれの装置の近くに人が立つ。撮影を行うため、周りには十分なスペースがあった。

 チーム・プロングホーン対ヤヨイ組。

 試合開始。

 光のドームは、建物よりはるかに大きく膨らんだ。

 広場の中で、四人が精神体に分離する。

 東側。

 濃い黄色の服になったレオンが前に出る。服の下、細身の身体に纏うのは、筋肉の鎧。

 エミリは桃色の服になった。艶めかしい姿態は動かない。

 西側。

 白い服になったヤヨイが前に出る。スカートは揺れない。精神体だからだ。

 カケルは緑色の服になった。止まって様子を見ている。

 二人が向かい合う。刹那。

 レオンとヤヨイの身体のあちこちから、同時に光がほとばしった。

 高速で動く二人が、短剣と剣で火花を散らす。

 空中に浮かぶゲージ。二人の顔が下に表示されていて、すこしずつ上から減っていく。

 多重推進スラスターは精神力の消費が激しい。


 黄土色の机の上。ディスプレイに、試合の様子が映っている。

 白っぽい壁に囲まれた、タクミの部屋の中。

 ベッドの右端に座るカイリが、はずんだ声を出す。隣のコスミは目の大きさを変えない。

「お互いを信頼していないと出来ませんわ」

「2対2なのに」

 シロガネは真ん中に座っている。

「押すなよ。狭いんだから」

「私たちより強いものね。カケルは」

 五人同時に座れる場所はベッドしかなかった。

 スズネとタクミが押し合う。

「楽しそうだろ」

 左隣のタクミに言われて、苦笑いに近い微笑みの少年。人の温もりに触れ、戸惑いを隠す。

 しかし、隣の少女は気付いていた。ほとんど顔には出さない。

 画面の中の二人は、底抜けに明るい表情だ。


 クリーム色の、まるい広場。

「少し遊び過ぎたな」

「しょうがないなあ。回復カイフクしてあげる」

 レオンに触れたエミリが、能力を使った。

 空中に浮かぶレオンのゲージが、3分の2回復する。

 代わりに、エミリの上部分が消えていく。3分の1減った。

 ヤヨイのゲージは、約半分。

「カケル。ここからが本番」

「黙って見てないで、とめようよ」

 嬉しそうな少女に対して、冷静に話す少年。

 正論を言っているように見えて、本人も回復を止めようとしなかった。

「いくよ!」

「ヤヨイ。全力でいこう!」

 短髪の少年が微笑んだ。


「いつもながら何やってんだよ」

「あの二人らしいじゃない」

 タクミとスズネは押し合うのをやめて、試合を見ていた。

 シロガネの目は画面に釘付けだ。

「増えるかな、これで。参加者」

「二の足を踏んでいた方々が、公式戦に興味を持つかもしれませんわ」

 猫目のコスミが、隣の少年を見る。カイリはいつにも増して半目だった。


 足の横を光らせたヤヨイが、広場の上へ大きく跳んだ。

 カケルは先行している。何かの能力を使った。

 ヤヨイの下に、大きな四角い壁が現れた。斜め向きで空中に静止している。

 壁の上に着地した少女が姿勢を低くする。

 すぐに壁が動く。上面が勢いよく飛び出した。ヤヨイが射出される。

 厚さが半分ずつになった壁は、それ以上動かない。表と裏を繋ぐのは、ばねのような部分。

「まあ、上からだよな」

「任せて」

 東側に立つレオンとエミリ。

 桃色の服の女性が、構えた手から光の弾を発射した。

 弾は斜め上へ飛ぶ。

 濃い黄色の服の男性は、走って近付くカケルを警戒している。

 うえから声が響く。

「任せる!」

「僕がなんとかする」

 叫んだヤヨイの前方に、水平に近い角度で壁が現れた。

 手足を使いはじいた少女が、すこし方向を変える。

 弾は天井へ消えていった。

発条ばね

 予告したカケルが、能力を発動。

 壁が地面と垂直に出現。それに向かって走る途中で、別の壁が出現している。

 ばねつきの壁を蹴って飛び出す前に、さらに別の壁が出現。

 カケルは、いくつもの壁を中継してレオンとエミリに迫る。

「来るぞ!」

「こっちも」

 上。高い場所にいるヤヨイは、壁の裏面を走っていた。

 ばねが作動しても、裏面は動かない。

 次々と出現する壁。ばねが飛び出してから少し経って、消えていく。

 ヤヨイは、壁の上を走って近付く。すでに、グラフ跳躍チョウヤクを解除していた。

 壁が、下からの弾を防ぐ役割もこなす。

 下と上を気にするレオンとエミリ。足元に、広範囲にわたって壁が現れた。

「うちを抱えたら――」

 エミリを横抱きにしたレオンは、全身を光らせて跳んでいた。光が噴射し、滞空する。

 地上でばねが作動する前に、二人は壁に囲まれた。

「ほら」

「悪い。暗いな」


 タクミの部屋。

 ベッドに並んで座る五人は、同じ方向を向いている。

「ヤヨイは、ここにいる連中の能力、使えるんだぜ。ヤバイだろ」

 部屋の主の言葉に、白い服の少年は答えない。

 机の上のディスプレイに注目している。

「これからどうする?」

 スズネは、真ん中に座る少年に聞いた。

 シロガネは何も言わない。

「せっかくのランクAですから、専用の広場を借りて欲しいですわ」

 ずうずうしいカイリ。

 反応がない。シロガネは、能力バトルの試合を見ている。

「聞く必要ない、そんなこと」

 コスミが、珍しく感情を、色を外に出した。

「……ああ。ぼくが決める」

 少年も同じく。その瞳に映るのは未来。


 夏は、すぐそこまで来ていた。

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色のない夢 多田七究 @tada79

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