第20話 色、外に現る

 緑色の広場の中心に、見物人が集まっていた。

「私、用事があるから。みんな来て」

 人ごみをするりと抜けて、おさげのアイムは手を振った。

 朝日の中、青い服が遠ざかっていく。

 シロガネは、見物人に囲まれて困惑している。北側から四人が近付いていった。

 紺色の服のタクミは、長身のため目立つ。

「期待の新人だぜ。なんと、能力バトル歴二日」

「ほぼ一日じゃない?」

 橙色の服のスズネの言葉で、驚きの声が上がった。

「わたくしたちのチームに入ってくれないかしら」

「勝手に決めちゃダメ。でも、荷物あるから一度は戻らないとね」

 カイリの頬が緩んでいるのを見て、コスミの猫目がすこしだけ細くなる。


「面白いものが見られたな」

「熱くなってる?」

「基礎練習ってやつを見せてやろうぜ」

「いいわよ」

 見物人が広場から出たあと、タクミとスズネが模擬戦をすることになった。

 光のドームが広がっていく。

 たれ目ぎみの少年が、精神体に分離。青色の服になる。

 東側に立った。

 つり目ぎみの少女も、精神体に。黄色の服になっている。

 西側でウインクする。

 広場の北にある白い建物はもちろん、道や街路樹が次々とドーム内に入る。

 戦闘空間が広がるのを止めた。半径約50メートルの広場の、6倍。

 とうぜん、北に座って観戦する三人も、範囲に入っている。

「やはり、広さはこのくらいですわ」

「強いからね。二人」

 半目ぎみのカイリは偉そうな態度。

 猫目のコスミは納得していた。

 二人のあいだに座っているシロガネは、何も言わなかった。


 足を止めずに光の弾を放つスズネ。

「運動不足じゃないの?」

「お互い、に、なっ」

 タクミも走っている。回避とガードの合間に弾を発射した。

 リンゴほどの大きさの弾が飛び交う。

 弾速は、列車の最高速度を超えている。

 黄色の服の少女と青い服の少年は、会話しながら機敏に動き続ける。

「そういえば、飛行ヒコウ

「ん? さっきの、アイム?」

「使わなかったわよね」

「あの刀が、何か、すごいんじゃないか? いや、知らないけど」

 精神体は呼吸を必要としない。

 タクミの言葉が乱れているのは、余裕のなさによるもの。

 つまり、相手のほうが通常弾に長けているということである。

 広場を見るシロガネの目は、忙しく動いた。

「わたくしたちも、あれくらい出来るように」

「なりたいけど、二人ともタイプは近接」

「苦手分野に対応できないと、Aになれないかしら」

「借りたいね、こんな広場」

 カイリとコスミの雑談中も、青と黄色は目まぐるしく動く。

 まだ、どちらの丸も減っていない。


 白い服の少年は、真剣に広場を見ていた。

 灰色の服の二人に挟まれている。

「まずは、通常弾の練習からですわ」

「練習だよね。やっぱり」

「しかし、速さと弾の維持の両立が」

「維持苦手。あたし」

 ランクAになっても、シロガネに目立った変化はない。見かけ上は。

 会話に加わろうとしなかった。

 スズネとタクミの模擬戦は、20分続いた。

 東から昇った日は、今日も相変わらず丸い。


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