第6話 ダン対シロガネ

 ガイとシロガネは、見物人に取り囲まれていた。

 慣れた様子で話すガイと、何も言わずお金を受け取るシロガネ。

 人が離れて、黄土色の広場が静かになる。

 赤茶色と白色が、南のベンチへ移動していく。

「次はダン。いってこい」

「いいかな?」

「勝手に決めるな。いや、リーダーらしく最後がワシか」

 ジョーが納得して、すぐに模擬戦が始まった。

 荷物を置いているレオンとエミリは、ガイと話し始めた。


 広場の倍近い広さまで、光のドームが包んでいる。

 二人は精神体に分離した。

 青紫色の服だったダン。青い服になって、東寄りに。

 白い服だったシロガネは、灰色の服。鎖が巻きついている。西寄り。

 ダンは一目散に広場の東へ走っていった。

 闇を広げたシロガネが、低い声で呟く。

「正しい判断だな」

 地面の黒い円の外。ダンは、掌から光の弾を発射した。速度は遅い。

 リンゴほどの大きさ。

 下から伸びる刃。弾に当たらなかった。

 まるで生き物のように、方向を変えて曲がる弾。

 複数の刃が同時に伸びた。命中。動きを封じられ、弾は消えた。

「それだけか」

 シロガネは重い鎖に抗って、少しずつダンへと移動していく。

「うーん。どうしよう」

 ダンが連続で撃った速い弾は、全て黒い刃に防がれた。


曲射キョクシャと通常弾の同時攻撃だ!」

 とがった髪の男性が、南側のベンチから立ち上がって叫んだ。

 隣の太い眉毛の男性は、不敵に笑っている。

「ついに完成した?」

「興味があるな」

 垢抜けた女性と細身の青年が、ベンチから身を乗り出す。


「仕方ない。明らかに格上だ」

 青い服の男性は、遅い弾を10発撃ち出した。

「でも、手の内を見せたら、次の試合が」

 ぶつぶつと呟きながら通常弾も発射した。

 灰色の服の少年から離れた場所を、遅い弾が飛んでいる。

 速い弾がそれに当たる。

 列車並みの速さの通常弾は、すこしだけ向きを変えた。

 クッションの役目をした遅い弾が、はじかれて上空へ飛んでいく。

 1つめの刃が速い弾を防いだ。

 シロガネの歩みは止まらない。

 同じように向きを変えた通常弾を、2つめの刃が防ぐ。

「遅すぎる」

 イライラしている様子の少年。地面の闇は、まだ相手に届かない。

 遅い弾がシロガネの周りに集まる。その数8個。

「当たれ!」

 広場の隅を反時計回りに走りながら、ダンは通常弾を連射した。

 3つめの刃に防がれる。

 遅い弾もシロガネに迫っていた。それぞれ別の動きをしている。

 8つの刃が、同時に8個の弾を捉えた。

 黒い地面には11の刃が固まっている。少年が呟く。

「これで」

 闇の内から伸びる12個目の刃が、ダンの目の前まで突き出す。

「終わりだ!」

 ダンが叫んだ。遅い弾がシロガネの頭上から迫っていた。

 うしろの弾がぶつかって、前の弾がすこし加速する。

 地面から突き出ている刃が邪魔で、相手がよく見えない。しかしダンの狙いは正確。

 シロガネは、半球体の光の壁で防いだ。

 残り1個の遅い弾が迫る。曲がった。光の壁はまだ消えていない。

 ガードが間に合わず、シロガネに弾が当たる。

 同時に、闇の端から刃が伸びていた。観客が騒ぐ中、ダンも攻撃を受けた。


 13個の刃が地面の闇へと消えていく。

 黒い円の中心には、灰色の服の少年。髪は黒い。

 身体を縛る鎖に抗って、足を出す。

 腕はほとんど動いていない。

 ゆっくりと進んだシロガネは、闇の範囲にダンを捉えた。

「広場から出たら怒られるだろうな」

 青い服の男性は、走りながら通常弾を発射。さらに撃つ。

 あっさりと刃で防がれる。

 足元から次々に刃が突きだし、東側に浮いている丸は全て消えた。


「地面全部がフィールドなら、いい勝負だったかも」

 青紫色の服になった男性は微笑んだ。

 すでに戦闘空間は消えて、精神体も肉体に戻っている。

 見物人に囲まれるいつもの出来事も終わっていた。

 ジョーが真剣な顔で断言する。

「そこまで強い者が二人現れるなど、考えにくい」

 基本的に、戦闘空間は能力者が強ければ広くなる。

 シロガネ以外の全員が同意した。

「根性を見せたな。シロガネ」

 もさもさした頭をわしづかみにするガイ。

 黒髪の少年は、目を半開きにして固まっていた。

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