第二章 黄緑と赤茶と青紫

第5話 ガイ対シロガネ

 町の北でバスから降りた三人。

 荷物を持った細身の青年と、同じような荷物を持ったスタイルのいい女性。

 そのうしろを少年が歩く。

 頻繁に左右を向く、もさもさとした黒髪。背はあまり高くない。

 昼を過ぎ、すこし傾いた日が街の気温を上げている。街路樹がならぶ歩道の側には、四角い建物が多い。

 光る円形のドームをすり抜け、中に入る三人。誰かが能力バトルをしている。

 黄土色の広場が見えてきた。広い道に面していて、まるい形。

 となりの建物上部に設置された傘が、広場への日差しを軽減していた。

 戦っているのは緑と青。

 ともに十代後半の男性。弾が飛び交う。空中に浮かぶ表示は丸。模擬戦だ。

 南側から、赤茶色の服の男性が見ている。同じく十代後半。

 広場の半径は約50メートル。円の外側にベンチが並ぶ。たくさんの見物人が座っている。

 丸が消え、光のドームも消えた。

 おだやかな雰囲気の二人は、黄緑色と青紫色の服になった。

 見物人が二人に集まって、離れる。多くは再びベンチへと戻った。

 淡い黄色の服を着た青年が、明るく話しかける。

「チーム・ジョーガイダン。頼みがある」

「なんでも言ってくれ! チーム名を覚えてくれて嬉しい!」

 黄緑色の服の男性は即答した。続いて、黒髪の少年に自己紹介する。

「ワシはリーダーのジョー」

 白い服の少年は、とがった髪を見つめた。何も言わなかった。

 細身のレオンが少年を紹介する。

「シロガネは、さっきまで能力バトルを知らなかった。普段は喋らないが」

「バトルだと喋る。口悪いよ」

 スタイルのいいエミリが続きを言った。


「オレはガイ。拳法家だ」

 赤茶色の服の男性が、力強い声を出した。

 シロガネは、太い眉毛を見つめている。

「ボクはダン。よろしく」

 青紫色の服の男性が気さくに伝えた。

 シロガネは、癖のある髪を見つめている。

「力をビシビシと感じるぜ。シロガネ、まずはオレからだ」

 やる気満々で、白い歯を見せるガイ。

 レオンとエミリが話し合って、戦うかどうかをシロガネに尋ねる。

 ガイとシロガネが模擬戦をすることになった。

 お互い同意して、戦闘空間が広がっていく。

 ジョーとダン、レオンとエミリは、広場の外にある選手用ベンチへ移動。南側。

 光の壁に包まれて精神体が分離。赤い服のガイが現れた。

 東寄りに立っている。

 同じように精神体が分離したシロガネ。灰色の服に鎖が巻きついている。

 西寄りに立つ。塗装されたコンクリートの上に立つ者は二人だけ。

 戦闘空間は、広場の倍以上に広がって止まった。

「オレの能力はガード割りだ。防御できないから気を付けろ!」

 大声で説明するガイ。

「バカか。届かないと意味ないだろ」

 低い声を出したシロガネの足元に、闇が広がっていく。

 エミリとレオンは頭を抱えている。

「もうすこし柔らかく言ってよ」

「やはり、精神体になると心の状態が強く出るな」


 灰色の少年は、足元の黒い領域を広げた。

 赤い服の男性が範囲に入った。仁王立ちを続けている。

「攻撃しないのか?」

「オマエから来い。オニイサンが、やれ、って言うからやるだけだ」

「オレはガイだ。やる気、出させてやるぜ!」

 二人は対照的な表情をしていた。

「おにいさん、だって。聞いた?」

「分かったから、バトルを見よう」

 ベンチに座るエミリとレオンの温度差も激しかった。


 半分ほどが黒く染まった丸い広場。

 黄土色の部分が東側に残る。三日月のように見えた。

 すぐに赤色が動く。黒い部分の中心を目指して歩くガイ。突然、身体を左に傾けた。

 空を切った黒い刃が、凍りついたように固まる。

「相性悪いな、これは。おっと。こんなこと言ったらタクミに怒られるな」

 太い眉毛に力を入れながら、ガイは口元を緩ませた。

「これはきつい」

「いい修行になる、って思ってそう」

 ジョーとダンが観戦していると、レオンとエミリが荷物を手に移動してきた。

 対戦相手用のベンチが空になったことに、歓声を上げる見物人たちは気付いていない。

 同じベンチに座って、四人は雑談を始めた。


 黒い地面から刃が伸びて、止まる。

 攻撃には、すこし間がある。ガイは避けながらシロガネに近付いていく。

 6回目の攻撃を回避している最中、7回目の攻撃が襲った。

 黒い刃が、右に傾いたガイに迫る。

 右肩に現れた半球体の光の壁が、攻撃を受け止めた。

 その直後、同時に5つの刃が囲むように発生。

 すぐさま刃の横に跳び乗り空中に退避したガイを、13番目の刃が捉えた。

 東側の空中に浮かぶ丸。縦に並ぶ3つのうち1つが消える。

「同時に出せるのか。手強いな」

「喋る暇があるなら攻撃しろ」

 灰色の服のシロガネが悪態をつく。ガイは固まって残る刃を見ていた。

「面白くないだろ、それじゃあ」

「は?」

 刃が水の中へ沈むように消えていく。辺りは再び平らになった。

「燃えるぜ!」


 足元から伸びる刃が、的確にガードされていく。

 一瞬、反応が遅れた。

 6つめの刃が赤い服に当たる。男性は表情を変えない。

 前に進んだ。

 ガイは右手を構え、伸びる途中の刃をガードで弾いた。

 すでに半球体の光の壁はない。弾いた瞬間にガードを解いていた。

 左から伸びる刃を即座にガードする。

「見えた!」

 ガイの間合いにシロガネが入った。

 攻撃態勢をとる前に、四方向から刃が伸びる。

 小さな光が順番に現れた。地面から伸びる刃を、四連続で防ぐ。

 ガイの正拳突きがシロガネを捉えた。

 鎖に縛られた少年は動かない。西側の空中に浮かぶ丸が1つ減る。

 間髪入れずに、後ろから伸びた刃もガードするガイ。

「よし!」

 叫んだガイは自ら距離を取る。目の下にくまがあるシロガネは、睨んでいた。

 すでに、ガイの丸は残り1つになっている。

「チャンスだろ、今が!」

「まあ、ガイだから」

 ジョーは熱くなって、ダンは笑っていた。

「反応速度おかしいよ。本当に人間?」

「おれもガードの練習をしないと」

 エミリとレオンはガイを褒めていた。


 地面から伸びる黒い刃。

 赤を取り囲むように現れ、八角形のドーム状になる。

 中は見えない。

 ガイの丸が全て消え、決着した。

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