第11話 チカコ対シロガネ

「集まって何をしている」

 薄紫色の服の女性は、威圧感を放っていた。見物人たちが一歩引くほどだ。

 つり目が睨むのはジョー。

 近くに立つガイとダンは何も言わない。

 ベンチに座るカイリとコスミも、隣の少年も、レオンとエミリも黙っている。

「ワシに聞くとは、さすがチカコ」

 とがった髪の男性が動じる様子はない。シロガネのほうを向いた。

 説明する前に、チカコが喋り出す。

「さっき感じた力は、お前か」

 二十代前半の女性は、白い服の少年の前まで歩いた。

 シロガネはベンチに座ったままで、目を合わせようとしない。

「話さないね。バトルだと話すよ」

「信じられないことに、今日が初めてで。模擬戦しか経験がない、ですって」

 となりに座るコスミと、カイリが説明した。

「御託はいい。能力バトルだ」

 チカコの言葉を受け、シロガネが立ちあがる。

 薄紫と白が、黄土色の中心へ。まるい広場に移動していった。


 戦闘空間が広がる。

 観客や、ベンチに座った人をすり抜けていく。

 広い道を挟んだ西側の建物に、傘がある。すっかり傾いた日の光を和らげてくれる。

 その近くの街路樹が範囲に入り、止まった。枝の小鳥は、光のドームを気にしていない。

 広場の東寄りに立つのは、薄紫色の服のチカコ。

 西寄りに立つのは、灰色の服に鎖が巻きついたシロガネ。

「生身? バトルじゃないのか?」

 もさもさとした黒髪の少年は、状況が理解できていない様子。

 空中に、縦に長いゲージが浮かぶ。下側に少年の顔が表示されて、精神力を表している。

 東にもゲージがある。

「分離できるのか。まあいい。ワタシはこのままでも戦える」

 女性の右手の甲から、光の刃が伸びた。すぐに縮む。

 左の肩から伸びた刃は、複雑な曲線を描いて曲がる。やはり縮んで消えた。

「相変わらず優しいな」

「道場破りの異名を持つとは思えないね」

 南側のベンチに座るレオンとエミリは、チカコを評価していた。


「やりづらいな」

 低い声で呟いた少年の足元に、闇が広がっていく。

 広場の黒く染まっていない部分が、三日月のように見えた。

 チカコは、闇を気にする様子がない。あっさりと足を踏み入れる。

 黒い水面の揺らぎに反応して、チカコは動かなかった。

 足元から伸びた黒い刃は、右腕をかすめて天へ向かう。凍ったように固まった。

「あれだけの範囲に能力を使って、ゲージをほとんど消費していない、だと」

「面白い」

「遠くから弾で削るのは難しそうだね」

 立って観戦する、チーム・ジョーガイダンの三人。シロガネを分析していた。

「いいだろう。分離するぞ」

 宣言したチカコの身体が光の壁に包まれた。

 光の壁から精神体が現れた。赤紫色の服になっている。

 一歩踏み出したチカコの足元から、黒い刃。

 チカコは無視して歩く。足の裏に発生させた小さな刃で防いでいた。

 右からの攻撃は右腕の刃で。

 足元からの攻撃は、足の刃で防いでいく。

 同時攻撃も、同じように刃を伸ばして防いだ。

 つり目の女性は歩き続ける。

 闇から突き出て固まった刃は10個。

「分が悪いわ」

「仕方ない。戦闘経験の差」

 ベンチに座っているカイリとコスミは、シロガネを応援していた。


 歩いていたチカコが速度を上げた。

 11個目、12個目の黒い刃を防ぐ。

 13個目の黒い刃を防いだチカコは、シロガネの目の前に迫る。

「見ろ。消費した精神力だ」

 鎖に縛られた少年は、言われたとおり自分のゲージを眺めた。

 上側がわずかに透明に見える。ほとんど減っていない。

「だからどうした。さっさと攻撃しろ」

「なぜ、わざわざ固体を形成する?」

 13個の黒い刃が地面から突き出ている。それを眺めるシロガネ。

 刃は黒い地面に沈んでいく。

「液体を維持したまま動かすのは難しい」

 右手を握り、何かを出そうとした。形を成さず、黒い霧が噴射して消える。

「次までに練習しておけ。ヤイバではワタシに勝てない」

「次、か」

「話は終わりだ。いくぞ!」

 つり目の女性は、すこし後ろに下がった。拳法の構えをとる。

 微かに笑みを浮かべていた。

「どいつもこいつも楽しそうな顔しやがって」


 黒い足元から伸びる刃を、チカコの身体から伸びる刃が防ぐ。

 隙を見つけては素手で攻撃するチカコ。

 シロガネのゲージは半分減っていた。

 これまで3回発生させた液体の鞭は、ことごとく命中している。

 チカコのゲージは、上から3分の1が空になった。

 勝負が決するまでに使った液体攻撃は8回。

 チカコのゲージは残っている。

 シロガネが、鎖に大きく抗って動くことはなかった。

 二人の精神体が肉体へと戻る。

「痩せているな。ちゃんと食べろ」

 薄紫色の服の女性が言った。

 戦闘空間が消えていく。

 白い服の少年は、すこしだけ表情を緩めた。

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