第12話 夕焼けの色
見物人に取り囲まれるチカコとシロガネ。
つり目の女性が、ぶっきらぼうに応対する。
すこし困ったような顔で、お金を受け取るチカコ。珍しくその場にとどまった。
見物人が離れた。歩き始める二人。
チカコは、南側のベンチの前で眉を下げる。
「もうすぐ日も暮れる。どうする? こいつは」
「そういえば、ランクがないぞ。シロガネは」
ジョーが驚いたような表情で、みんなの顔を見た。
レオンとエミリがいないあいだに、ランク取得を拒否されたことを伝える。
「オレの家に泊まるか?」
ガイの言葉に、シロガネの反応は薄い。
半目ぎみのカイリが不敵に笑う。
「わたくしの家に泊まりましょう。泊めます」
シロガネは拒否反応を示していた。
「嫌がってないか?」
レオンの指摘にも、カイリが動じることはない。
自宅に泊めることができないレオンは、強く言えなかった。
「じゃあ、よろしく」
エミリは広場の南東へ歩き出した。
レオンもあとを追いながら、振り返ってシロガネに声をかける。
「また明日な」
その場にとどまったのは七人。
猫目のコスミは、口元が緩んだカイリを見て口を尖らせる。
「自分のことを優先したほうがいい」
「またな」
すこし悲しそうな顔のチカコが、広場を去っていく。
「晩飯にするか。何食べる?」
「栄養のバランスを考えないと」
「リーダーのワシを置いていくな!」
ガイとダンとジョーも、どこかへ歩いていった。
黄土色の広場に残ったのは、カイリとコスミ。
そして、シロガネ。
「楽しみね」
「……」
「いこうか。西だよ」
灰色の二人と白色の一人は、西へと歩きだす。
戦闘空間はない。鎖に縛られてもいないのに、少年の足取りは重かった。
能力者の聖地は広い。地下を列車が走っている。
三人は、駅で降りて階段を上がった。広い歩道を進む。
夏はすこし先。日が傾いて、気温は下がっていた。樹の影が並んで伸びる。
町の西に位置する、小さな和風の平屋。
くすんだ木造の家には、他国の建築様式が使われている。この広い大陸では珍しい形。
入り口に郵便受けがある。小墨、灰理という文字が並ぶ。
「いろいろ買ってきますわ」
自宅に戻ったばかりのカイリが出ていった。
シロガネは玄関に立ち尽くしている。
「入らないの?」
廊下に立つコスミが、すこしだけ眉を下げた。
少年はゆっくりと靴を脱ぐ。
少女の後ろをシロガネが歩き始めた。
同い年くらいの二人は、背の高さも同じくらいだ。
「変じゃない? この部屋」
シロガネは何も言わない。
案内された場所は、コスミの部屋だった。
濃い灰色の座布団が2つある。
1つにコスミが座って、もう1つにシロガネが座る。
可愛らしい部屋だ。
部屋の主と同じ、素朴な和の趣がある。
「狭い?」
シロガネの反応はない。正座して向かい合うのみ。
「ランクBだから。あたしもカイリも」
猫目の少女がランクの説明をする。
Bの人は多くない。
大多数の人は、ランクU相当。地元最強でも、Fに届かないことが多い。
「もうちょっとで上がれそう。A」
Aはすくない。中心街の広い家に住めるらしい。
もさもさしたくせ毛の少年は、正座したまま聞いていた。
「嫌じゃない? 泊まるところを勝手に決められて」
「……別に」
シロガネは呟いた。
外は夕焼けに染まり始めていた。
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